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EU農政下における家族制農業生産についての民族誌的研究(2020-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

杉本敦

目的・内容

本研究の目的は、EUレベルの農業・農村政策と共通市場の影響下におかれたルーマニアの家族経営農家を対象に、その生活実践の多様性と柔軟性を文化人類学的なフィールドワークによって明らかにすることにある。家族制生産を支えてきた地域の経済的・社会的システムも、超国家的な政治経済構造や自然環境の悪化を背景に変化を迫られている状況において、どのような意思決定が経営を可能にするのだろうか。こうした研究を通して、家族制農業生産の機能と変容についての理解を深めることを目指す。EUのみならず日本をも視野に収め、食料安全保障のためのより効果的な農業・農村支援について考える手がかりを提示するつもりである。

活動内容

2021年度実施計画

新型コロナウイルスの流行については見通しが立たない状況ではあるが、好転した場合に備えて、現地調査ができるように準備を進めておく。同時に、オンラインや通信によって可能な限りのデータ収集を行う。また、地域の歴史的文脈の再検討と他地域との比較研究についての文献研究を推進し、研究の下地づくりと柔軟な研究枠組みの再構築に取り組む。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、EUレベルの農業・農村政策と共通市場の影響下に置かれたルーマニアの家族経営農家を対象に、その生活実践の多様性と柔軟性を文化人類学的なフィールドワークによって明らかにすることにある。しかし、新型コロナウイルスの流行拡大に伴い、ヨーロッパに渡航・滞在しての資料収集は不可能な状況となった。そのため、文献研究を中心的な手法に切り替える必要が生じた。
本研究は、家族制農業生産の機能と変容についての理解を深めることをより大きな目標に、家族制生産を支えてきた地域の経済的・社会的システムの変容をも視野に収めるものである。その点を踏まえ、文献研究は、地域社会の歴史的文脈の見直しと他地域との比較の2点を念頭に置いて進めた。その際、家族制という点に加え、自給自足的なサブシステンス・エコノミーとしての側面に注目した。
地域社会の歴史的文脈に関しては、社会主義時代のルーマニアの集団農場に関する資料の再検討を行った。集団農場では、組合員を農業労働者に転じて広く国内に供給するための食糧生産を目指したが、農村住民は賃金ではなく、自家で消費できる農作物の分配に拘りを持っていた。契約生産や個人用益地という集団農場内の制度は、それに応えたものだった。ルーマニアのサブシステンス・エコノミーは、脱集団化によって再生したのではなく、社会主義時代を通じて維持された点に留意する必要性を見いだした。
他地域との比較では、東南アジアやアフリカを対象とした経済人類学の成果との比較検討に着手した。これらの地域では、モラルエコノミーや情の経済という概念を手がかりに、より大きな政治経済的構造の中での農業・農村の変化が論じられてきた。EU農政下に置かれたルーマニアの状況を理解するにあたり、これらの地域との比較研究の必要性を改めて確認した。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

当初の予定では、令和2年度内に2度の現地調査を予定していた。しかし、コロナウイルスの流行拡大に伴い、その実施が不可能となり、新しい一次資料の収集を行うことができなかった。