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オセアニアの人類移住と島嶼間ネットワークに関わる考古学的研究(2018-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))

小野林太郎

目的・内容

研究の目的

本研究はミクロネシアに位置するポンペイ島とその周辺離島にある先史遺跡群を対象とした国際共同研究である。その第一の目的は、まだ考古学的痕跡や資料が不足している、ポンペイ島を中心とする東ミクロネシアの島々へ最初に移住した人類集団の起源地や移住戦略を示す明確な考古学的データの発見・収集である。とくに、先行研究で指摘されてきた、メラネシア離島域からの人類移住に関わる直接的痕跡の発見と、初期移住期における島嶼間交流ネットワークに基づく関係性の解明がある。具体的には以下のテーマを発掘を含む共同調査により解明する。
(1)土器・黒曜石分析に基づくメラネシア‐ミクロネシア間の人類移住・文化接触
(2)動物・人骨の形態・DNA分析に基づく移住集団の同定と移住戦略
(3)初期移住期の海洋環境・航海シュミレーション分析に基づく移住経路

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本年度はコロナによるミクロネシアへの渡航制限が解除され、年度後半になりミクロネシアでの共同発掘調査を再開する目途が立ったため、2023年2月~3月にかけて新たな発掘調査を実施することができた。また年度前半においては、これまでの発掘調査で出土した考古学的資料の分析やデータ化を進めることができた。資料の分析に関しては、分担研究者の山野らによる出土貝製品の分析や実測・撮影によるデータ化がさらに進んだほか、土器については、山極による土器片のエックス線分析や復元研究が進められた。こうした新たに得られた考古学的データは、論文による公表を目指し、その執筆も進めている段階にある。一方、研究協力者の長岡は調査地となるポンペイ島やその近隣にあるカピンガマランギ環礁で収集された黒曜石の産地同定分析に基づく研究成果を国際学術誌に公表した。
2023年2月より再開した発掘調査では、2019年までに発掘を行ったレンゲル島のA-27遺跡にて攪乱の可能性が少ないと予想される新たな区画を対象とした発掘を実施した。その結果、レンゲル島への移住初期層と認識される第3層から大量の土器片のほか、黒曜石や釣り針を含む貝製品の出土を確認した。複数の黒曜石の出土は今回が初であり、シャコガイ製と推測される貝製釣り針の出土も初となるなど、新たな発見や知見を得られる発掘となった。これら新たな成果についても鋭意分析中であり、国内外における学術誌や学会等にて公表を計画している。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

今年度はコロナによる影響が減少し、計画してきた現地での国際共同研究発掘調査の再開が出来た結果、これまで2度にわたって実施してきた発掘調査では出土が確認できなかった貝製釣り針や複数の黒曜石を収集できたことは大きな成果と認識できる。また過去の発掘で出土した考古資料の分析も大いに進展しており、学術論文としての公表に向けての執筆開始できる段階にまでたどり着けた点も含め、当初の計画以上に進展していると判断した。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本年度もコロナによる影響により、計画していたミクロネシアでの共同発掘調査は実施することができなかったが、これまでの発掘調査で出土した考古学的資料の分析やデータ化、およびその公表においては一定の成果があった。資料の分析に関しては、分担研究者の山野らによる出土貝製品の分析や実測・撮影によるデータ化がかなり進んだほか、新たに貝製品のみを対象とした炭素年代測定を実施し、その多くが移住初期にさかのぼる物質文化であることを確認できた。土器については、分担研究者の山極や片桐による分析と他地域との比較検討を進めることができた。
こうした新たに得られた考古学的データを基に日本語での論文公表を行うことができた。この論文では初年度に実施した発掘調査の成果を軸に遺跡の年代、出土遺物の項目別の検討、とくに貝製品や貝類遺存体と土器を軸としたデータの整理と検討を行い、西ミクロネシアにおける人類移住と資源利用のあり方について議論を展開した。
一方、ミクロネシアにおける海外カウンターパートとの協力関係においては、コロナ禍のために共同研究の実施はできなかったものの、メールやzoomでの打ち合わせを通し、関係強化と維持を継続した。コロナの状況が好転した場合は、すぐに共同調査を開始できるための計画についても検討を行っている。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要においても指摘したように、今年度もコロナによる影響で計画してた現地での共同研究(発掘)は実施できなかった。しかし、それ以前に2度にわたって実施してきた発掘調査で出土した考古資料の分析については、大いに進めることができた。またその成果の一部を学術論文として公表できた点も考慮し、おおむね順調に進展していると判断した。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本年度はコロナによる影響により、計画していたミクロネシアでの共同発掘調査は実施することができなかったが、これまでの発掘調査で出土した考古学的資料の分析やデータ化、およびその公表においては一定の成果があった。
ます資料の分析に関しては、分担研究者の山野らによる出土貝製品の分析や実測・撮影によるデータ化がかなり進んだ。また出土した貝類遺存体や動物遺存体の同定分析もほぼ完了し、時期的な変化の把握・理解が進んだ。土器については、分担研究者の山極や片桐による出土した土器片の復元分析や、山極による土器片のエックス線分析により、下層に主に中中するCST土器は、複数の胎土産地をもつグループに分けられることが確認された。また口縁部の復元からは、初期の土器群の形態的多様性も確認した。年代測定に関しても、2019年度の発掘で新たに得られた炭化物、貝類資料のC14測定を新たに実施し、発掘したレンゲル島遺跡の下層が2000年前頃まで遡ることを改めて確認した。
こうした新たに得られた考古学的データを基に国際学会でオンライン発表を行ったほか、論文による公表を目指し、その執筆も進めている段階にある。一方、ミクロネシアにおける海外カウンターパートとの協力関係においては、コロナ禍のために共同研究の実施はできなかったものの、メールやzoomでの打ち合わせを通し、関係強化と維持を継続した。また来年度にコロナの状況が好転した場合は、すぐに共同調査を開始できるための計画についても検討を行ってきた。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究実績の概要においても指摘したように、今年度はコロナによる影響で計画してた現地での共同研究(発掘)は実施できなかった。しかし、それ以前に2度にわたって実施してきた発掘調査で出土した考古資料の分析については、大いに進めることができた。またその成果の一部を国際学会で発表できる段階まで整理できた点や、学術論文としての公表に向けての執筆開始できる段階にまでたどり着けた点から、おおむね順調に進展していると判断した。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究では、これまでオセアニアへと拡散した人類による島嶼間移住やネットワークに関わる考古学的証拠の発見を目的とし、主に東ミクロネシアにおける人類移住の拠点と考えられてきたポンペイ島での初期居住遺跡の発掘調査を、現地の研究機関およびオセアニア考古学をリードしてきたアメリカやニュージーランドの諸大学との国際共同研究として実施してきた。このうち2019年度の成果としては、まず2019年8月から9月にかけてポンペイ島の離島となるレンゲル島での発掘調査の実施があげられる。2018年度に実施した発掘の継続調査となる2019年度の発掘では、移住初期と推定される約2000年前の年代値が複数得られた下層の白砂層をターゲットとした。
一方、太平洋戦争時に日本軍の拠点となり、アメリカによる空爆も受けたレンゲル島は、島内各地の上層が撹乱を受けており、その影響が少ないエリアの特定が必要となった。このため、昨年度のトレンチを基点にその周囲に拡張する形で複数の試掘坑(テストピット)を開けた。その結果、下層の白砂層が撹乱の影響を全く受けていない地点を特定でき、またこのエリアでは白砂層から多数の赤色土器や貝類遺存体、炭化物の出土を確認できた。出土した赤色土器は、ミクロネシアにおいて初期移住期に各地で確認されているCST土器と呼ばれる白砂が混和材として土器中に含まれるもので、初期における物質文化として知られるものである。しかし、非常に脆い性質があり、形態が把握できる程度に一括で発見されることは稀である。ポンペイにおいてもこうした発見はまだほとんどなく、今回の発見によりその形態復元も含めた移住初期における土器の特徴や利用に関する研究を進めることが可能となった。
このほか、発掘成果を現地の青少年を対象に紹介する展示会の実施や成果の一部を国際学会にて発表したことも2019年度の成果である。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

