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レソトにおけるジンバブエ移民行商人の会計方法にかんする人類学的研究(2019-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究

早川真悠

目的・内容

本研究は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにする。具体的には、レソト王国におけるジンバブエ人出稼ぎ移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を現代社会の会計・監査方法と比較する。
会計・監査の技術や知識は、近年、国際的・社会的拡大が急速に進んでいる。会計的発想にもとづき規律化が進む社会のあり方を、人類学者や社会学者は「監査社会」「監査文化」と呼び、人間の諸活動を過度に数値化し評価するものとして批判的に検討してきた。
本研究は、レソトのジンバブエ人行商人が、何を考慮し、どう数える(count)のかを、現地調査、文献調査、比較研究をとおして具体的に明らかにする。現代社会とローカル社会における会計方法の違いを探り、過度ではない「適度な」数値化があるとすればどのようなものなのか実証的に検討する。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、南部アフリカにおける人びと「固有の会計方法」を明らかにすることである。具体的には、レソト王国に住むジンバブエ人移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較する。
本来は昨年度が最終年度だったが、感染症流行の影響で現地調査が予定通りにできず、今年度まで期間を延長した。今年度5月には行商人たちに遠隔インタビューを行い、帳簿にかんする資料を入手した。インタビューと資料から、掛売り時や未払金の回収時の日付の記録があいまいにされること等が分かり、一般的な簿記の方法とは記録の仕方が異なること、支払い遅延に際して損害金を請求するために滞納日数を使用するという発想がないことが明らかになった。また、3月にはジンバブエへ行き、かつてレソトで行商をしていた人たちに直接会って近況を聞き、生活環境や経済状況について確認した。かつて家族4人でレソトに住み行商をしていた一家は、新型コロナ感染拡大の影響で現在はレソトでの行商を辞め、ジンバブエの首都ハラレに生活拠点を移している。レソトで購入した繊維製品をあつかう商売やジンバブエとレソトとの越境貿易をおもな生計手段としていた。
新型コロナの影響で行商人を取り巻く環境は大きく変わった。レソトでの行商について現地調査が十分に行えず、彼ら「固有の会計方法」を明らかにするまでには至っていない。しかし、世界規模での感染症拡大という大きな変化のなかでも人びとはこれまでの経験や人脈、技能を活用しながら柔軟に対応し、困難ななかでも生活を維持していることが分かった。また、感染症拡大だけでなく国内の経済情勢やインフラ環境がひどく悪化しているジンバブエでは、生活を維持するために海外とのネットワークが重要であることも再確認できた。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

(1)新型コロナウィルスの流行により現地調査が計画どおりできていない。
(2)新型コロナ感染拡大の影響により、調査対象であるジンバブエ人の行商人が経済活動を継続できなくなった。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにすることにある。具体的には、レソト王国におけるジンバブエ人移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較する。
本来であれば今年度が最終年度のはずだったが、昨年度に引き続き新型コロナ感染流行の影響により、現地調査ができず十分なデータが得られなかった。感染症流行の影響を受けて行商人たちを取り巻く環境も大きく変わっており、インフォーマントたちと個人的な連絡を続け近況を確認し、彼らとの関係を維持しながら経済活動や生活実態を少しでも把握しようと努めた。このような個人的で細々としたメッセージ交換が研究成果に直結するような資料をもたらすわけではないが、こうした細々としたやりとりが人類学的調査の土台になっていると改めて確認できたことはひとつの収穫だった。
今年度の成果として次の論文がある:「何気ないかかわりあい:ハラレとジンバブエにおけるフィールドワークの経験から」栗本英世・村橋勲・伊東未来・中川理(編)『かかわりあいの人類学』、大阪大学出版会。この論文で考察した、ジンバブエの日常生活においてごく自然におこなわれる人びとのゆるやかなかかわりあいは、人の行為や時間を記録し固定するフォーマルな(会計)制度とは対照をなすものであり、本研究が明らかにしようとしている「(行商人ら独自の)会計方法」と深く結びついている。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルスの感染流行により、2年連続で予定していた現地調査ができておらず、行商活動の実態が十分に把握できていないため。
また、調査対象であるジンバブエ人移民の行商そのものも感染症流行の影響を受けて維持することが難しくなっており、彼らの経済活動や生活が不安定に変化しつづけているため。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにすることにある。具体的には、レソト王国におけるジンバブエ人出稼ぎ移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較する。
今年度は(1)研究発表で、記録的ハイパー・インフレから10年、再び高インフレに見舞われたジンバブエの貨幣状況を考察した(a)。また、2008年のハイパー・インフレ期のジンバブエにおける人々の貨幣の使用法を会計学の観点を踏まえて再考察した(b)。(2)文献調査で、貨幣やインフレにかんする経済人類学の文献を講読した。F. Neiburgらの南米インフレ経済下での貨幣使用、およびB. Maurerのモバイル・マネーにかんする研究から、贈与交換という枠組みではない方法で貨幣使用の具体的場面や文脈をより考察する方法を模索していく必要があると考えている。
a) Sibanda, M., S. Gukurume & M. Hayakawa (2021). The parallel money market and money changers’ resilience: Case of Masvingo and Harare,
Zimbabwe. In M. Takahashi et al. (eds.) , Development and subsistence in globalising Africa (pp. 375-406). Langaa RPCIG: Cameroon.
b) 早川真悠(2021)「ハイパー・インフレ下の人びとの会計――多通貨・多尺度に着目して」出口正之・藤井秀樹(編)『会計学と人類学のトランスフォーマ
ティブ研究』(pp.62-85)、清水弘文堂。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

