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人類学における芸術研究の刷新:イメージ人類学の創成に向けた国際共同研究基盤の強化(2020-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))

代表者 吉田憲司

目的・内容

カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学の人類学博物館(MOA)と我が国の国立民族学博物館の間で実施する本国際共同研究の目的は、イメージの動態とそれが生み出す人間の経験のありかたを解析することで、イメージの多様性と普遍性を共に明らかにする「イメージ人類学」を創成することにある。それは、人類学における芸術研究を刷新するものであると同時に、人類学と芸術学を架橋するものでもある。
ここでいう「イメージ」とは、視覚的造形芸術だけでなく、音声やパフォ-マンス、さらには内的なイメージ(心像)をも含む。研究の対象をこのように拡大することで、逆にイメージの生成の中核にある芸術現象の特質を照射することが可能となる。それを通じて、人類学とアート(芸術)の研究を架橋することに留まらず、認知科学や動物行動学、霊長類学、音楽学、言語学、文学など、さまざまな関連分野との分野横断的共同研究に道を開くことも企図している。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

計画3年目にあたる令和4年度は、年度当初に新型コロナウイルス感染症による渡航制限が継続する中、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館(MOA)との共同研究はオンラインでの開催とし、特に先住民族の造形の生成原理とその著作権の管理について意見交換を重ねた。
研究代表者の吉田憲司は、MOAの研究者も参加する英国・イーストアングリア大学での国際シンポジウムで、博物館が生成する異文化イメージの在り方についての基調講演を行ったほか、ザンビアのコミュニティ博物館の現地ワークショップにオンラインで参加し、地域の振興に果たす博物館の役割について知見を深めた。また、国内において祭礼の創生とそのイメージの差異化について比較調査を進めた。
研究分担者の亀井哲也は、南アフリカへ渡航し、ヨハネスブルグのウィットウォーターズランド大学付属美術館にて、パンデミック下での大学教育や博物館活動について学芸員と意見交換を行なって情報を収集する一方、ンデベレ地域では、ビーズワーク制作者がビーズを「オリジナル」と「フェイク」に区分する語りに着目し、そのイメージの分類原理を明らかにした。
緒方しらべは、大統領選挙による政情不安定のためにナイジェリアへの渡航を回避し、日本国内にてナイジェリアでの調査協力者を介してラゴスでの展示のあり方と、地方都市イレ・イフェでのアートのあり方について、比較・検討した。また日本国内では、画家やミュージシャンらを研究会やイベントに招聘し、大学生らと交流するなかでインタビュー調査を実施し、アートの生成についての比較分析を進めた。
柳沢史明は、蒐集家とその室内展示に焦点をあてて研究をすすめた。とりわけ20世紀初頭のフランス人美術蒐集家の邸宅の室内装飾や美術作品の展示手法について、雑誌メディアやアーカイブ資料を渉猟し、蒐集におけるプリミティヴィズムの刻印を明らかにした。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

