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難民出身のモン(Hmong)と国家に関する人類学的研究(2017-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

中川理

★2021年4月1日転入

目的・内容

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)が、どのように国家と交渉しながら自律的な領域を作っているのかを明らかにすることを目的とする。さらに、この領域のなかで社会関係の平等性を維持するメカニズムがどのように働いているか、この領域がどのようなトランスナショナル/トランスローカルな広がりを持っているかを検討する。このような民族誌的事例研究を通して、グローバル状況下における国家・主権・統治の概念を問い直し、「部分的」な自律性のあり方を概念化する。また、難民出身者の生き方の現実的理解にもとづき、受け入れ国への完全な統合を前提としないオルタナティヴな共生モデルの可能性を探求する。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。新型コロナウィルス感染症の影響に伴う延長期間となる2022年度は、これまでに実施したフィールド調査の成果を分析するとともに理論的考察を行い、その成果を発表した。
国際シンポジウム「Family Potential in Uncertain Times」(2023年3月14-16日)において、論文「Freedom and dependence among Hmong refugee families in France」を口頭発表した。この発表は、モン難民家族が親族への依存を通して自由と平等を実現しているという逆説的な関係を、ラオスからフランスおよびフランスから仏領ギアナへの移住の事例を通して明らかにするものである。モンのトランスナショナルなネットワークと平等性の関係を解明している点で、本研究課題の中心的な問いに答える主要な成果であるといえる。また、「グローバル資本主義における多様な論理の接合」を、民博共同研究会(2022年11月20日)において発表した。本発表は、モン難民コミュニティと周囲の社会の関係性について考察するための理論的基盤を検討するものである。
2022年度の後半には、これまで新型コロナウィルス感染症により実施が困難であったフランスでのフィールドワークを実施する予定であった。しかし、現地の調査環境の改善が十分でなかったため、より好適な環境が予想される2023年度に調査の実施を延期することを決断した。補助事業期間の再延長を申請し、2023年度に研究全体のまとめを実施することとした。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

