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民博所蔵東洋音楽学会資料に基づく日本民俗音楽の再構成と再活性化

研究期間:2021.10-2024.3

代表者 植村幸生

キーワード

民俗音楽、音響アーカイブ、文化資源

目的

国立民族学博物館(以下、民博)には、東洋音楽学会が1960〜70年代に実施した日本民俗音楽調査の録音資料、およびメモ、写真等の付帯資料が保管されている。その一部は同学会が九学会連合の共同調査に参加した際の資料である。録音テープ1000本以上を数える同資料は1995年に民博に寄贈され、音源のデジタル化と曲目情報等のデータベース化が完了しているが、調査終了後は研究資料としての活用をみていない。そこで本研究は次の三つの側面から東洋音楽学会資料のもつ今日的な意義と将来性を明らかにすることを目的とする。①同資料を用いて20世紀後半以降における日本民俗音楽の変容と持続を検証し、種目やレパートリーの再構成を試みる、②同資料を通して、20世紀後半における日本民俗音楽研究の傾向、成果と課題を跡づける、③民俗音楽の伝承者、研究者を含む関係者が共有すべき文化資源として同資料を位置づけ、これを伝承活性化、地域文化の再認識に役立てるための情報プラットフォームを関係者の間で構築する。

2023年度

2022年度は、東洋音楽学会資料のうち何らかの事情で民博所蔵とならなかったものの追跡、確認を行ったこと(五島列島調査資料は2021年度に民博に追加収蔵された)、代表者が埼玉県、千葉県の三匹獅子舞伝承地において本研究の概要を予備的に説明し関係者の協力をとりつけたこと以外には、大きな進展に至らなかった。最終年度となる2023年度にはその遅れを取り戻すべく、関東地方の三匹獅子舞をテストケースとして、本資料を伝承地において公開し、伝承者と研究者との対話セッションを実行する。共同研究会は4回を予定し、前期2回はセッションの計画立案と準備、後期2回はその結果のとりまとめと今後の展望、および最終報告の発表方法と手順の検討にあてる。あわせて、すでに収蔵された音源と付帯資料のより詳細な整理も進め、研究会で随時報告していく。

【館内研究員】 岡田恵美、笹原亮二、福岡正太
【館外研究員】 内田順子、金城厚、神野知恵、久万田晋、島添貴美子、薗田郁
研究会
2023年5月20日(土)14:00~16:00(国立民族学博物館 第1演習室)
民博所蔵東洋資料の内覧
2023年8月25日(金) 14:00~16:00(国立歴史民俗博物館)
内田順子(国立歴史民俗博物館)、島添貴美子(富山大学芸術文化学部)「歴博日本民謡データベースの概要」
歴博日本民謡データベースおよび関連資料内覧
植村幸生(東京藝術大学音楽学部)「三匹獅子舞音源資料の現地還元について:中間報告」
2024年2月22日(木) 14:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
植村幸生(東京藝術大学):利根川流域調査資料に基づく三匹獅子舞再活性化の試み――中間報告その1
薗田郁(京都市立芸術大学):土佐調査資料の整理と活用(仮題)
質疑および討論

2022年度

3回の研究会を予定し、その間に当該資料の内容チェック、整理作業を構成員によって進める。第1回、第2回研究会では、(a) 構成員がこれまでに構築・運用に関与した既存の音響アーカイブの現状と課題(上記目的③に対応)、(b)地域の音楽・芸能の現代的変容の状況と東洋音楽学会資料の有効性(目的①に対応)、(b)1960~70年代の日本民俗音楽研究に対する研究史的位置づけ(目的②に対応)、をテーマに構成員の報告会を行う。第3回研究会では特別講師として、文化資源学、知的所有権、またはデジタルアーカイブ技術の専門家を招聘し、その知見をうかがうとともに、本研究の実施状況に対する中間的なレビューをいただく。

【館内研究員】 岡田恵美、笹原亮二、福岡正太
【館外研究員】 内田順子、金城厚、神野知恵、久万田晋、島添貴美子、薗田郁
研究会
研究成果

2022年度は予定されていた研究会の開催ができず、オンライン研究会を一回開催するにとどまった。またコロナ禍の影響は民俗芸能の現場にとりわけ大きな爪痕を残しており、2022年度段階でも奉納等が復活していないところが多い。そのため東洋資料の現地伝承者との共有・還元という、本研究の目標はまだ具体的な道筋がたっていない状況にある。オンライン研究会(2023年3月20日)では民博所蔵東洋資料のうち奄美、五島調査の音源とその行方について、これまでの探索で明らかになったことを発表し、さらなる探索および追加寄贈の可能性をさぐった。また1960年代に録音された利根川流域の三匹獅子舞音源の共有・還元に関して、研究代表者がその準備状況と見通しを述べて、検討と意見交換を行った。最終年度となる2023年度には、別の外部資金等を活用しつつこの共有・還元プロジェクトを試験的な形であれ実施しその有効性の評価を行いたい。

2021年度

今年度は2回のオンライン研究会を予定している。第1回では、対象とする東洋音楽学会資料(以下、本資料とする)を含む、共同研究員がこれまでに構築、運用、利用に関与してきた既存の音響アーカイブの現状と課題、および共同研究員が研究に従事してきた音楽・芸能ジャンルにおける今後の研究展開に本資料が果たし得る可能性をそれぞれ提示し、その知見に基づいて本研究の全体方針、および構成員の役割分担を再確認する。この第1回研究会と平行して、代表者および館内研究員により、本資料の全体像、保管・整理・活用の現状、修正・補足を要する情報の有無などの確認作業を行う。第2回では、1960~70年代に本資料の形成に直接関与した、当時の調査者を特別講師として招聘し、当時の調査過程と方法、寄贈に至る経緯、成果と意義についてインタビューを行うとともに、共同研究員との間で、本資料の活用方策とその問題点、および本研究の目指すべき方向性について議論を行う。

【館内研究員】 岡田恵美、笹原亮二、福岡正太
【館外研究員】 内田順子、金城厚、神野知恵、久万田晋、島添貴美子、薗田郁
研究会
2021年12月11日(土)14:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
植村幸生(東京藝術大学)「東洋音楽学会資料の現況と本研究の射程」
質疑応答、意見交換
2022年2月19日(土)14:00~16:00(ウェブ開催)
小島美子(国立歴史民俗博物館)、入江宣子「東洋音楽学会による民俗音楽調査:その経緯と成果を語る」
研究成果

2021年度は本共同研究の主題である東洋音楽学会資料(以下、東洋資料)の現状を把握し、あわせて調査の当事者から証言を得ることに研究活動の主眼をおいた。第1回研究会では以下の諸点について事実確認と討議を行った。①東洋資料に含まれていたはずだが、何らかの事情で民博に寄贈されず、その所在が不明な資料がある、②民博所蔵資料に関しても、録音・メモ・写真が相互に結び付けられておらず、特にメモのデジタルデータ化が必要である、③メタデータおよび資料自体の公開方法については先行する他のアーカイブの事例を批判的に検討した上で進めるべきである。第2回研究会では特別講師として小島、入江の両氏を迎え、1960年代の九学会調査を中心に当時のフィールドワークの状況をうかがった。その結果、①調査と同時並行で行われたコロムビアレコード社による録音が存在すること、②両氏を含む調査メンバーが個人で所有する資料が多数存在すること、③東洋音楽学会独自の調査は地元研究者との協力関係を得て進められたこと、④今後、東洋資料の再調査を行うには地域ごとに専門の人員を充てるべきであること、などが明らかになった。