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サピエンスによる海域アジアへの初期拡散と島嶼適応に関する学際的総合研究(2021-2025)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A)

小野林太郎

目的・内容

アフリカが起源地とされる私たちホモ・サピエンスは、海域アジアからオセアニアの島嶼域へ拡散する過程で、海洋適応を進めた可能性が指摘されてきた。このテーマにおいて近年特に注目されているのが、インドネシアを中心とするウォーレシアと、琉球を中心とする日本列島である。
本研究では、ウォーレシアに進出したサピエンスによる最古の痕跡が得られつつある洞窟遺跡と、その比較対象としてより過酷な島嶼環境をもつ琉球列島の洞窟遺跡で発掘を行う。さらに出土する可能性が極めて高い①石器や貝器、②動物遺存体、③古人骨を対象とした学際的な考古・人類学的研究に加え、古環境復元や洞窟形成に関わる地質学的調査を同時に実施することで、海域アジアに進出したサピエンスの初期移住年代、移住集団の実像、渡海と海洋適応、島の古環境と人類による島嶼適応の実像を明らかにする。

活動内容

2023年度実施計画

昨年度に引き続き、琉球列島に位置する石垣島と宮古島での洞窟遺跡の発掘を継続実施するほか、これまでの発掘で出土した動物遺存体や人骨、その他の人工遺物の分析を進め、成果の一部を学会や論文にて発表する計画である。
またコロナの影響により発掘の開始が遅れていたインドネシアにおいても、今年度から調査を開始できる目途が立ったため、東インドネシアのウォーレシア海域に位置するスラウェシ島にて、更新世期の人類痕跡が確認されているトポガロ洞窟遺跡での発掘を実施し、出土が予想される石器や動物遺存体の分析を進める。そのほか、両地域やその周辺地域も含めた広い視野からの比較分析も進め、成果の一部を積極的に国内外での学会や論文にて公表していく計画である。

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本年度に計画していたインドネシアでの発掘調査はコロナの影響を受け、年度内に実施することができなかった。そこでこれまでの研究・発掘調査により収集されていた更新世期人類の石器や動物利用、島嶼移住に関わる考古・人類学的資料の分析と整理を積極的に進め、その成果をQuaternary Internationalなどの国際学術誌で公表した。
また比較の視点からは、東南アジアやオセアニアの熱帯島嶼環境と類似性の高い、亜熱帯島嶼となる琉球列島の先島諸島に注目し、その中心的位置を占める宮古島と石垣島での洞窟遺跡の発掘調査を実施した。これらの発掘では、とくに宮古島でのツヅキスピアブ洞窟遺跡で土器片や魚骨などを伴う炉跡の検出を行ったほか、その周囲で人骨も出土が確認され、本科研の目的を遂行する上で重要な発見があった。一方、石垣島の白保D洞遺跡では、上層に数メートルに及ぶ津波堆積層が検出され、その発掘に時間を要し、今年度の調査では更新世層には到達できなかった。しかし、国内外でも事例のない内陸洞窟における厚い津波堆積層とその形成プロセスに関わる考古・地質学的資料を多く収集できたことは大きな成果と認識できる。
これらの研究からは、当時の人類集団による島嶼移住や生業戦略の復元にもアプローチすることができ、更新世期サピエンスによる先島諸島への拡散問題の解明のほか、この島嶼域へと移住した人類集団の土器や埋葬文化についての考古・人類学的資料の分析を進めることができた。一方、洞窟堆積や古環境復元においては洞窟内堆積土壌のOSL年代測定による検討の試みや、顕微鏡をもちいた土壌のサンプリング分析により、よりミクロな時間軸での洞窟形成の把握を目的としたデータ収集も行うことができた。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要でも指摘したように、本年度もコロナ等による影響により、当初予定していたインドネシアでの発掘調査を含む海外研究は実施することができなかった。その一方で、沖縄の先島諸島で実施した発掘調査では、先行研究では確認されていなかった新たな土器や埋葬文化、動物利用に関する知見やデータを得ることができた。またインドネシアを中心とする東南アジア島嶼を対象とした研究では、これまでのデータを基に複数の英語論文を国際学術誌に公表できたほか、国際学会での公表も積極的に行い、多くの反応を得ることができた。これらの成果も考慮した結果、当初の計画からは大きな変更を余儀なくされた状況は続いたものの、研究全体としてはおおむね順調に進展できたと評価した。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中