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インフラの時間性に関する人類学的研究:ラオスの流れ橋の事例から(2020-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援

難波美芸

目的・内容

本研究は、近年急速にインフラ整備が進むラオスにおいて、毎年乾季に設置される流れ橋に注目した人類学的調査を通して、インフラに埋め込まれた時間性と人間が生きる時間性の相互形成過程を民族誌的に描き出す試みである。舗装道路や永久橋などの近代インフラと、流れ橋のような非近代的インフラからは、一見、直線的時間と循環的時間という二項対立が読み取れそうである。しかし、これらの異なるモードのインフラが共在する中で生きる人々の生活の時間性には、このような図式には収まりきらない、複雑で動態的な絡まり合いがあると考えられる。本研究は、近代インフラが未来を指向する不可逆的な時間性を人々の認識にもたらすとしてきた、従来のインフラ研究の時間論と、人間活動を反映した生態学的時間の議論を展開してきた人類学の時間論を架橋し、インフラ整備と共に現れる社会変化を、異なる時間軸の発生と共存、競合という側面から捉えていく。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究の遂行には、調査対象とする「流れ橋」が作られる過程や使用のされ方と、橋を作る住民たちの生活に関する現地調査を行うことが必須である。そのため補助事業期間中は、各年度に一度ずつラオス調査渡航することを予定していたが、ラオスでは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、入国制限措置が取られている。交付申請時現在、ラオス-日本間の往来を近く再開させる方向で調整が進められている。しかし、今尚不確定な要素は多く、入国規制が再び強化される可能性は否めない。刻一刻と状況が変化する現在のような状況においては、研究計画においても、研究目的に忠実でありながら柔軟な対応と目的達成のための様々な工夫が求められる。2021年度にはラオスへの渡航が可能になっているという想定のもと、現段階での年度ごとの実施計画は以下の通りである。
2020年度は、次年度以降の現地調査の内容をより効率的かつ実り多きものにするため、事前準備と文献調査を集中的に行う。そこで、(1)従来の時間論における物質の取り扱いについて、哲学と人類学の先行研究から文献調査を進める。それによって、今後の現地調査で得られたデータの分析と考察に備え、レビューした内容は研究ノートとして『文化人類学』などの学術雑誌に投稿する。(2)調査対象であるラオス・ルアンナムター、および「流れ橋」が存在する調査対象村のマジョリティである黒タイ族に関する先行研究のレビュー及び様々な角度からの情報収集を行う。(3)日本国内に存在する「流れ橋」や「潜り橋」をはじめとする伝統的なインフラに関する基礎的な調査を行う。また、世界に存在する季節性のインフラに関する文献調査を行い、民俗土木技術についての研究を行う。
2021年度は、ラオスでの現地調査を行う。その際、(1)近代インフラが作り出す「未来」と「過去」、「現在」との関係、(2)伝統インフラが作り出す巡る時間とリズム、変化への対応、という2点の調査項目を設定する。(1)では、従来、直線的で発展的な時間認識をもたらすと考えられてきた近代インフラが、人々にどのような過去、未来、現在との関係をもたらし、どのような行動を引き出すのかを明らかにする。(2)では、流れ橋がどのような村の生活のリズムを作り出してきたのか、そして流れ橋の物質的特徴と設置にあたっての協働の在り方を明らかにするため、橋作りの技術と労働、役割分担に関する詳細な記録を取る。研究結果はIUAESの国際学会で発表し、論文として『文化人類学』などの学術雑誌に投稿する。
なお、本研究では、ラオスでの現地調査を行い、当該地域で暮らす人々へのインタビュー調査と、参与観察を実施する。調査対象者の同意と協力は不可欠であることから、調査対象者には本研究の目的と意図、研究発表の方法等について説明を行い、十分に理解してもらい、同意を得た上で本研究課題を遂行する。