「応答しすぎない倫理」に関する人類学的研究―モザンビーク島の近隣関係を事例に(2022-2023)
科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援
松井梓
★2022年8月1日転入
目的・内容
研究の概要
本研究はモザンビーク島の居住地区で相互に緊密に関わりあう女性たちの近所づきあいを事例とする。他者との共在の倫理の議論では、目の前の相手を真剣に受け止め、不断に応答し関係の調整をする実践が重視されてきた。他方で本研究の目的は、他者に真剣に応答しすぎずに受け流す態度を肯定し、それでもなお立ち上がる他者への倫理を提示することである。具体的には、調査地での(1)食の授受、(2)ゴシップの応酬の場面で、女性たちがいかに相手に応答しすぎずに儀礼的に関わりあうのか、それがいかに相手の存在を許容することに繋がるのかを事例から示す。
研究の目的
本研究の目的は、モザンビーク島のバイロという居住地区に住む女性たちが、相互に真剣に応じ過ぎず、相手を放っておいたり儀礼的に振舞ったりする態度がいかなる他者との共在の倫理を生むのかを明らかにすることである。そのため、本研究では、これまでおこなってきた同地区での実地調査を継続し、人口が稠密なゆえに親密さと軋轢が併発する近所付き合いに焦点を当て、1)隣人や共住者との間で起こる食べ物の授受、2)個々の人格を上書きするゴシップの応酬、3)親密さと摩擦を行き来する倫理観の形成を検証する。
活動内容
補助事業期間中の研究実施計画
2022年度は、まず、10~12月にゴシップおよび倫理にかんする人類学的研究など、関連する文献の渉猟をおこない、先行の議論を整理する。1月に現地調査の予定を立てたのち、2~3月には、合計約2か月の現地調査を実施する。調査項目は、申請書に記載のとおりである。2023年度は、まず4月に、現地調査で得られたデータを整理し、5~6月の日本アフリカ学会および日本文化人類学会の学術大会にて発表をおこなう。加えて、不足しているデータを整理し、現地調査の計画を立てる。その後、7~10月にかけて現地調査をふたたびおこない、第一回目の調査で得られなかったデータや、新たに必要性が認められたデータを収集する。11月にデータを整理したのち、12~2月にかけて論文を執筆し日本文化人類学会の学会誌へ投稿する。