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日本人による太平洋の民族誌的コレクション形成と活用に関する研究――国立民族学博物館所蔵朝枝利男コレクションを中心に

研究期間:2021.10-2025.3

代表者 丹羽典生

キーワード

収集、民族誌写真、日本人

目的

国立民族学博物館に所蔵される朝枝利男コレクションは、太平洋に関する写真約6千点及び日記や絵画などの付属資料からなる。アメリカで結成された探検隊の一員として朝枝が残したこれらの記録は、失われた自然や文化を今に伝える貴重な資料となっている。しかしヨーロッパ・日本・アメリカに元資料が散在して十全に整理・分析されてないこと、太平洋地域の研究者の精査を経ていないことから、コレクションは十分に活用されていない。本館の朝枝利男コレクション研究は、そうした問題点を解消しうるものである。
本研究は、まず太平洋の歴史と文化に通じた研究者が集まり、コレクションの人類学的・民族学的な情報と過去の活用履歴を精査する。同時に日本人による収集という視点から、近代日本における太平洋資料収集の歴史に位置付けながら、コレクションの現代的な意義を分析する。多角的・総合的に検討することで、コレクション行為の倫理的側面にも踏み込むことを試みる。あわせて関連コレクションを有する欧米の博物館、収集された側の太平洋の人々の知見を加味して、博物学の時代以降に形成された日本人による太平洋コレクションの特質と問題点を解明する。

2024年度

今年度は成果公開に向けたとりまとめを中心に行う。2回の開催を計画しており、これまでの研究会での議論を踏まえたうえでコレクションを考えるための研究発表を行う。それと同時に、最終的な成果とする各自の論考と全体の構成について打ち合わせを行う。

【館内研究員】 小野林太郎、ピーター J. マシウス、藤井真一
【館外研究員】 飯高伸五、石森大知、北原卓也、倉田誠、桑原牧子、小杉世、佐本英規、臺浩亮、山口徹


2023年度

今年度は、朝枝利男コクレションを分析する際の背景となる日本人の太平洋の民族誌コレクション形成とかかわるテーマの発表を行う。メラネシアに関しては昨年中にまとめて発表を行ったので、今年度はミクロネシアとポリネシアの事例を取り上げる。また昨年度に続き、朝枝利男コクレション所蔵資料に関する詳細な分析に基づく発表を行う。後者については、クック諸島、キリバスなど昨年度取り上げていない地域を取り上げる。また今年度は最終年度ということなので、成果のとりまとめに向けた話し合いを行うことも予定している。

【館内研究員】 小野林太郎、ピーター J. マシウス、藤井真一
【館外研究員】 飯高伸五、石森大知、北原卓也、倉田誠、桑原牧子、小杉世、佐本英規、臺浩亮、山口徹
研究会
2023年7月22日(土)14:00~19:15(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
飯高伸五(高知県立大学)「南洋庁物産陳列所の収集と展示」
質疑応答
臺浩亮(東京都市大学)「⽇本⼈によるメラネシア⺠族誌資料の収集――⿓江義信の事例を中⼼として」
質疑応答
総合討論
2023年12月16日(土)13:30~19:00(ウェブ開催)
山口徹(慶應義塾大学)「モノを通した「ダブル・ビジョン」の歴史人類学を目指して」
質疑応答
北原卓也(早稲田大学)「和歌山田並地区からの移民と南洋館コレクション」
質疑応答
総合討論
2023年12月23日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
小野林太郎(国立民族学博物館)「“Canoes of Oceania”(Haddon and Hornell1936-1938)にみる朝枝利男の足跡-ソロモン諸島のカヌー事例を中心に」
質疑応答
小杉世(大阪大学)「キリバスのクロッカー探検隊写真の分析――当時のコプラ産業とライン諸島」
質疑応答
総合討論
研究成果

