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東南アジアへ拡散したオーストロネシア語族の土器・埋葬文化に関する学際的研究(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(開拓)

小野林太郎

目的・内容

本研究は、①考古学的な発掘調査の実施と②人類学的な人骨の科学分析により、海域アジアの大半を占める東南アジア島嶼域へ新石器文化を持ちこんだ初期オーストロネシア語族の実像に迫る挑戦的研究である。本研究の方法論的特長は、従来の研究では各地域で個別にしか行われていなかった土器の分析を、共通の視点や新たな分析手法も取り入れ、同時に行う点にある。また本研究の方法論における二つ目の特徴は、インドネシアとフィリピンの両地域を対象とした発掘調査の実施に加え、出土が予想される土器や副葬品の考古学的分析と、埋葬古人骨の形態やDNA解析も含めた人類学的分析の両分野からの複合的な比較分析を同時に行う点にある。こうした学際的なアプローチにより、初期オーストロネシア語族の物質・葬送文化を明らかにするのが目的となる。同じくオセアニアも含めた新石器時代における物質・葬送文化に関しても、マクロな視点からの総合的な検討を行う。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本年度に計画していたフィリピン、およびインドネシアでの海外調査(発掘)はいずれもコロナの影響や、調査の再開に必要な諸手続きがコロナ前よりも複雑化したことの影響を受け、年度内に実施することはできなかった。そこでこれまでの研究・発掘調査により収集されていた新石器時代以降におけるオーストロネシア語族の土器や埋葬文化に関わる考古学的資料の分析と整理を積極的に進め、その成果をIndo-Pacific Prehistory Associationなどの国際学会で公表した。またインドネシアの考古資料においては、鋸歯印文土器の詳細に関するデータを整理し、これらの成果の一部を学術論文として投稿するための執筆準備を進めた。
比較の視点からは、東南アジアやオセアニアの熱帯島嶼環境と類似性の高い、亜熱帯島嶼となる琉球列島の先島諸島に注目し、その中心的位置を占める宮古島と石垣島での発掘調査を継続実施した。今年度の発掘では、とくに宮古島での洞窟遺跡で土器片や魚骨などを伴う炉跡の検出を行ったほか、その周囲で人骨も出土が確認され、本科研の目的を遂行する上で重要な発見があった。また初期オーストロネシア語族の移住期と並行する遺跡として、波照間島の下田原貝塚遺跡から出土した魚骨の再同定分析のほか、同位体分析の準備も進めている。これらの研究から、当時の人類集団による漁撈活動や漁撈戦略の復元にもアプローチし、オーストロネシア語族による八重山諸島への拡散問題への解明のほか、この島嶼域へと移住した人類集団の土器・埋葬文化についての考古学的資料の分析を進めることができた。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要でも指摘したように、本年度もコロナ等による影響により、当初予定していたインドネシアやフィリピンでの新たな発掘調査を含む海外研究は実施することができなかった。その一方で、沖縄の先島諸島で実施した発掘調査では、先行研究では確認されていなかった新たな土器文化や埋葬文化に関する知見やデータを得ることができた。またインドネシアを中心とする東南アジア島嶼を対象とした研究では、これまでのデータを基に複数の英語論文を国際学術誌に公表できたほか、国際学会での公表も積極的に行い、多くの反応を得ることができた。これらの成果も考慮した結果、当初の計画からは大きな変更を余儀なくされた状況は続いたものの、研究全体としてはおおむね順調に進展できたと評価した次第である。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本年度に計画していたフィリピン、およびインドネシアでの海外調査(発掘)はいずれもコロナの影響により実施することができなかった。そこで今年度も、インドネシアにおいてはこれまでの研究・発掘調査により収集されていた新石器時代以降におけるオーストロネシア語族の土器や埋葬文化に関わる考古学的資料の分析と整理を積極的に進めた。またオーストロネシア語族集団が東南アジアからさらに移住したオセアニアにおける考古学的資料についても、これまでの研究で収集されてきたミクロネシアを中心とする考古資料の分析や整理を進めた。