2022年度前半は新型コロナウィルス感染症によって調査が困難な状況が継続し、後半も現地の調査環境の改善が十分でなかったため、2022年度に計画していた調査を実施することができなかった。そのため、とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)、宗教的実践、ジェンダー関係など調査を予定していた項目について、また、その他の追加調査を予定していた項目についても、必要な情報を得ることができていない。これにより、データの蓄積や分析など研究計画の進捗に遅れが生じている。2019年度の途中までで得られたデータに基づいて分析を行わざるを得ない状況が継続している。そのため、新型コロナウィルス感染症の影響に伴う補助事業期間延長の特例を利用して研究期間を一年延長し、2023年度に研究計画全体を遂行するかたちに研究計画を修正した。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。新型コロナウィルス感染症の影響に伴う延長期間となる2021年度は、前々年度までに実施したフィールド調査の成果を分析するとともに理論的考察を行い、その成果を複数の論文において発表した。
論文集『かかわりあいの人類学』を他の編者との協力のもと編集し、そのなかに本研究課題のフィールドワークと理論的考察に基づく二本の論文を発表した。「違う存在になろうとすること:フランスのモン農民とのかかわりあいから」は、一方で誰からも支配されない自由な生き方を志向しつつ、他方で国家のようなハイアラーキカルな組織を希求することもあるという両面性をフランスのモン難民が持つことを調査資料を用いて明らかにしたものである。同論文集の終章として執筆した「不確かな世界で生きること」では、より理論的な検討を行い、固定的な文化を持つ存在として対象を描き出すのではなく、不確実な状況のなかで変容する可能性を秘めた存在として描き出すアプローチの重要性を主張した。論文「自分自身のパトロンになる:フランスのモン農民の生き方」など他の論文も含め、研究の成果としてモンと国家の関係の複雑さを縮減することなく理論的にとらえるための視点を打ち出した。
しかし、2021年度中も新型コロナウィルス感染症により調査が困難な状況が継続したため、仏領ギアナとフランスで予定していたフィールドワークの実施は取りやめざるを得なかった。このことにより、研究計画を予定通りに完遂することはできなかった。そのため、補助事業期間の再延長を申請し、研究全体のまとめは2022年度に実施することとした。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染症によって調査が困難な状況が継続したため、2021年度に計画していた調査(2019年度に予定していた調査の一部、当初から2020年度に実施を予定していた調査)を実施することができなかった。そのため、とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)、宗教的実践、ジェンダー関係など調査を予定していた項目について、また、その他の追加調査を予定していた項目についても、必要な情報を得ることができていない。
これにより、データの蓄積や分析など研究計画の進捗に遅れが生じている。2019年度の途中までで得られたデータに基づいて分析を行わざるを得ない状況が継続している。そのため、新型コロナウィルス感染症の影響に伴う補助事業期間延長の特例を利用して研究期間を一年延長し、2022年度に研究計画全体を遂行するかたちに研究計画を修正した。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性(とりわけモンの国家に対する相対的自律性)、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。2020年度は、前年度までに実施したフィールド調査の成果をまとめて発表するとともに、理論的枠組としての自由概念に対する人類学的アプローチの可能性を検討して論文として発表した。
調査の成果については、日本文化人類学会第54回研究大会において「エスノリベラリズムとその矛盾:フランスのモン農民の経験から」として発表した。この発表は、自由を強調するモンの理念を「エスノリベラリズム」としてとらえ、それが他者の従属という矛盾によって成立していることを、おもにフランス在住のモン男性が出身国に旅して若い女性と結婚するという現象の分析を通して明らかにした。また、このような事例を扱うには、不自由をもたらす何かとして文化をとらえる枠組みに代えて、人々の生を可能にするつながりに注目する必要があるという議論を、論文「自由」にまとめ『文化人類学のエッセンス』に発表した。これらの成果は、研究計画を大きく前進させるものである。
しかし、新型コロナウィルス感染症による渡航制限のため、2020年度に仏領ギアナとフランスで予定していたフィールドワークの実施は取りやめざるを得なかった。このことにより、研究計画を予定通りに完遂することはできなかった。そのため、補助事業期間の延長を申請し、研究全体のまとめは2021年度に実施することとした。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染症による移動の制限により2019年度に予定していた調査の一部を延期し、当初から2020年度に実施を予定していた調査と合わせて実施する計画であったが、2020年度も移動制限が継続したため断念せざるを得なかった。そのため、とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)、宗教的実践、ジェンダー関係など調査を予定していた項目について、また、その他の追加調査を予定していた項目についても、必要な情報を得ることができなかった。これにより、データの蓄積や分析など研究計画の進捗にやや遅れが生じている。その一方、理論的枠組みの構築については、おおむね順調に進展している。研究計画全体の遂行のために補助事業期間を一年間延長したが、今年度も予定していた調査が実施できない可能性も想定し、研究計画の見直しを行っている。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性(とりわけモンの国家に対する相対的自律性)、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。2019年度は、①に関する中間的考察をまとめて発表するとともに、③により重点をおいたフィールドワークを実施した。
まず、「国家とグローバリゼーション」と「アナキズムと人類学」の二つの論文を発表し、そこにおいて①の論点について検討するための理論的枠組みを明確にした。その上で、日本文化人類学会第53回研究大会において「部分的アナキズム:フランスのモンの事例から」を発表した。この発表は、在仏モン農民の国家との関係を、現実には部分的であるにもかかわらず概念化のレベルでは全面的なものとして想像される「部分的アナキズム」として分析したものである。
これらの発表と並行して、三回のフィールドワークを実施した。2019年4-5月および2020年3月の仏領ギアナの調査では、青果市場およびモンが近年に開拓した複数の集落で調査を実施し、集落形成の歴史、住民の親族・社会関係、地方政府や他民族集団との関係、住民のライフヒストリーについての理解を進めた。また、2019年8-9月にはフランス南部においてモン農民のジェンダー関係に重点をおいて調査を実施し、モンにおけるトランスナショナルなネットワークと平等性との関係を理解するためのデータを得た。これらは、本研究の上記三つの課題を今後まとめていくうえで、重要なデータとなる。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

2019年度に行ったフィールドワークでは研究課題の進展に有用なデータが多く得られたが、コロナウィルスの世界的流行に起因する障害のため、いくつかの点で想定していた地点まで調査を進めることができなかった。2020年3月の調査では、仏領ギアナでのフィールドワークの後、フランス南部においてもフィールドワークを実施する予定であった。しかし、フランス政府によって外出禁止令が出されたため、急遽滞在を中断して帰国することとなった。仏領ギアナでは調査計画の多くを実施することができたが、フランス南部で予定していた調査については実施を断念した。とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)および宗教的実践に関わる項目については、2020年度に調査を実施するために再調整する必要がある。しかし、フランスと日本の状況によっては、2020年度の早期に調査を実施することは困難になる可能性がある。その点を考慮しつつ計画の再検討を行う。
理論的検討に関しては、2017年度に「主権」に関する検討を論文として発表し、2019年度にはこれまで行ってきた「平等性とヒエラルキー」に関する検討を論
文として発表することができたという点で、おおむね順調に進展している。現在、両者を統合するための枠組構築を進めている。