本年度は、「日本人による太平洋の民族誌的コレクション形成」についての理論や全体的な概要を把握するための研究会を開催した。理論については、山口徹氏に「モノを通した「ダブル・ビジョン」の歴史人類学を目指して」である。オセアニアの歴史人類学から研究をはじめ近年はモノの視点から歴史的絡み合いを研究するニコラス・トーマスによる「ダブル・ビジョン」という概念を手掛かりに、メラネシアの彫像の収集や継承の変化について分析している。オセアニアのなかでの各地域における収集に関する研究として、ミクロネシアについては飯高伸五氏による「南洋庁物産陳列所の収集と展示」、メラネシアについては臺浩亮氏の「⽇本⼈によるメラネシア⺠族誌資料の収集――⿓江義信の事例を中⼼に」、ポリネシアについては北原卓也氏の「和歌山田並地区からの移民と南洋館コレクション」の発表が行われた。それぞれオセアニアにおける各地域の太平洋民族誌のコレクション形成について整理しているが、あわせて個別の事象を取り上げて分析を行っている。その結果、植民地、軍支配、移民などの要素が複合的に絡み合いながら収集が行われてきたという類似性と差異が見えてきている。
また朝枝利男コクレションの個別の資料分析に基づく発表も、昨年度から引き続き開催した。小野林太郎氏は、「“Canoes of Oceania”(Haddon and Hornell1936-1938)にみる朝枝利男の足跡-ソロモン諸島のカヌー事例を中心に」にて、朝枝コレクションのなかでもケンブリッジ考古学人類学博物館に集中して所蔵されている朝枝によるカヌーの水彩画と本館所蔵の写真資料を照応させることで、彼がどのようなカヌー研究を行っているのか分析を行った。またハッドンのカヌー研究への貢献についてもあきらかにしている。小杉世氏は「キリバスのクロッカー探検隊写真の分析――当時のコプラ産業とライン諸島」にて、朝枝利男のキリバスの写真を手掛かりに現地の人の記憶と現在の状況を分析する発表を行った。

2022年度

国立民族学博物館所蔵の朝枝利男コレクションを対象として、民族誌的研究成果に照らして資料精査した発表を4回予定している。特別講師を含めて毎回2名程度の発表者に依頼する。各研究会の発表は大まかにもとの資料が対象とされている地域ごとに割り振る。具体的には、メラネシアのソロモン諸島関連資料、ポリネシアのフランス領ポリネシア(タヒチ、ピトケアン)、クック諸島、ラパヌイ(イースター島)関連資料、ミクロネシアのキリバス関連資料を計画している。各回においては、上記関連資料に基づく分析を行い、議論を通じて資料への総合的な評価を行う。

【館内研究員】 小野林太郎、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 飯高伸五、石森大知、北原卓也、倉田誠、桑原牧子、小杉世、佐本英規、臺浩亮、藤井真一、山口徹
研究会
2022年10月22日(土)13:30~18:45(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
石森大知(法政大学)「朝枝利男とクロッカー・ソロモン諸島探検隊――写真と日記からみえてくるもの」
質疑応答
里見龍樹(早稲田大学)「歴史の「影」――ソロモン諸島マライタ島における植民地史と写真をめぐって」
質疑応答
総合討論
2022年11月19日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 第4演習室 ウェブ開催併用)
佐本英規(筑波大学)「「ガダルカナルより南」で朝枝利男がみたもの――ソロモン諸島レンネル・ベロナに関する紀行およびモノグラフと朝枝コレクションの照応」
質疑応答
桑原牧子(金城学院大学)「朝枝利男の写真に写るゲームフィッシング、魚類学研究、タヒチの楽園幻想――1931 年のゼーン・グレイ航海」
質疑応答
総合討論
2022年12月24日(土)13:30~19:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
藤井真一(国立民族学博物館)「写真にみるソロモン諸島の物質文化――ガダルカナルとマライタで朝枝利男がカメラを向けた物に注目して」
質疑応答
丹羽典生(国立民族学博物館)「アーティストとしての朝枝利男――水彩画資料の分析を中心に」
質疑応答
総合討論
2023年3月25日(土)14:00~16:30(ウェブ開催)
満田弥生(国立台東大学)「岩佐嘉親の南太平洋へのまなざし――国立台湾史前文化博物館のコレクションを通して」
質疑応答
総合討論
研究成果

