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ナミビア牧畜社会の伝統的権威の復活に関する人類学的研究(2021-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援

宮本佳和

目的・内容

研究の概要

本研究は、ポスト植民地期のアフリカにおいて注目される伝統的権威と近代国家体制の並存と葛藤という課題を、国家と交渉する人々のミクロな視点から探る。具体的には、南部アフリカのナミビア共和国に暮らす牧畜民ヘレロの伝統的権威が代表となり、近年活発化する「祖先の土地返還論争」に注目する。問題を取り巻く様々なアクターの分析を通して、植民地期に創造された伝統的権威が、独立後に土地への法的権限を与えられ、民主化の進行と共になぜ復活するのかを、非集権制社会の人々のあいだでの政治的公平性の生成という観点から考察する。

研究の目的

本研究の目的は、植民地期に創造された伝統的権威と近代国家体制の並存と葛藤という人類学および政治学の分野で注目される課題を取り上げ、ナミビアの牧畜社会における民族誌的な資料から、両者の関係の動態を明らかにすることである。
具体的には、南部アフリカのナミビア共和国に暮らす牧畜民ヘレロの伝統的権威が代表となり、近年活発化する「祖先の土地返還論争」に注目し、(1)土地への権限を認可された伝統的権威がどのように祖先の土地問題に関与し、自身の正統性を主張するのか、(2)当該社会の人々は伝統的権威が進める返還運動と彼らの主張する内容をどのように捉えているのかを明らかにする。以上を通して、当該社会の網の目を構成する伝統的権威の地位を、植民地期の遺物として捉えるのではなく、人々が社会状況の変化に応じて社会文化的に生成する地位として捉えて考察する。

活動内容

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、ポスト植民地期のアフリカにおいて注目される伝統的権威と近代国家体制の並存と葛藤という課題を、国家と交渉する人々のミクロな視点から探る。
具体的には、南部アフリカのナミビア共和国に暮らす牧畜民ヘレロの伝統的権威が代表となり、近年活発化する「祖先の土地」返還論争に注目する。問題を取り巻く様々なアクターの分析を通して、当該社会の網の目を構成する伝統的権威の地位を、植民地期の遺物として捉えるのではなく、人々が社会状況の変化に応じて文化的・社会的に生成する地位として捉えて考察する。
2年目は、年度中頃から新型コロナウイルス感染拡大が収まってきたため、本研究が主軸とするフィールドワークの実施がようやく可能となった。感染症対策を十分おこなったうえで、まず本研究課題にかかる予備調査として、コロナ前後での調査地の変化を記録した。次に、「祖先の土地」返還運動を主導する伝統的権威の首長らが埋葬されている墓地で開催された記念式典に参加し、関係者らが「祖先の土地」についてどのように言及するのかを記録した。ナミビアにおいて長期休暇にあたる期間には、帰省者を中心に聞き取りをした。そのなかで、伝統的権威の党派ごとにいるとされる祭司にも話を聞くことができた。加えて、これまで国際共同研究でお世話になってきたケープタウン大学での在外研究が可能となったため、ネットワークをさらに広げながら、伝統的権威についての分析枠組みの検討も同時におこなった。また、アフリカにおける不確実性や偶然性に関する研究会での発表と参加を通して、人々の日常的行為から固定化された単一の制度や秩序をとらえ直す視点について理解を深めた。年度内の研究成果としては、本研究に関連して、国際誌Anthropology Southern Africaに単著の英語論文が掲載された。また、アフリカにおける国家統治と分配に関するコメントも刊行された。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウイルス感染拡大の影響でフィールドワークが後ろ倒しになったため、全体の計画が遅れている。また、主なインタビュー対象である伝統的権威の各党派の関係者が、新型コロナウイルスに感染し、相次いで急逝した影響が続いている。特に、「祖先の土地」返還運動の中心的人物の継承者をめぐり争いが続いているため、今年度もインタビューを断念せざるを得なかった。しかし、これまで実施することが困難であったナミビアでのフィールドワークが年度内に可能になったため、前年度の遅れを若干取り戻すことができた。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、ポスト植民地期のアフリカにおいて注目される伝統的権威と近代国家体制の並存と葛藤という課題を、国家と交渉する人々のミクロな視点から探る。
具体的には、南部アフリカのナミビア共和国に暮らす牧畜民ヘレロの伝統的権威が代表となり、近年活発化する「祖先の土地」返還論争に注目する。問題を取り巻く様々なアクターの分析を通して、当該社会の網の目を構成する伝統的権威の地位を、植民地期の遺物として捉えるのではなく、人々が社会状況の変化に応じて文化的・社会的に生成する地位として捉えて考察する。
初年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、本研究が主軸とするフィールドワークを実施することができなかった。そのため、国内文献調査やこれまでのフィールド資料をもとにした分析、研究会での発表・参加を中心に研究を進めた。特に、主にユーラシアからアフリカにかけての牧畜民を対象とする研究会での発表・参加を通して、文化人類学、歴史学、地域研究の観点から国家統治と牧畜民について理解が深まり、牧畜社会における帰属意識について検討することができた。また、地域研究会での発表・参加を通して、「祖先の土地」問題の背景にある文化的・社会的な死の扱いについて議論を深めた。
研究成果として、本研究に関連して、国際誌Anthropology Southern Africaに単著の英語論文が掲載された。独立後の法整備に基づく土地改革等と共に伝統的権威が復活する様子を取り上げ、復活という言葉とは裏腹に、伝統的権威が乱立することによって当該社会内部の紛争解決の力が弱体化している現状を考察した。
また、現在は伝統的権威の墓地において吹かれるトランペットについての解説が、学会誌ビオストーリーに掲載された。加えて、分析するうえで前提となるヘレロ語話者の出自体系などについて一次資料をまとめた報告も、紀要の神戸文化人類学研究に掲載確定している。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、予定していたナミビアでのフィールドワークが実施できなかった。また、インタビュー対象の中心である伝統的権威の各党派の関係者が、新型コロナウイルスに感染し、相次いで急逝したことによる。