計画3年目にあたる令和4年度は、年度当初に新型コロナウイルス感染症による渡航制限が継続する中、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館(MOA)との共同研究はオンラインでの開催とし、対面での共同研究は実施できなかった。また、アフリカでの共同調査も、一部調査地域で内戦(マリ、モザンビーク、ザンビア国境地帯)、大統領選挙(ナイジェリア)等による政情不安により、研究協力機関と研究協力者の活動が制限され、当初の計画通りにアフリカへ渡航して共同研究・共同調査ができる状況にはなかった。
一方で、国内と現地とをオンラインで結んだ遠隔調査や共同研究会は積極的に実施して、共同研究機関との間で問題意識の共有をはかり、それを踏まえた国内での研究活動は着実に進めてきた。その一環として日本国内で実施した調査の結果、研究代表者の吉田がアフリカ・ザンビアで明らかにした、20世紀末以降の民族集団単位での祭礼の生成とその差異化の動きと平行する現象が、江戸期から明治初頭の日本国内各地でも確認できることが判明した。このことは、祭礼のイメージの生成原理の一端を解き明かしたことにほかならず、イメージ人類学の創成にむけた大きな研究成果だと受け止めている。
令和5年度には、こうした研究の成果も踏まえ、カナダと日本国内で対面による共同研究を実施して、これまでの知見を共有し、今後の課題を整理したうえで、アフリカにおける現地調査も実施することにより、芸術研究の刷新=イメージ人類学の創成に向けた作業を本格化させたい。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、博物館人類学の国際的2大中核研究拠点であるカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学の人類学博物館(MOA)と我が国の国立民族学博物館(民博)の間での国際共同研究を加速・強化し、それぞれのもつ研究の蓄積と学術資源を統合して、イメージの動態とそれが生み出す人間の経験のありかたを明らかにする「イメージ人類学」とも呼びうる研究領域を創成して、人類学における芸術研究の刷新を図ることを目的としている。
計画2年目にあたる令和3年度も新型コロナウイルス感染症の世界的流行が収束することはなく、日本側研究者のカナダへの渡航、および共同研究の対象として想定しているアフリカでの共同調査を実施することはできなかった。
しかし、短期間ながら、MOAから1名の研究者を受け入れ、オンラインモも併用して共同研究集会を開催し、日加両機関における芸術とその表象に関する研究状況を検証した。両機関の間では、その後もオンラインで緊密な連携をとり、とくに先住民の芸術活動に関する研究の進捗の成果を共有した。また、令和3年4月に開催された民族藝術学会第37回大会シンポジウム「「プリミティヴィズム」再考」では、日本側の研究代表者および研究分担者の4名全員が登壇し、人類学における芸術研究の刷新に向け、「プリミティヴィズム」や「プリミティヴアート」という概念および観点を再検討した。その成果は、令和3年度末に民族藝術学会誌『arts/ 』にて「特集「プリミティヴィズム」再考」として公刊している。そこでの議論は、人類学における芸術研究を、「プリミミィヴ・アート」の研究、すなわち西洋が「プリミティヴ」と規定してきた社会の芸術活動の研究から解放し、より広い「イメージの世界」の研究へと転換を図る上での基礎を固めるものとなった。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

計画2年目にあたる令和3年度は、依然として新型コロナウイルス感染症の世界的流行が続いたために、当初の計画通りにカナダおよびアフリカへ渡航して共同研究・共同調査ができる状況ではなかった。
しかし令和3年度中に、短期間ながら、MOAから1名の研究者を受け入れ、オンラインも併用して共同研究集会を開催した。さらに、日本側の研究代表者および研究分担者4名全員が民族藝術学会のシンポジウム「「プリミティヴィズム」再考」に登壇し、人類学における芸術研究の刷新に向け、「プリミティヴィズム」や「プリミティヴアート」という概念および観点を再検討し、その成果を民族藝術学会誌『art/ 』Vol.38にて特集として発表することができた。一連の活動は、「イメージ人類学」の理論的枠組みの構築に向けた大きな一歩であったと位置づけられる。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、博物館人類学の国際的2大中核研究拠点といってよいカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学の人類学博物館(Museum of Anthropology,略称・MOA)と我が国の国立民族学博物館(略称・民博)の間での国際共同研究を加速・強化し、それぞれのもつ研究の蓄積と学術資源を統合して、イメージの動態とそれが生み出す人間の経験のありかたを明らかにする「イメージ人類学」とも呼びうる研究領域を創成して、人類学における芸術研究の刷新を図ることを目的としている。
計画初年度にあたる令和2年度には、日本側の研究代表者および研究分担者全員が、まず国際共同研究機関となるカナダのMOAに赴き、イメージの生成・動態に関する共同研究を開始することを想定していた。しかしながら、折からの新型コロナウイルス感染症の地球規模での拡大により、カナダへの渡航は不可能となった。
このため、令和3年1月に2日間、令和3年3月に5日間にわたり、カナダと日本をオンラインで結ぶ連続共同研究会を開催し、問題意識の共有とそれぞれの機関における研究の蓄積について情報交換をおこなった。これにより、むこう4年間にわたる研究計画全体の骨子を確立し、共同研究の体制を整備することができた。また、このウェビナーの機会において、2022年にMOAで計画されている企画展示「イメージの生成から見たアフリカの芸術と文化」の内容を共同で点検し、その企画立案に実質的に参与した。これにより「イメージ人類学」の実践的研究を推進することができた。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

計画初年度の令和2年度は、研究課題について、国際共同研究対象機関であるカナダのMOAとの間で問題意識を共有し、研究計画全体の体制整備を図ることが最大の目的であった。新型コロナウイルス感染症の拡大のため、日本側研究者のカナダへの渡航は実現できなかったが、ウェビナ形態形態での集中的な共同研究会の開催により、実質的な議論ができ、当初の目的は達成することができた。また、MOA出開催予定の「イメージの生成から見たアフリカの芸術と文化」展の企画立案を共同で実施できたことは、当初の予定を上回る成果であった。