Select Language

近代日本のグローバルな貿易‐生産構造の展開と中東地域との相互依存関係をめぐる研究(2021-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

黒田賢治

目的・内容

研究の概要

近代日本と中東地域との関係について、両地域間の貿易関係を通じたモノの往来と、往来したモノの背景にあった同時代の国際的な政治経済的関係のなかで展開した日本の産業構造との関係について(1)近代日本と中東地域間の貿易関係の把握、(2)近代日本の紡績産業とエジプト綿の輸入、(3)近代日本の地場産業の構造的変化と対中東輸出関係の変化検討し、近代における日本と中東地域とのモノを媒介としたローカルなレベルでの相互依存関係について明らかにする。

研究の目的

近代日本と中東関係をめぐっては、個人の経験に焦点があてられる傾向から地域間の交流史として捉えられてきた従来の研究から中東地域研究としての深化を図りつつも、より普遍的な近代世界の歴史という文脈でとらえる研究へと発展させる必要がある。そこで本研究では、近代日本と中東地域との関係について、両地域間の貿易関係を通じたモノの往来と、往来したモノの背景にあった同時代の国際的な政治経済的関係のなかで展開した日本の産業構造との関係について検討し、近代における日本と中東地域とのモノを媒介としたローカルなレベルでの相互依存関係について明らかにする。近代日本と中東地域間の貿易関係の把握、近代日本の紡績産業とエジプト綿の輸入、雑貨を中心とした製造業における変化を事例とした近代日本の産業構造の変化と対中東輸出関係の変化について実証的な研究を行い、それらを統合して近代日本と中東地域との関係について論じる。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本年度においては、研究代表者が清国や朝鮮半島などで栽培される生綿ではなくエジプト繰綿が日本に導入される過程および生産との関係について社史を利用しながら研究を行い、研究分担者が引き続き関西地方および周辺で行われてきた問屋制家内制手工業として行われてきたブラシや工場制手工業として行われた団扇などの雑貨生産と中東輸出の関係について研究を進めていった。その結果、江商によってエジプト綿の日本への輸入が始められるとともに紡績としては中番手のガス糸生産に用いられ、相対的に高級品の生産に利用されていたことが明らかになった。また今日の中東諸国へはアメリカなどに比して相対的に輸出額が少額であったことから、雑貨について生産地の特定が困難であるものの、各業界の動向として生産構造の変化について把握することができた。
また昨年度に日本本土の統計では全く把握されておらず『台湾外国貿易年表』にまで広げ、台湾とのアヘン交易についてのみ統計上把握できたものの、他の雑品についてはインドを経由した交易が多数の資料で示唆されていたペルシアとの輸出入関係について研究を進めた。本年度には、イランの国会図書館文書センターから刊行されたフランス語およびペルシア語のペルシアの貿易統計を入手できた。しかしこの資料にはいくつかの統計資料としての問題(たとえば国境での価格でなく市場価格で記載されることや密輸の問題)があることが、イラン経済史で指摘されていた。そこで資料の使用上の注意について整理しながら、データの整理を進めた。その結果、日本側の資料では間接的な輸出関係の示唆にとどまっていた日本からペルシアへの輸出状況をある程度正確に把握することができ、その成果を口頭発表として成果発信を行った。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要で述べたように研究内容については、本年度、当初の計画していたエジプト綿花と日本の綿糸・綿布生産との関係について研究に着手でき、一定の情報の整理を図れた。また研究分担者と協力することで、当初の計画よりも早く雑貨製造について引き続き研究を前もって進めることができている。一方で紡績関係の研究は日本の近代経済史において重厚な研究がなされているだけでなく、近年ではグローバルヒストリーの観点から進められた研究も報告されており(たとえば、2015年に刊行されたSven BeckertのEmpire of Cotton: A Global History)、研究史上の位置づけならびに生産構造との細かな関係を把握することが課題として認められ、次年度以降にも引き続いて研究を行う必要があることが判明した。そのため前倒しで行ってきた研究到達目標までの余力との関係から、おおむね順調に進展していると判断できる。
また成果発信面については、昨年度に整理した貿易統計を具体的な成果として公表していくことを課題としていたが、これについては研究実績で述べたように本年度にペルシアの統計を入手して整理する作業を実施するとともに、すでに口頭発表を行い、次年度に論文としてまとめる計画を進めている。しかし整理したエジプトやトルコの統計などの統計については口頭発表で利用したに過ぎないため、次年度以降の課題として残されているものの、単にデータとして公表するよりも日本における生産との関係で公表することが望ましいと思われる。そのため一定程度、成果発信の課題を達成することができたにとどまっているものの、今後の研究活動と結びつけながら軌道修正を図ることができるため、おおむね順調に進展していると判断した。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

研究初年度にあたる本年度においては、中東各地域との貿易関係の全体像の把握に努め、明治15年以降の『大日本外国貿易年表』および明治27年以降の『大蔵省年報』さらには明治38年以降の『神戸港外国貿易概況』、などの各港貿易の輸出入統計に加え、明治26年以降の『大阪外国貿易調』や『神戸商業会議所報告』などの商工会議所による調査報告を資料として埃及(エジプト)、土耳古(トルコ)とオスマントルコ支配下のアナトリアおよびアラブ地域を意味する亜細亜土耳古、さらには波斯(ペルシア)との輸出入関係について網羅的な把握に努めた。これら貿易統計資料に関する具体的な成果発信について、次年度に研究資料として公開する準備に務めた。また明治期から大正期にかけた日本と中東との政治経済的関係の動向の背景について、外務省関連資料を整理するとともに、日本企業による中東関連事業についても調査を進めた。その結果、成果発信として大正4年に実施されたシンガポール~ジェッダ間の日系企業による巡礼船事業、またイランとの正式な国交樹立に至るまでのプロセスを検討し、経済と政治とが混然となるなかで政府機関と企業が密接な関係を築きながら日本が既存の世界システムに参入する過程で中東地域に進出していったことを論文分として執筆した。さらに近代の世界システムに参入する以前の中東地域に関する日本の知的状況についても、二つの論稿として取りまとめ、それぞれ分担執筆として成果公開を行った。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要で述べたように、本年度においては貿易統計資料の把握に努めるとともに、研究成果発信として研究対象期間である近代の幅を広げながら政治経済的な背景に関する論考を刊行していった。
貿易統計資料の整理については、その成果の一部をトルコとエジプトに関しては、ワークショップでの報告で利用した。またペルシアについては、『台湾外国貿易年表』にまで広げ、台湾とのアヘン交易についてのみ統計上把握できたものの、他の雑品についてはインドを経由した交易が多数の資料で示唆されていたものの統計的には把握が困難であることが判明した。加えて、資料から把握できた雑貨関連の輸出品が、当初想定していたよりも多岐にわたっており、小規模な関西地方における製造が中心であり、かつ時代的な変化が激しく、生産構造の変容と輸出に関する関係性が高いことがわかった。しかし代表者の個人研究としては把握困難であることから、新たに研究分担者として地理学の観点から長期的にイランを中心とした中東地域を研究しつつ、近代の関西地方の雑貨の研究に従事する吉田雄介氏を研究分担者に加えることで、研究到達目標の達成のための研究体制の構築を図った。
以上のように、本年度の実施した資料読解と研究成果発信の状況、さらには研究過程に鑑みた再帰的研究体制の構築という三つの点を総合的に鑑みて、現在までの進捗状況について、当初の計画以上に進展していると評価した。