今年度は研究会を4回開催した。朝枝利男コレクションのなかで、ガラパゴス諸島と並び写真枚数が多いのは、ソロモン諸島である。そこでソロモン諸島関連の写真視聴を取り扱う発表から始めた。朝枝のソロモン諸島写真全体の傾向を分析した発表から、マライタやガダルカナルなど個別の地域の被写体の特徴を分析したものなどさまざまな切り口からの発表がなされた。朝枝利男コクレション関連としてはもうひとつタヒチに焦点を当てた発表を行った。タヒチ滞在時の写真は、クロッカー隊の写真もあるが多くは、ゼーン・グレイとの旅行時に撮影された写真である。この期間の写真は特に分析の足がかりとなる関連資料の発掘が進んでいない箇所であるが、残された資料の整理から全体の特徴についての分析がなされた。本共同研究全体の文脈に関する日本人の収集に関しては、1つの発表がなされた。岩佐嘉親という個人の収集した資料に基づく分析である。彼のコレクションはポリネシア地域の関連資料を中心としており、ソロモン諸島の発表と併せて、ひろくオセアニアのメラネシアとポリネシアの分析を検討することが出来た。

2021年度

2021年度は、研究会を2回(11月、1月)の開催を計画している。初回は研究代表者(丹羽典生)が研究会の趣旨及び研究枠組みについて、参加メンバーと確認する。また参加メンバーの本研究会での目的を議論する。第2回目は、朝枝利男コレクションの資料的意義とそれを日本人の収集という視点から論じる意義を、これまでの申請者によるフォーラム型情報ミュージアム・プロジェクトの成果を踏まえて報告する。他の特定のトピックの発表を加えた上で、参加者全員での討論を行い、研究会の方向性について、明確化を図る。

【館内研究員】 小野林太郎、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 飯高伸五、石森大知、北原卓也、倉田誠、桑原牧子、小杉世、佐本英規、臺浩亮、藤井真一、山口徹
研究会
2021年12月18日(土)13:30~18:00(ウェブ開催)
丹羽典生(国立民族博物館)「日本人による太平洋の民族誌的コレクション形成と活用に関する研究――国立民族学博物館所蔵朝枝利男コレクションを中心に」
質疑応答
全員「各自の研究紹介及び今後の予定の検討」
2022年3月20日(日)13:30~19:00(ウェブ開催)
倉田誠(東京医科大学)「レンズの向こうの朝枝利男――サモア諸島での撮影写真から⾒るまなざしのあり⽅」
質疑応答
丹羽典生(国立民族学博物館)「寄港地での奇遇な交錯――フィジーにおけるマイノリティと先住民医療者の影」
質疑応答
総合討論
研究成果

今年度は、これまでフォーラム型プロジェクトとして刊行していた朝枝利男コクレション研究の成果をメンバーとのあいだで共有しつつ、研究会の進む方向性について意見を交換した。具体的には、朝枝利男の経歴とコレクションの全体像については大まかにわかってきており、この共同研究会では、以下の3点に注目することが議論された。海外の関連資料との比較からみえてくる本館資料の特徴について、個別の写真資料等から読み取れる民族誌的事象について、ソースコミュニティに対する写真資料の熟覧調査からみえてくる新たな民族誌上の情報あるいは研究手法上の論点などである。
個別資料については、サモアとフィジーにかかわる分析がなされた。前者はサモア諸島にて撮影された古典的民族写真との比較から朝枝の写真としての特徴を抽出し、あわせて被写体となっていた当時の日系サモア人の詳細を読み解く発表を行った。後者はフィジー諸島が調査目的地ではなく寄港地としてあったことに注目して、そうした関係性の中で切り取られ、撮影された写真の情報の意義を、複数の資料の読み合わせの中から分析した。