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文化財科学的手法を用いた古代オアシス都市における食文化研究(2023-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(萌芽)

寺村裕史

目的・内容

研究の概要

本研究は、ウズベキスタン・サマルカンド周辺の考古遺跡から出土した動植物遺存体のDNA分析を軸として生物種同定を行うことで、紀元6~8世紀頃にどういった植物・動物が食べられていたのか、そして当時の人々の食文化がどのようなものであったのか、またその伝播経路について考察する。その目的を実現するために、発掘現場等でのDNA簡易迅速定量法や、考古資料に対する効率的なDNA抽出法に関して研究分担者と共同研究を実施し、海外の調査現場において分析化学の専門家でなくとも試料サンプリングを可能にする簡易的手法を実証することによって、生物種同定の簡便化に向けた基礎的研究にも取り組む。

研究の目的

本研究は、ユーラシア大陸におけるシルクロードを通じた東西交流(東洋と西洋)の結節点としての古代オアシス都市における当時の食文化を、文化財科学的な手法を用いて明らかにすることを目的とする。具体的には、中央アジアのウズベキスタン共和国・サマルカンド州に所在する古代の都市遺跡であるダブシア遺跡とカフィル・カラ遺跡において出土した、動植物遺存体のDNA分析を軸として生物種同定を行うことで、紀元6~8世紀頃にどういった植物・動物が食べられていたのか、そして当時の人々の食文化がどのようなものであったのか、またその伝播経路を考察する。
また、その目的を実現するために、考古資料に対する効率的なDNA抽出法に関して研究分担者と共同研究を実施し、海外の調査現場において専門家でなくとも試料サンプリングを可能にする簡易的手法を実証することで、生物種の同定の簡便化に道を切り開くことに挑戦する。

活動内容

2023年度実施計画

研究代表者である寺村裕史と研究分担者である押鐘浩之が、現地(ウズベキスタン共和国、カフィル・カラ遺跡およびサマルカンド考古学研究所)に赴き、実際の発掘調査現場での動植物遺存体の出土状況や、遺物取り上げ後の試料の保管状況等を、まずは確認する。その上で、各試料の状態によって最適なサンプリング方法を検討し、日本に持ち出せる試料については、試行的に日本での分析を押鐘が実施する。具体的な試料としては、西アジアが栽培起源地とされており比較対象となる遺伝情報の蓄積が豊富なムギ、出土量が多いヒツジの骨を想定している。(令和5年度)
次年度は、令和5年度に確認した状況をもとに、本格的な試料サンプリングを現地で実施することに加え、DNA分析方法の改良など考古資料に最適化した形での新規方法論の確立を目指す。炭化している試料に関しては、従来はDNAの熱分解によりDNA情報の抽出は困難であるとされてきた。研究分担者の押鐘は、土器片等に残存する有機物から生物情報を抽出・同定する方法に関する研究実績も有しているため、そうした新規技術を援用しながら調査方法の開拓・実践を共同研究として実施する。(令和6年度)
そして最終的には、DNA配列解析によって家禽であれば系統、作物であれば品種まで同定可能であることから、その生物種が何処から来たのか(from)、何処へ伝播したのか(to)という伝播経路に対して科学的データを提供できることから、食文化に対する研究を通して東西交流の結節点としての古代オアシス都市の意義を再発見できる可能性を見出すことを目標とする。
なお、現地の共同研究先機関であるサマルカンド考古学研究所とは、研究代表者である寺村の所属する国立民族学博物館との間で、学術協力に関する協定(MOU)を締結しているため、全面的な国際協力関係のもと、本研究課題を実施することが可能である。