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ラテンアメリカの民衆芸術に関する文化人類学的研究(2021-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

鈴木紀

目的・内容

研究の概要

本研究はラテンアメリカの民衆芸術に関する文化人類学的研究である。ラテンアメリカの民衆芸術とは、手工芸品から美術品にまたがる多様な造形物を含む。本研究は、経済のグローバル化、国家による歴史観の見直し、新型コロナウイルス感染症などの影響下に、民衆芸術に生じている変化を解明する。そのために新しい「芸術文化システム」モデルを構築し、民衆芸術の制作者たちの戦略を分析する。ラテンアメリカの文化的多様性を考慮し、アフロ=カリブ地域、メソアメリカ地域、アンデス地域における事例研究を4年間実施し、事例間の比較から結論を導く。
本研究は、芸術の人類学とラテンアメリカ地域研究、双方に貢献するものである。

研究の目的

本研究の目的は、現代のラテンアメリカにおける民衆芸術の動態を解明することにある。民衆芸術とは手工芸品と芸術作品双方にまたがる幅広い概念であり、日常的な生活用具から国際市場で販売される美術品までさまざまな造形物を含む。本研究は、経済のグローバル化による世界的な民衆芸術市場の形成と生産者の階層分化、独立200周年等を契機とする国家による歴史観の見直し、新型コロナウイルス感染症の蔓延と観光業の不振等の影響下に、民衆芸術に生じている変化を明らかにする。そのためにJ.クリフォードが提唱した「芸術文化システム」モデルを刷新し、民衆芸術の制作者たちの戦略を分析する。その際、ラテンアメリカの文化的多様性を考慮し、スリナムを中心とするアフロ=カリブ地域、グアテマラを中心とするメソアメリカ地域、およびペルーを中心とするアンデス地域における事例研究を4年間実施し、事例間の比較から結論を導く。

活動内容

2023年度実施計画

本研究は1)民衆芸術の動態に関する総括研究、2)民衆芸術の事例研究、3)成果発表および出版物作成の3点から成る。本年度は1)の総括研究と2)の事例研究 を中心に進めることとし、研究代表者はおもに1)を、分担者2名は、それぞれ担当する課題について現地調査を通じて2)の研究を進める。
鈴木紀:本研究と並行して研究代表の鈴木が所属先の国立民族学博物館で企画した展覧会「ラテンアメリカの民衆芸術」が5月30日まで開催されている。この機会を利用して国内外の専門家を展覧会に招聘し、研究会を開催する。これにより本研究の仮説である「芸術文化システム」の有効性を検討することができる。
細谷広美:コロンビア大学人権研究所の客員研究員として1年間ニューヨークに滞在する。ニューヨークに拠点をおきつつ、ラテンアメリカ各地に行き調査研究をおこなう。①ハイアートとしてのラテンアメリカ芸術の動向と、それが民衆芸術とどのような関係にあるのか、②ペルーを中心に民衆芸術が民衆を構成する先住民のどのような経験を反映しているのかを調査研究する。
本谷裕子:8月から9月にかけてメキシコのメキシコ市のフリーダカーロ美術館と民衆芸術美術館にて資料収集をおこなう。3月には、グアテマラにおいて、マヤ先住民女性団体AFEDESが衣文化の知的財産権保護を目的に3月8日の国際女性の日に実施するイベントと複数のマヤ先住民集落で実施されている織物学校の活動を調査する。

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、現代のラテンアメリカにおける民衆芸術の動態を解明することにある。令和3年度は、研究初年度にあたり1)民衆芸術の総括研究、2)民衆芸術の事例研究に着手した。またすでに研究成果がでたものについては口頭発表をおこなった。1)の総括研究はオンラインで研究会を開催し、研究代表および研究分担者2名の間で問題意識を共有した。2)については次の通りである。
鈴木紀(研究代表):アフロ=カリブ地域のマルーン(逃亡奴隷の子孫)の作品に焦点を当て、国立民族学博物館が所蔵するスリナム国のマルーンの木彫32点の資料分析をおこなった。またスリナム、仏領ギアナを中心とするマルーン系住民に関する民族学、人類学、歴史学、芸術学の文献収集をおこなった。当初予定したスリナムにおける調査は、相手国事情により実施できなかった。総括研究の暫定的な成果として、民衆芸術概念に関する新しい解釈を国内学会および国際学会(メキシコとスペイン)でおこなった。
細谷広美(研究分担者):ペルーの民衆・民族芸術のグローバル化及び民族・民衆芸術とアートの関係に関する調査を計画し、関連文献の収集をおこなった。また欧米におけるラテンアメリカのアート作品の受容に関する調査を計画し、イタリアのベネチアビエンナーレとドイツのドクメンタを訪問し、資料収集をおこなった。
本谷裕子(研究分担者):国立民族学博物館にて同館の収蔵するグアテマラの民族衣装に関する資料熟覧をおこなった。グアテマラにおける民族衣裳の知的財産権保護運動の調査を計画し、オンラインによる情報収集をおこなった。メキシコのオアハカ州に渡航し、アメリカ合衆国への移住体験を記録する刺繍絵の調査をおこなった。グアテマラに関する研究成果は、国際学会(スペイン)で発表した。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、当初計画した現地調査を予定どおりおこなえなかった。鈴木はスリナム調査、細谷はペルー調査、本谷はグアテマラ調査を、相手国事情によりそれぞれ見合せた。しかし文献調査、オンライン調査などを通じて、不十分ながら現地調査に代わる情報収集を行うことができた。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中