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アジアの狩猟採集民の移動と生業――多様な環境適応の人類史

研究期間:2022.10-2025.3

代表者 池谷和信

キーワード

アジア、狩猟採集民、環境適応

目的

約700万年の人類の歴史のなかで、「狩猟採集民の時代」は99.8%以上を占めてきたといわれる。人類はその後農耕や牧畜、そして近代文明を発達させてきたが、現在までに先史時代の狩猟採集民の文化がまったく消えたわけではない。狩猟採集民は、農耕民や牧畜民との関係を維持して国家のなかではマイノリティとして位置づけられるなか、様々な創意工夫のもとに存続して現在にいたっている。本研究は、先史時代から現在までのアジアにおける狩猟採集民に注目して、彼らの環境適応の在り方を把握することが目的である。具体的には、アジアの環境を①寒帯・冷帯、②温帯・湿潤、③温帯・乾燥、④熱帯・高地、⑤熱帯・森林、⑥熱帯・島嶼の6つの生態地域に分けること(池谷2022)、狩猟採集民の時代、農耕民との共生関係や農耕民への同化の時代、前近代・近代における国家形成の時代、市場経済の時代の4つの時代に人類史を便宜的に区分する枠組みを提示し、各地域と時代における環境適応の在り方を、移動と生業に焦点を当てて、区分の有効性を批判的に検討する。
・池谷和信2022「狩猟採集民の生存戦略-移動と環境適応」稲村哲也ほか編『レジリエンス人類史』京都大学学術出版会。

2024年度

1回目は、アジアの環境のなかで熱帯・島嶼地域を対象にして、移動と生業からみた人類の環境適応の在り方を議論する。具体的に、東南アジアから東アジアにかけての熱帯・亜熱帯の島嶼・海洋が主な対象になる。2回目と3回目では、これまでのアジアの生態地域ごとのテーマでの議論をふまえて生態地域を越えての時代別の比較研究に展開していく。とくに2回目は、狩猟採集民の時代、農耕民との共生関係や農耕民への同化の時代、3回目は、前近代・近代における国家形成の時代、市場経済の時代の研究に焦点を当てる。また、これらの時代区分は便宜的なものであるので各地域の多様性をふまえての新たな時代区分をめぐる議論をする。以上をふまえて4回目には、アジアの狩猟採集民の移動と生業に関する生態地域と対象時代の異なる事例研究をふまえて理論人類学的な考察をすると同時に、研究成果を論文集として刊行するためにアジアの狩猟採集民の移動と生業をめぐる全体像をまとめていく。

【館内研究員】 小野林太郎、齋藤玲子、平野智佳子
【館外研究員】 高倉純、藤尾慎一郎、海部陽介、井原泰雄、河合文、山岡拓也、佐々木由香、加藤裕美、門脇誠二、近藤康久、渡辺和之、佐藤廉也、中井信介、大石侑香
研究会
2024年4月20日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信「趣旨説明:人類の島嶼・海洋適応について」
小野林太郎(国立民族学博物館)「先史時代の海洋適応-東南アジア、オセアニアの事例」(仮題)
コメント 未定
討論
高宮広土「狩猟採集民のいた島 奄美沖縄の先史時代」(仮題)
コメント 未定
討論
全体討論
2024年4月21日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
藤尾慎一郎「弥生時代の島嶼適応-南北市(し)糴(てき)の舞台・壱岐」(仮題)
討論
池谷和信「近現代の島嶼の暮らし-アンダマン・ニコバル諸島の事例」(仮題)
討論
全体討論

2023年度

1回目は、アジアの環境のなかで温帯・湿潤地域(とくに日本列島)を対象にして、移動と生業からみた人類の環境適応の在り方を議論する。
2回目は、アジアの環境のなかで温帯・乾燥地域(とくに西アジアのヨルダン)を対象にして、人類の環境適応の在り方を議論する。
3回目は、アジアの環境のなかで熱帯・高地(とくにネパールヒマラヤ)を対象にして、人類の環境適応の在り方を議論する。
4回目:アジアの環境のなかで熱帯・島嶼を対象にして、人類の環境適応の在り方を議論する。
5回目は、アジアの狩猟採集民の移動と生業に関する理論人類学的な考察をする。

