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アオウミガメを例にした稀少動物に対する人為空間の構造的理解に向けての比較研究(2019-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援

高木仁

目的・内容

本研究の目的は、地球上で稀少となっている動物に着目して、人類がそれを巡ってどのような人為環境の空間を作り上げているのかを研究することである。これまで申請者はカリブ海にて草食性のウミガメが最も多く漁獲されているモスキート・コースト先住民自治州にて学術調査研究を行ってきたが、そこで見えてきたのは先住民らの残虐性のみだけではなく、近代化された社会における動物の強い管理統制志向でもあった。
本研究では更に広くカリブ海や大西洋、インド沖へと赴き、大航海時代から始まったとされる英国人(旧英領ジャマイカ・英領ケイマン諸島・旧英領トリニダード・トバゴ島・セーシェル諸島)による開発史を追跡して更に理解を深めていく。

活動内容

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本年度の研究活動スタート支援「アオウミガメを例にした稀少動物に対する人為空間の構造的理解に向けての比較研究」では、地図学・地球地図整備・地球測地観測網などの研究についての学習と共に、①地球上の異なる二つの空間(a. 北緯40~45度、b. 北緯30度付近)を設定し、その二点における現地調査をおこなった。また、②近代的な科学技術の影響の一例として、最新型の感染症ウィルス蔓延下における人為活動について記録を残した。以上の成果やこれまでの申請者の研究(A民族の研究)を用いて、近代的な科学技術を用いた稀少動物に対する人為的な空間構造の人類学的(又は人間学的)な特殊性は、どのようにして理解できるかについての検討をおこなっている。以下は、①現地調査結果及び②成果の簡単な概要である。
①現地調査:(a. 北緯40~45度)北緯40~45度は冷帯・亜寒帯に属する。この地には湿原がある。この湿原近くには廃線も多い。自然が人為を圧倒するような印象を与える。鹿が線路に突如現れてきて、電車と衝突するようなことも度々おこる。熊が畑に巣を作って住人たちの脅威となるような場所でもあり、狐が媒介する感染症にも怯えて暮らすような場所であった。特産物の鮭が産卵に訪れるような河川は、冬の間に堤防の改修をおこなうなどして、漁期に重ならないように泥水の流出を管理する。こうした整備が積雪期の間に仕事のなくなった季節労働者に貴重な富をもたらす。(b. 北緯30度付近)緯度N30°付近は熱帯・亜熱帯に属する。この空間はほとんどの場所が海に沈んでいる。隆起した火山島では獣害や除草が大きな課題となる。積雪の残るaと対照的に、bは気温が20度を超え、原生を彷彿とさせる自然を開拓した暮らしが残る。
②成果:近代的な科学技術の影響の一例として、最新型の感染症ウィルス蔓延下での暮らしについての生活記録簿の研究をおこない成果を発表した。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本年度は昨年度から引き続き、申請者のこれまでのカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を基礎として、それと密接な関係を持ってきた19世紀・20世紀のイギリスによる開発を例にして、近代的な科学技術を用いた私たちの生物科学的な知見がどのようにそれと対比できるのかについて研究をおこなった。
本年度研究に至る前、フロリダ大学のアーチエ・カール生態学研究所にて研究成果の発表をさせていただき、その時に古典的な海亀の生態研究や保護の調査技術(個体への標識づけ)に触れた。本年度はカリフォルニアを中心に研究しているグループにコンタクトを取り、彼らの行っているより電子的でリモートでの管理コントロールを可能にしている最先端の全地球測位システムやSNSを用いた3D追跡調査についての教示を得て、近代的な科学技術を用いた私たちの生物学に対して更なる理解を深めることが出来た。
本年度は渡航自粛を受けて、海外での学術調査は見合わせたが同じく人類史上における有益動物の文化誌(海亀・金魚・ラクダ)を研究している学者らと協力して特集を組んだり、他の動物にはない空間的広さを持った海亀の管理コントロールの特性を学ぶなどして、極例として対置されるミスキート・インディアンの民族誌の重要性を再確認することも出来た。
本年度はまた、オセアニアにおける考古学(ピーター・ベルウッド著(1989)『太平洋 東南アジアとオセアニアの人類史』)及び古典的な民族誌(松岡静雄著(1927)『ミクロネシア民族誌』)を中心にして文献研究をおこない、特に顕著な物証が残っているラピタ文化遺跡での研究や、東ミクロネシアのシャウテレウル王朝時代に、研究対象としている稀少動物の複合的な人為空間での管理コントロールと類似した状況にあった可能性を確認することが出来た。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

