ポストコロナ社会におけるユニバーサルな展示案内システムの開発(2022-2024)
科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)
日高真吾
目的・内容
2020年から現在まで猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症は、視覚障害者の情報取得に必要不可欠な「触る」という行為に大きな制約を設けている。そこで、研究代表者らは、ポストコロナ社会を見据えつつ、ユニバーサル・ミュージアムの視点に立った展示システムの開発を目指し、①現在の社会で敬遠されている「触る」という行為をあえて展示観覧のきっかけとする展示案内システムの開発、②ポストコロナ社会のなかで、多くの人が安心して同じモノを触ることができる仕組みについて提唱することを目的とする。また、本研究課題は、ポストコロナ社会の在り方について一石を投じるため、2015年9月の国連サミットで採択された「国際目標SDGs」のうち、「4.質の高い教育をみんなに」、「10.人や国の不平等をなくそう」への貢献を意識し、 学会発表や論文発表、シンポジウム、講演会、WEB配信など、効果的な情報発信を展開する。
活動内容
2022年度実施計画
本年度は、展示案内システムの要件について、まず、視覚障害者の情報収集手段としての触覚と聴覚の役割、聴覚障害者と健常者の情報収集手段としての視覚と触覚の役割を整理する。その上で、健常者と障害者が同等に博物館展示を楽しめる展示案内システムのデザインを設計する。また、ここで設計する展示案内システムは、車椅子の利用者がアクセスしやすい展示什器のデザイン設計、あるいは知的障害者の視点に立った展示資料の解説の在り方についても研究を展開する。また、博物館の中で資料を触ることの意義や、運用にあたっての安全性の在り方について、これまで3Dプリンターを利用した複製品を積極的に展示観覧のツールとして利用している博物館関係者と意見交換をおこない、触察展示の意義について明らかにする。
次に、触る展示資料の具体的な感染症対策について、研究代表者の日髙が中心となり、多くの人が触ることになる展示資料の感染症対策の方法論について研究を進める。ここでは、すでに医療分野や学校分野で利用されている抗菌剤を開発している企業に対して、基礎的な成分情報や残留成分の安全性、感染症対策でもとめられる抗菌剤の必要条件について意見交換し、展示資料に安全な抗菌剤と運用方法について明らかにするとともに、現行実施している消毒用エタノールによる手指消毒の効果、除菌ペーパーの効果について検証を進める。
さらに、展示資料の解説の在り方について、研究分担者の廣瀬浩二郎が中心となって、全盲者でもある廣瀬が視覚障害者の視点から、展示資料の解説の在り方を整理し、大阪府立大阪北視覚支援学校と連携して、展示案内システムの試作機をもちいた体験調査の調査項目の整理と調査を実施する。そこで、どのような視点からの解説が必要か、音声案内の速度など、解説で必要な要件について意見交換するとともに、資料を触ることからどのようなことに興味関心を持つのかを明らかにする。また、聴覚障害者への解説文の在り方については、聴覚障害者の協力を得て、意見交換をしながら、一画面に表示される字幕の最適文字数と画面の切り替えについて明らかにする。