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米国ポリファミリーにおける子育てを介した関係性に関する民族誌的研究(2022-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費

深海菊絵

目的・内容

研究の概要

本研究の目的は、米国の「ポリファミリー」の実態を民族誌的に描き出すと同時に、現代米国における「家族」の意味を問い直すことである。
その際、本研究ではポリファミリーを構成する人びとが交渉を通じて遂行的に「親」や「家族」となっていく過程に注目する。
本研究の方法はカリフォルニア州とマサチューセッツ州におけるフィールド調査と文献調査である。具体的には、(1)ポリファミリーの歴史的背景に関する調査、(2)ポリファミリーの形成過程や日常についての聞き取り、(3)法的側面についての聞き取り、(4)メディア言説分析、(5)ポリファミリーと他の形態の家族との比較研究(6)家族・親族に関する理論的研究、である。

研究の目的

本研究の目的は、米国のポリアモリー実践によって形成された「ポリファミリー」の実態をフィールドワークと文献調査から明らかにすることである。その際、ポリファミリー内の多様な絆のあり方に考慮しながら、人々が交渉を通じて遂行的に「親」や「家族」となっていく過程を明らかにする。この作業を通して、現代米国における「家族」の意味を問い直すと同時に、家族・親族論そのものを再考する。
フィールドワークは、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市とマサチューセッツ州サマービル市において行う。本研究では、(1)ポリファミリーの実態と社会的・歴史的背景に関する調査、(2)ポリファミリーの形成過程についての聞き取りと分析、(3)ポリファミリーに関わる法的側面についての聞き取りと分析、(4)ポリファミリーをめぐるメディア言説分析、(5)ポリファミリーと他の形態の家族との比較研究(6)家族・親族に関する理論的研究、に取り組む。

活動内容

2023年度実施計画

2023年度は、2022度に米国カリフォルニア州において実施したフィールド調査から得たデータを分析し、研究成果をアウトプットする。具体的には、7月に開催される家族問題研究学会の大会シンポジウムにおいて、発表(招待あり)を行う。本発表では、ポリファミリーの特徴や他の家族との共通性を明らかにすると同時に、ポリファミリーから現代米国社会における家族の問題を考察する。また、11月に開催される日本オーラル・ヒストリー学会の大会で発表し、人びとがなぜポリアモリーやポリファミリーを実践するに至ったのか、人びとの価値観がいかなる出来事によって生成されてきたのかについて、ライフヒストリーから検討する。これらの発表から得られた批判やフィードバックを参考に『家族研究年報』等への投稿論文を執筆する。同時に、研究成果の一部を組み入れた単著の執筆を進めていく。
調査に関しては以下の二つの調査を中心に進めていく。第一に、ポリファミリーをめぐるメディア言説分析である。本調査ではポリファミリーを取り上げた米国のテレビや新聞、ニュースサイト等を対象として、そこにどのような言説・表象が埋め込まれており、それらがいかに変化してきたかを明らかにする。さらに、ポリファミリー当事者によるSNS等への投稿を対象として、そこに寄せられるコメントに着目しながら言説分析を行い、ポリファミリーに対していかなる批判や賛同が見られるのかを把握する。
第二に、ポリファミリーに関わる法的側面についての調査を行う。2021年5月、マサチューセッツ州サマービル市は新型コロナウイルスの流行を背景として、同性カップルだけではなく、ポリアモリー実践によって形成された三人のパートナーシップをドメスティックパートナーシップ法において認めた。本調査ではこの事例に着目し、実際に保護を得たポリファミリーやポリファミリーを支援した諸団体、行政機関にて聞き取り調査と資料収集を行う。なお、本調査は2024年3月にマサチューセッツ州において実施する予定である。
これら二つの調査から、ポリファミリーを取り巻く権力の問題を明らかにする。

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は米国の「ポリファミリー」の実態を、民族誌的手法を通して明らかにすることである。本年度は、ポリファミリーの社会的・歴史的背景に関する文献調査を行うとともに、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市近郊においてフィールド調査を実施した。具体的には、米国における家族、フェミニズム運動、カウンター・カルチャーに関する研究の文献を読み進めた。
フィールド調査では、「ポリアモリー」概念が誕生する以前より合意のある非一夫一婦の関係を築き、ポリアモリー・ムーブメントに初期より深く関わってきた人物を対象とした聞き取り調査と、現在ポリファミリーを形成している人々を対象としたライフヒストリーの収集を行った。前者の聞き取り調査では、近代ポリアモリーの小史をまとめた『米国におけるポリアモリーの五〇年』の著者2名に話を伺い、ポリアモリー・ムーブメントの変遷や米国におけるポリアモリーおよびポリファミリーの受容のされ方を考察する上で有意義な語りのデータを得ることができた。
ポリファミリーを形成する人々を対象とした聞き取り調査からは、第一にポリアモリーおよびポリファミリーが経験する心理的・社会的葛藤、第二にかれらが自らの人生/日常において価値を置いていること、第三にポリアモラスな関係を築いている人びとが「家族」をどのようなものとして捉えているのか、に関する語りのデータを収集することができた。これらはファミリー構成員の緊張と社会規範、さらには規範に回収されないケアの三者の結びつきを考察する上で重要なデータであると言える。また、ライフヒストリーからは、過去に築いていた1対1のパートナーシップの経験や血縁親族との関係もかれらの理想の家族像や価値観を形成していることが示唆された。
これらのデータをもとに、米国ポリファミリーの実態を分析すると同時に、本研究の一部を組み入れた単著の執筆を進めている。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

本年度も研究計画はおおむね予定通りに進展している。第一に、ポリファミリーが米国に出現した社会的・歴史的背景を考察する調査において、アメリカ研究等の文献調査のみならず、ポリアモリーの近代史を出版した当事者らへの聞き取りが実施された点が挙げられる。これにより「当事者からみたポリアモリー・ムーブメントの出現と変遷」という新たな視点を得ることができた。
また、ポリアモラスな人びとを対象としたライフヒストリーの聞き取り調査では、4名に対して複数回に渡って聞き取りを実施することができたことは現地調査が3月に実施されたため、現地調査の成果は年度内にアウトプットすることができなかった。次年度以降に適切な媒体に論文として投稿することが課題である。
業績面についていえば、『結婚の自由:「最小結婚」から考える』(白澤社)に収められている論文「一夫一婦制を超えて/のなかで生きる」が挙げられる。