本年度もコロナ・ウィルスの蔓延によって海外調査が制限されることになったため、本研究の目的である大航海時代以降の英国人による開発史に関する現地資料の収集には至っていないが、2019年から行っている図書館をベースにした文献研究によって大まかな潮流をとらえることが出来たので、進捗状況はおおむね順調としている。
また、本研究で把握しようと試みている近代的な科学技術を用いた私たちの生物学的な動物保護の知見(海亀の空間的な管理統制)についても、他の稀少動物(海亀・金魚・ラクダ)の文化誌の研究者らと特集を組んだり、研究協力を行うなどして一定の成果が上がってきた。また、海外の生態学者から最先端の技術について教示を得て理解を深めることが出来たなど一定の成果を得ることが出来たと考えている。
本研究遂行の途中で考古学研究と接点を持つ機会にも恵まれたことも大きかった。印東道子著(2017)『島に住む人類』の中で、「海亀の肉は陸上動物の肉のように高い価値を持ち、栄養に富んだ内臓や卵、脂肪などが住民に分配される。まさに海から獲得した獲物なのである」という記録が残っている。こうしたオセアニアでの近年の研究を頼りに、ミクロネシアやメラネシアにおける考古学文献を調査を行ったところ、高度に発達した考古遺跡や居住跡からも、ミスキート・インディアンの民族誌と同じように稀少動物(海亀)の増減や、その絶滅に向き合って暮らしていた人々がいた可能性が明らかとなった。
こうした昨今の私どもの状況と重なるようなこうした疑問点を異なる分野から得ることが出来たのは大きかったように思う。今後の研究推進に対しても大きな示唆を得ることが出来たと考えている。

2019年度活動報告

本年度は、これまでの申請者のカリブ海のミスキート・インディアンに対する学術調査成果を発展させるため、広く世界の大洋でどのように人々が稀少動物のアオウミガメを介した生活を営んでいるのかを、古典文献や最近の報告資料から分析する作業に従事した。上記作業によって明らかになって来たことを以下にまとめた。
1)南太平洋のパプア・ニューギニア、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島、オーストラリア北部(トレス海峡)、ミクロネシア連邦、インドネシア東部の近海域で、かなり類似性を持ったウミガメを介在した文化が存在することである。調査した文献によれば、これらの海域の民族はウミガメに対して類似した呼称を有するなど、文化的にも共通点が多い。現代のインド洋ではソマリア近海でのみ漁獲・消費が現在でも行われているが、1980年に提出された文献では、その利用は海域全体にわたっており、イスラム教徒の暮らすスワヒリ海村などでは大きな変化が生まれている可能性が示唆されることとなった。大西洋・カリブ海では19世紀の開発の中心となった英国とつながりの深い地域(ベリーズ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ)のクレオール海村や先住民の土地での漁獲が現在でも続いており、特に英領ケイマン諸島が周辺の民族へと及ぼした影響の大きさが本研究によって明らかとなって来た。
2)こうした直接的な消費地の他にも、アオウミガメの生息域や繁殖域の外の国々では、全地球測位システムを用いて、アオウミガメの回遊路や動態をリアルタイムに把握するなどの管理統制努力がみられる。南西諸島で行われているアオウミガメの保護や回遊路の把握もそうした試みの一つとしてとらえてみたい。次年度は上記で得られた研究結果をもとに稀少動物(アオウミガメ)に対する人為空間を構造的に理解するための3次元マップの作製するなどして、新たな見解を提示していきたいと考えている。