ミクロネシアの離島域における発掘でCST土器に代表されるような、初期居住期の物質文化を多数発見できることは稀であり、2018年度より開始した調査ですでに初期移住期と推測される文化層や豊富な考古遺物を発見できたことは、極めて重要である。加えて炭化物や貝類の出土も多く、炭素年代測定に基づく詳細な遺跡の形成年代の把握も進んでいる。また考古データの分析も共同研究として進んでおり、海外研究者との国際的な共同研究としても発展している点は強調できる。またこれらの成果の一部は、ニューギニアのポートモレスビー市で開催された国際学会で発表したほか、ポンペイ島における展示会の実施による現地社会への成果還元も昨年度同様に継続的に実施することができた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると評価する次第である。

2018年度活動報告(研究実績の概要)

本年度における研究実績としては、2019年2月より開始したミクロネシアのポンペイ島での発掘調査が挙げられる。この調査は、本科研における研究協力機関で、研究地域におけるカウンターパート機関でもあるポンペイ州の歴史保存局(HPO)との共同調査として実施されたものでもある。その対象となった遺跡は、
ポンペイ島の周囲を囲むリーフ内に位置する離島の一つ、レンゲル島の沿岸で発見された先史遺跡である。2008年にHPOによって実施された試掘調査では、この遺跡より約2000年前以降の初期移住期における土器と認識されてきたCST土器や黒曜石が出土した。また黒曜石の産地同定による結果、これらがメラネシアのアドミラルティ諸島産のものであることが判明していた。これに対し、今回のより大規模な発掘では、白い砂層からなる下層より、多数のCST土器片や貝製品が出土し、この層が初期移住期に遡る居住痕跡を包含していることが改めて確認できた。一方で、期待していた黒曜石の出土はこの調査では確認できなかったが、年代測定を可能にする多数の炭化物や貝類、動物遺存体を収集することができた。これらの考古資料により、今後の遺跡年代の確定、ミクロネシア~メラネシアを含めた物質文化との比較分析による初期移住集団の起源地の特定を目的とした研究を進めることが可能となる。また遺跡の分布域や未攪乱地帯の特定という点においても、大きな成果があった。本年度の発掘は、本科研における最初の調査でもあるため、この調査を起点とし、来年度におけるさらなる発掘区域の拡張へと繋げる見込みが付いたことや、国際的な共同研究を実施する上でのメンバー間での連携強化も重要な実績として指摘できる。

2018年度活動報告(現在までの進捗状況)

まず計画通りに発掘調査の実施を実現できた上、白い砂層からなる下層より、多数のCST土器片や貝製品が出土し、この層が初期移住期に遡る居住痕跡を包含していることが改めて確認できたことが指摘できる。一方で、黒曜石の出土は確認できなかったものの、まず必要となる年代測定を可能にする多数の炭化物や貝類、動物遺存体を取集することができたことは極めて重要である。考古学的調査は、発掘してみないとどこまでの成果があるか想定できない面も多いため、今回のように多くの出土遺物や発見があったことは、計画以上の成果と認識できよう。同じく今回の発掘を通し、日本側のメンバーと現地のHPOを中心とした研究メンバーとの連携強化がはかれたことも大きな成果と考えている。