【館内研究員】 小野林太郎、齋藤玲子、平野智佳子
【館外研究員】 高倉純、藤尾慎一郎、海部陽介、井原泰雄、河合文、山岡拓也、佐々木由香、加藤裕美、門脇誠二、近藤康久、渡辺和之、佐藤廉也、中井信介、大石侑香
研究会
2023年4月15日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信 本年度計画・趣旨説明:「東アジアの狩猟採集民の移動・生業・社会関係」
報告:佐々木由香「縄文時代の植物資源利用」
コメント 大石侑香
討論
報告:藤尾慎一郎「朝鮮半島と西日本における人びとの移動・移住、生業、社会組織ー紀元前5,000年~紀元前6世紀-」
コメント 中井信介
討論
全体討論
2023年4月16日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信  趣旨説明:「東アジアの狩猟採集民の移動と資源利用」
報告:山岡拓也 東アジアにおける旧石器時代の狩猟採集民研究の論点-日本列島を中心に-(仮)
討論
報告:齋藤玲子「アイヌの植物採集活動」(仮)
討論
コメント 高倉純
全体討論
2023年7月29日(土)13 :00~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信・趣旨説明
報告1:門脇誠二「レヴァント地方における後期更新世の狩猟採集の変化と完新世の狩猟活動」
コメント: 高倉 純
報告2:三宅 裕「アナトリア新石器時代における定住狩猟採集民の社会」
コメント:池谷和信
民博・コレクシヨン展示「ハンターからみた地球」について(解説:池谷和信)
全体討論
2023年7月30日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
報告3:近藤康久「ショワイの起源:南東アラビア山間部における先史狩猟採集民のヤギ牧民化についての一試論」
コメント:黒沼太一
報告4:佐藤廉也「エチオピア南西部の地域生態史-焼畑の民の移動、生業、民族間関係」
コメント:中井信介
全体討論
2023年9月30日(土)13:00~18:00(国立歴史民俗博物館)
池谷和信・趣旨説明
報告1:海部陽介「アジア地域におけるホモ・サピエンスの初期拡散」
報告2:井原泰雄「資源、狩猟採集民、農耕民の力学モデル(仮題)」
歴博総合展示の見学―旧石器、縄文、弥生に注目して-
全体討論
2023年10月1日(日)9:30~12:30(国立歴史民俗博物館)
報告3:平野智佳子「アボリジニの移動と生業(仮題)」
報告4:藤尾慎一郎・池谷和信「狩猟採集民と農耕民との関係―歴博と民博の展示比較(仮題)」
全体討論
2023年12月9日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信(国立民族学博物館)「趣旨説明:山地の狩猟採集民の移動・生業・社会関係」
稲村哲也(放送大学)「ヒマラヤの狩猟採集民ラウテの移動と生業」(仮題)
コメント 中井信介(佐賀大学)
討論
渡辺和之(阪南大学)「ヒマラヤの移動形態の多様性」(仮題)
コメント 大石佑香(神戸大学)
討論
全体討論
2023年12月10日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
橘健一(立命館大学)「ネパール先住民チェパンの狩猟採集と移住」(仮題)
討論
加藤裕美(福井県立大学)「ボルネオの狩猟採集民シハンの移動と生業」(仮題)
討論
全体討論
研究成果

2年目は、合計で4回の研究会を開催することができた。すでに初年度に、アジアにおける多様な生態ゾーンのなかで①極北・北アジアと②湿潤熱帯・東南アジアを対象にして狩猟採集民の移動と生業をめぐる研究会を行っているので、③湿潤温帯・東アジア、④温帯乾燥・西アジア(レヴァント、トルコ、アラビア半島)、⑤ヒマラヤの高山地帯に暮らす狩猟採集民、そして「初期拡散と狩猟民・農民関係をめぐる理論的研究」をめぐる研究会を開催することができた。その結果、⑥熱帯・温帯の島嶼部での狩猟採集民における海洋適応の過程の解明が残されたテーマとして挙げられる。なお、歴博総合展示のなかで旧石器、縄文、弥生時代の展示に注目して、民博・企画展ではカナダの北西海岸の先住民のアートなどを移動と生業の視点から見学できた。