(1)新型コロナウィルスの世界的流行により予定していた現地調査ができていないため。
(2)新型コロナ感染拡大の影響で調査対象であるジンバブエ人移民の行商が打撃を受け従来の方法が維持できなくなっているため。
(1)今年度は昨年度に引きつづき現地調査をおこなう予定だった。しかし、新型コロナウィルス感染拡大の影響により調査は不可能だった。
(2)新型コロナウィルス感染拡大は本研究で研究対象にしているレソトのジンバブエ人行商人の生活にも大きな影響を与えた。SNSで得た情報によると、レ
ソト国内を行商で回ることが難しくなり、売掛金の回収も困難になっている。また、ジンバブエとレソト間の移動ができず、越境貿易も難しくなっている。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにすることにある。具体的には、南部アフリカ・レソト王国におけるジンバブエ人出稼ぎ移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較する。
今年度は以下のとおり(1)現地調査、(2)研究成果発表、(3)文献調査をおこなった。(1)2019年8月29日~9月20日までレソト首都マセルで現地調査をおこなった。ジンバブエ系移民が多く暮らす郊外地区に滞在し、彼らの経済活動について参与観察をおこなった。商売のサイクル、ジンバブエとのネットワーク、頼母子講などについて概略を把握した。また、現地滞在中は国立レソト大学人文学部のセミナーで発表をおこない、大学で人文・社会科学を専門とする研究者と意見交換をおこなった。とりわけジンバブエ人の歴史学者や経済学者から有益なコメントを得られた。(2)日本アフリカ学会第56回学術大会にて、レソトのジンバブエ移民行商人にかんする発表をおこなった。その他、インフォーマル経済にかんして研究会で発表し、巨大数にかんする雑誌の特集号にジンバブエの貨幣についての論考を寄稿した。(3)貨幣やインフレにかんする経済人類学の文献調査をおこなった。とくにF. Neiburgらによる南米インフレ経済の研究を踏まえ、ジンバブエにおける人々の貨幣の使い方の特徴がより明確になり、現地調査をするうえでの手掛かりを得た。
なお、研究計画では2~3月にも現地調査を行う予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響から中止とした。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

予定していた現地調査ができなかった。
(1)今年度は現地調査を8~9月と2~3月の二度おこなう予定だったが、2~3月については新型コロナウイルスの影響から断念した。
(2)8~9月に3週間の現地調査をおこなったが、十分な期間ではなかった。行商人は掛売りした商品の代金を、1カ月~3カ月後に集金する。今回の調査期間は、1カ月に満たなかったため、商品の販売、集金、仕入れのサイクルの詳細について実態がつかめなかった。