Select Language

民族誌アーカイブズとフィールド調査の接合による植民地初期台湾の先住民族社会の探究(2022-2026)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A)

野林厚志

目的・内容

本研究の目的は台湾の日本統治時代全期間にわたり先住民族政策に強い影響を及ぼした統治初期(19世紀末から20世紀初)の学術研究及び官製研究の内容を再検証し、当時の先住民族の生活の実像と調査の文脈を解明することである。具体的には、研究未着手の調査アーカイブズを精査し、当時の台湾地域社会における民族集団の実情、民族間関係、地域間の交通、交渉を検証する。従前で得られた知見を現実の地理的環境に落とし込み、現地の地勢や自然的、社会的環境条件とあわせ、より精度の高い社会状況の再構と文脈化を行う。これらの結果から推察された当時の社会像を、原住民族をはじめとする現地社会の歴史の当事者およびその子孫の人たちと検討し、民族社会の歴史的実像を再構する方法論としての、現地との協働による学術知見の共創プロセス、その基盤となる民族誌コレクション、調査アーカイブズ等博物館資料の調査・分析手法の研究モデルを確立する。

活動内容

2023年度実施計画

本研究課題は次の2つの内容をもって研究を進める。1) 民族誌コレクション、調査アーカイブ、考古学資料の分析・検証、2) 現地フィールド調査と国際共同研究の実施。本年度のそれぞれの内容に関する具体的な研究は、申請時の当初計画にしたがい以下の通り実施する。
1) 調査アーカイブ、民族誌コレクション、考古学資料の分析・検証
鳥居龍蔵の台湾学術調査の調査アーカイブと民族誌コレクションを対象とした分析を前年度に引き続き継続する。本年度はこれらに当時収集された考古学資料を加える。これにより、調査ルートと時間についての補完が可能となり、当時の地域情報の空白部分を埋めることが期待される。また、前年度の研究で明らかとなってきた植民地統治初期における調人物交流を検証するために、同時代の調査者(田代安定、森丑之助、漢族通事等)に関するアーカイブや歴史資料の調査、分析を進める。
2)現地フィールド調査と国際共同研究会の実施
研究参画者が各自の専門性を活かし、現地フィールド調査を東部海岸地域、蘭嶼、澎湖島等の島嶼部、南部・中南部山岳地域、原住民族、平埔族、漢族との接触地域で実施する。当時の想定される景観の継承や変化の検証を行い、それらが現在の地域の人々の歴史的記憶にどのような影響を与えているかを探究する。また、前年度のアーカイブ調査でテキスト化したアーカイブ資料の現地における照合調査とそれを検証するための国際研究会を台湾側の協力機関である国立台湾史前文化博物館南科考古館と合同で実施する。

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本年度は当初研究計画にしたがい、アーカイブとコレクションの調査、現地調査を並行して実施し、研究計画全体を方向づけるキックオフシンポジウムを実施した。
代表者の野林は本研究の主題となる鳥居龍蔵の領台初期の調査の足跡をフィールド調査で検証し、各地の民族の集住状況の歴史的検証から、鳥居の調査経路が、外部者の受容が容易であった多民族の混住地域であった可能性を知見として得た。分担者の長谷川は所属機関収蔵のアーカイブ資料の基礎調査を研究参画者とともに進めるとともに、国立台湾史前文化博物館との国際学術協定にもとづき、日台の国際共同調査を台湾南部を中心に実施した。記録上の言語や慣習が現在のソースコミュニティの成員の記憶とは必ずしも一致しないことを明らかにし、急速な文化変容の背景を掘り下げるとともに、他の地域との比較を検討する必要性を知見として得た。分担者の清水は古写真のデジタル復元、解析を行うとともに、復元の倫理規範に関する国際比較研究を進めた。芸術分野とは異なる倫理性が人文学の領域で必要となることについて台湾での国際シンポジウムで発表し、議論を深化させた。分担者の角南は物質文化資料の熟覧調査を進め、野林や長谷川が翻刻、分析を進めているアーカイブ資料調査との接合を可能とする基礎データの収集を進めた。分担者の田本は代表者らとともにアーカイブ資料の調査を進め、専門分野であるセデック社会や繊織工芸の歴史的変化に関わる基礎データの収集を行った。分担者の宮岡は領台初期の研究者間の交流を日本と台湾のアーカイブ資料の調査から探究し、その成果を日本と台湾の国際研究集会において発表した。
研究グループ全体では、台湾側研究者と本科研メンバーが参加するキックオフシンポジウムと位置づけられる国際研究集会を徳島県立鳥居龍蔵記念博物館において開催し、本年度の研究成果の公開と次年度以降の研究の方向性の議論を行った。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

当初計画にしたがい、代表者、分担者の所属機関の収蔵されている民族誌コレクション、アーカイブ資料の基礎調査、分析を代表者分担者の共同で実施するとともに、台湾側の研究者との国際共同調査を、日本側で実施しているアーカイブ調査の成果を活用しながら進めている。また、年度末には台湾側の協力機関である国立台湾史前文化博物館南科考古館を中心とした研究者を日本に招聘し、本研究参画者のほぼ全員が参加する国際研究集会を実施し、本年度の成果と次年度以降にむけた課題について議論を深めることができた。
計画にしたがった調査、研究、普及等を実施するとともに、代表者、分担者の研究が乖離せずに全体としての方向性を明確にしながら研究計画を進めていることから、おおむね順調に進展していると判断した。