2022年度

・1年目:合計で2回の研究会の開催予定。
1)2022年10月、1回目の研究会を開催。今回の研究の趣旨説明と基本概念の検討。とくに狩猟採集民や移動や技術や生業などの基本概念が考古学、文献史学、民族学の分野で異なるので、それらの調整をはかる。
2)2022年12月、2回目の研究会を開催。アジアを6つの地域類型①寒帯・冷帯、②温帯・湿潤、③温帯・乾燥、④熱帯・高地、⑤熱帯・森林、⑥熱帯・島嶼に分けるが、地域によっては考古学の成果が中心であったり民族学が中心になったりして、6つの生態地域について、同じように通時的に移動と生業を明らかにできるわけではない。しかしながらこの回では、①寒帯・冷帯地域に焦点を当てる。この地域の先史時代、帝政ロシア期、社会主義以降の3つの時代区分からトナカイ猟や海獣狩猟や毛皮利用の歴史を展望する。考古と民族(チュクチ)の研究成果の融合を試みる。

【館内研究員】 小野林太郎、齋藤玲子、平野智佳子
【館外研究員】 高倉純、藤尾慎一郎、海部陽介、井原泰雄、河合文、山岡拓也、佐々木由香、加藤裕美、門脇誠二、近藤康久、渡辺和之、佐藤廉也、中井信介
研究会
2022年11月5日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信(国立民族学博物館)「イントロ――アジアの狩猟採集民の実像を探る」
参加者の報告1:各自が5分の研究紹介および5分の質疑
企画展『海のくらしアート展――モノからみる東南アジアとオセアニア』の見学30分
解説:小野林太郎(国立民族学博物館)
参加者の報告2:各自が5分の研究紹介および5分の質疑
全体討論
2022年11月6日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
テーマ:アジアの寒帯・冷帯の「狩猟採集民」
参加者の報告3:各自が5分の研究紹介および5分の質疑
趣旨説明
高倉純(北海道大学埋蔵文化財調査センター)「北アジアの移動と生業――旧石器から新石器へ」(仮題)
大石侑香(神戸大学)「シベリアにおける移動と生業――ハンティの事例」
池谷和信(国立民族学博物館)「シベリアにおける移動と生業――チュクチの事例」
全体討論
2023年1月21日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
池谷和信(国立民族学博物館)「趣旨説明:湿潤熱帯の狩猟採集民からの視点」
本郷一美(総合研究大学院大学)「先史時代におけるマレー半島における狩猟採集民の生業――動物考古学の視点」(仮題)
河合文(東京外国語大学)「半島マレーシアの狩猟採集民バテッの移動と生業」
中井信介(佐賀大学)・池谷和信「ムラブリの移動と生業」
全体討論
2023年1月22日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館 第7セミナー室)
テーマ:Migration and livelihoods of hunter-gatherers on three continents (英語開催)
Kazunobu IKEYA (NME)“Introduction: Comparison of tropical forests on three continents”
Serge BAHUCHET (Visiting Researcher, National Museum of Ethnology, Professor émérite , Musée de l’Homme, France) “Some notes about Central Africain rainforest Hunter-gatherers and their neighbors : history, migrations, adaptations”
Q & A (Serge Bahuchet)
Pei-Lin YU, 余琲琳(Visiting Researcher, National Museum of Ethnology, Professor, Boise State U. Department of Anthropology, USA) “Comment: Perspectives from the Americas”
Discussion
General Discussion and observing hunting equipment at the Southeast Asia exhibit area in Minpaku
研究成果

2022年度は、予定どおり2回の研究会を開催することができた。まず1回目では、代表者がアジアの狩猟採集民研究の展望をしたあとに、個々のメンバーが本研究会のテーマにからめて自らの研究を紹介した。この結果、考古学と民族学との基本概念の使い方の違いや、現象を把握する際の時間スケールの違いなど、学際的研究を進めるうえでの注意点が指摘された。そして、アジアの多様な環境のなかで寒帯・冷帯が選ばれて、そこでの考古学的研究とツンドラとタイガという異なる環境での民族学的研究の接合がなされた。また2回目では、アジアの環境のなかでの熱帯・森林が選定されて、前半ではマレー半島の考古学と民族学、そしてタイ北部の狩猟採集民の生業に焦点を当てた研究が報告された。後半では、熱帯アジアと類似の自然環境であるコンゴ盆地と熱帯アメリカの地域生態史を含めた比較研究から熱帯アジアの地域特性が明らかにされた。