インドネシアの考古資料においては、鋸歯印文土器の詳細に関するデータを整理し、これらの成果の一部を学術論文として投稿するための執筆準備を進めた。また比較の視点から、東南アジアやオセアニアの熱帯島嶼環境と類似性の高い、亜熱帯島嶼となる琉球列島のうち、新石器時代期に台湾を起源とするオーストロネシア語族の土器文化の影響を受けた可能性のある先島諸島に注目し、その中心的位置を占める宮古島と石垣島での発掘調査を実施した。今年度の発掘では、オーストロネシア語族の移住・拡散が進んだ新石器時代期とほぼ平行期と推測される時期の文化層を石垣島で確認したほか、宮古島においては年代はまだ不明だが、かなり古いと推測されるミクロネシアに類似する土器片を発見した。
その他にやはり初期オーストロネシア語族の移住期と並行する遺跡として、波照間島の下田原貝塚遺跡に注目し、この遺跡から1980年代に出土した魚骨の再同定分析を進め、当時の人類集団による漁撈活動や漁撈戦略の復元にもアプローチし、オーストロネシア語族による八重山諸島への拡散問題への解明のほか、この島嶼域へと移住した人類集団の土器・埋葬文化についての考古学的資料の収集に着手することができた。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要でも指摘したように、本年度はコロナによる影響により、当初予定していたインドネシアやフィリピンでの新たな発掘調査を含む海外研究は実施することができなかった。その一方で、これまでの当該地域での発掘により収集済みであった未分析の考古・人類学的資料の分析を新たに進めることができた結果、先行研究ではほとんど論じられてこなかった新たな土器文化や埋葬文化に関する知見やデータを整理することができた。またその成果の一部についてはすでに論文投稿しており、次年度も継続して論文公表を展開できる段階にある。さらに新たに比較的視点の追求から、コロナによる影響が海外に比べてより限定的な、日本国内の琉球列島を対象とした遺跡の発掘を実施でき、想定以上の成果を得ることができた。これらの成果も考慮した結果、当初の計画からは大きな変更を余儀なくされたものの、研究全体としてはおおむね順調に進展できたと評価した次第である。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本年度に計画していたフィリピン、およびインドネシアでの海外調査(発掘)はいずれもコロナの影響により実施することができなかった。そこで今年度は、インドネシアにおいてはこれまでの研究・発掘調査により収集されていた新石器時代以降におけるオーストロネシア語族の土器や埋葬文化に関わる考古学的資料の分析と整理を積極的に進めた。
またオーストロネシア語族集団が東南アジアからさらに移住したオセアニアにおける考古学的資料についても、これまでの研究で収集されてきたミクロネシアを中心とする考古資料の分析や整理を進めた。インドネシアの考古資料においては、鋸歯印文土器の詳細に関するデータを整理し、東南アジアにおいてもオセアニアと類似した土器文化が実践されていた可能性を明らかにした。またこれらの研究により、インドネシアおよびミクロネシアにおける新たな土器文化や埋葬文化に関する知見・データを整理できたため、これらの成果の一部を学術論文として投稿したほか、さらに発表するための執筆準備にも取り掛かっている。
また比較の視点から、東南アジアやオセアニアの熱帯島嶼環境と類似性の高い、亜熱帯島嶼となる琉球列島のうち、新石器時代期に台湾を起源とするオーストロネシア語族の土器文化の影響を受けた可能性のある八重山諸島に注目し、その中心的位置を占める石垣島での新たな発掘調査を実施した。これは石垣島の東岸に位置するこれまで未発掘の洞窟遺跡で、今年度の発掘により、オーストロネシア語族の移住・拡散が進んだ新石器時代期とほぼ平行期と推測される時期の良好の文化層を確認した。またこれらの文化層からは人骨、土器片、獣骨など多数の遺物が出土したため、オーストロネシア語族による八重山諸島への拡散問題への解明のほか、この島嶼域へと移住した人類集団の土器・埋葬文化についての新たな考古学的資料の収集とその解明に着手することができた。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要でも指摘したように、本年度はコロナによる影響により、当初予定していたインドネシアやフィリピンでの新たな発掘調査を含む海外研究は実施することができなかった。その一方で、これまでの当該地域での発掘により収集済みであった未分析の考古・人類学的資料の分析を新たに進めることができた結果、先行研究ではほとんど論じられてこなかった新たな土器文化や埋葬文化に関する知見やデータを整理することができた。またその成果の一部についてはすでに論文投稿しており、次年度も継続して論文公表を展開できる段階にある。さらに新たに比較的視点の追求から、コロナによる影響が海外に比べてより限定的な、日本国内の琉球列島を対象とした遺跡の発掘を実施でき、想定以上の成果を得ることができた。これらの成果も考慮した結果、当初の計画からは大きな変更を余儀なくされたものの、研究全体としてはおおむね順調に進展できたと評価した次第である。