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食の認識体系とその変容ータイにおけるMSG(グルタミン酸ナトリウム)の消費と拒絶(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援

大澤由実

目的・内容

本研究は、グローバルに消費されるMSG(グルタミン酸ナトリウム)を例に、その消費と拒絶という食の選択に着目し、選択の背景にある食の認識体系がどのように構築され変容するのかを明らかにする。現在調味料や添加物として消費されているMSGは、日本での販売からわずか半世紀足らずで世界中に消費が広まった。同時に、MSGの拒絶や消費にまつわる否定的な動きが世界各地で見られる。本研究は食の人類学の視点から、MSGの大量消費国の1つであるタイにおいてどのようにMSGの消費が広まったのか、そして近年どのように拒絶に至ったのか、その過程と背景を解明する。MSGの消費と拒絶という現象から、グローバル化と食、食・健康に関する情報と選択、食品工業・食品科学への信頼性、社会性と食などの、現代が抱える食と健康に関する課題について包括的に考察し、食べることの複雑性・多層性を探求する。

活動内容

2020年度実施計画

新型コロナウィルス関連の状況に応じ、今後タイでの現地調査が可能になれば、調査を実施する予定である。現地調査では、MSGの消費の拒絶やそれに関する現象を中心としたデータを収集していく予定である。渡航が難しい場合には、日本国内で入手可能な資料等を収集、またSNSなどのインターネット媒体を通した聞き取り調査を実施するなどとし、これまでに得た現地調査のデータと合わせた分析を行っていく。また食のグローバル化をテーマとした2つの国際共同研究プログラムにおいて、それぞれタイを事例とした章の執筆依頼を受けているため、前年度に実施した現地調査のデータを活用し、今後出版に向けた準備を進めていく。

2019年度活動報告

本研究課題の目的はグローバルに消費されるMSG(グルタミン酸ナトリウム)を例に、その消費と拒絶という食の選択に着目し、選択の背景にある食の認識体系がどのように構築され変容するのか、タイを事例に明らかにすることにある。2019年度は8月に、首都バンコク、タイ北部チェンマイ周辺(都市部)、ラムプーム県(農村部)において現地調査を実施した。主に、高齢者を対象に、MSGの広がりを含めた食生活の歴史的な変化について聞き取り調査などを行った。日本文化人類学会研究大会では、同テーマでの発表要旨を登録し、採択された。また、タイ社会におけるMSGの受容過程についての英語論文を執筆し、現在は出版の準備中である。その他、研究成果の一部について、毎日新聞や、一般雑誌に記事を執筆・掲載することにより、研究成果の一般社会への還元を行うことができた。

2018年度活動報告

本研究課題の目的はグローバルに消費されるMSG(グルタミン酸ナトリウム)を例に、その消費と拒絶という食の選択に着目し、選択の背景にある食の認識体系がどのように構築され変容するのかを明らかにすることにある。MSGの大量消費国の1つであるタイにおけるMSGの消費とその拡大の社会歴史的過程、現代における消費の実態と消費の拒絶という現象について、文献調査及び現地調査により考察する。
2018年度はタイにおけるMSGの受容、消費、販売、購入等に関するデータ及び文献・資料を収集した。また、11月と2-3月に2度、首都バンコクとタイ北部チェンマイ周辺において現地調査を実施した。食の専門家(研究者、食産業関係者、シェフ)及び一般消費者への聞き取り調査を通じて、MSG消費と拒絶の実態を調査した。MSGの消費の拒絶については、MSGの消費にまつわるネガティブな噂が収集されるとともに、近年はクリーン・フードなどの食と健康、食と環境に関する比較的新しいムーブメントがあることが明らかになった。MSGの消費とその変容については、タイ社会における食の近代化、グローバル化、ライフスタイルの変化など食文化を大きくとりまく変化の中に位置づけられることが確認できた。
現地調査の結果を踏まえて、3月には国際シンポジウム ‘Making Food in Human and Natural History’にて口頭発表を行った。