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宗教と移動をめぐる人類学的研究:現代中国の越境的ムスリム・ネットワーク(2019-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究

奈良雅史

目的・内容

本研究の目的は、中国内陸部から沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化し、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。
以上の目的を達成するため、以下の課題に取り組む。①回族の出身地でのイスラーム復興の状況と沿岸部への出稼ぎの実態の解明。その際、宗教活動および出稼ぎに大きく影響する中国共産党の宗教政策および経済政策の実施状況についても明らかにする。②出稼ぎ先でのトランスナショナルなムスリム・コミュニティの実態とそこでの宗教実践のあり方の解明。③回族出稼ぎ労働者の出身地における彼らの出稼ぎ経験がイスラーム復興に与える影響の解明。④モビリティに関する理論的研究。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。
2022年度も昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中国大陸における現地調査の実施が困難であったため、報告者は研究目的を達成するために、これまでの現地調査で得られたデータの分析とその発表を進めた。国際貿易都市として発展してきた義烏市におけるイスラーム用品をめぐるヒト、モノの多民族的・多宗教的ネットワークのあり方を検討し、その成果を国際シンポジウムにおいて発表した。また、中国においてムスリムのモビリティの高まりによるトランスナショナルなムスリム・ネットワークの形成により、中国大陸における回族のあいだでの教派間関係がいかに変化してきたのかについて検討し、その成果を国際ワークショップにおいて発表した。これらの口頭発表の成果を英語論文として国際学術雑誌に投稿すべき、執筆を進めている。
加えて、上記の研究目的を達成するための比較研究として、近年インドネシアをはじめとする東南アジアからのムスリム労働者が増加する台湾におけるムスリム・コミュニティを焦点を当てて、中華系ムスリムがいかに増加する外国人ムスリムたちを包摂してきたのかについて、モスクにおける対応などを中心に現地調査を実施した。その成果を踏まえて、学会発表および学会誌への論文投稿をすべく準備を進めている。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究計画は、やや遅れているといえる。当該年度は日本語の分担執筆2冊を出版し、国内外の学会やシンポジウム、研究会で研究発表を11回行った。そのため、研究成果の発表という点では一定の進捗があった。ただし、新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、当該年度に予定されていた現地調査を十分に実施することができなかった。そのため、これまでの調査データの分析、文献資料の分析により、研究を進めたものの、当初予定よりは研究計画は遅れている状況にある。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。
2021年度も昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により現地調査の実施が困難であったため、報告者は研究目的を達成するために、これまでの現地調査で得られてたデータの分析とその発表を進めた。国際貿易都市として発展してきた義烏市におけるムスリム・コミュニティの多文化状況をその経済活動が前景化する場所性との関係から検討し、その成果は国際シンポジウムでの口頭発表および英語論文として発表した。
加えて、上記の研究目的を達成するための比較研究として、近年インドネシアをはじめとする東南アジアからのムスリム労働者が増加する台湾におけるムスリム・コミュニティを焦点を当てた研究を実施した。その際、新型コロナウイルス感染症による影響で現地調査が困難な状況を踏まえ、中国回教協会の機関誌『中国回教』を分析の対象とした。その分析を踏まえ、報告者は台湾におけるムスリム・コミュニティの多文化状況がいかに展開されてきたのかを中華系ムスリムの視点から明らかにした。そのうえで、台湾におけるムスリム・コミュニティが異なる時間性をもった複数のモビリティによって再生産されてきた状況を考察した。その成果は日本語の編著として発表した。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究計画は、やや遅れているといえる。当該年度は英語論文1本、日本語の編著1冊、中国語の共著論文1本を出版し、国内外のシンポジウムや研究会で研究発表を7回行った。そのため、研究成果の発表という点では一定の進捗があった。ただし、新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、当該年度に予定されていた現地調査を実施することができなかった。そのため、これまでの調査データの分析、文献資料の分析により、研究を進めたものの、当初予定よりは研究計画は遅れている状況にある。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。
当該研究目的を達成するために、2020年度、報告者は、イスラーム諸国からの商人と中国国内のムスリムの出稼ぎ労働者が多く集まる国際商業都市である中国浙江省義烏市およびムスリム出稼ぎ労働者の主要な出身地のひとつである中国雲南省昭通市におけるフィールドワークの準備を進めてきた。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響にその実施が困難となった。そのため、2020年度はこれまでの現地調査で得られてたデータの分析と、その発表を進めた。
国際貿易都市として発展するに従って、義烏市は中国の内外から多くのムスリムが集まる場所となってきた。既往研究では、義烏市に集まる国内外のムスリムに焦点を当て、彼らがイスラーム信仰に基づくトランスナショナルなムスリム・コミュニティを形成してきたと論じられてきた。しかし、本研究から明らかになったのは、義烏市に暮らすムスリムたちが凝集性の高いムスリム・コミュニティを必ずしも形成しないということである。それには中国政府による宗教政策の影響、ならびに多くのムスリムにとって義烏市にやってくる一義的な目的が経済活動にあることが関係している。こうした状況を踏まえ、本研究では中国ムスリムたちが出自の異なる人びとと必ずしも積極的に関わらない、あるいは関わらなくても良い状況が他者との共在を可能にするうえで積極的な意味を持ちうることを検討してきた。その成果は日本語論文などとして発表した。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究計画は、やや遅れているといえる。当該年度は日本語の共編著1冊、日本語の論集への分担執筆4本を出版し、研究発表を4回行った。そのため、研究成果の発表という点では一定の進捗があった。しかし、その一方で、以下の2点において当初の研究計画通りに研究を進められなかった。第一に、新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、発表を予定していた国際学会が延期や中止したことにより、研究成果の国際化を十分に進めることができなかった。第二に、同様の理由から当該年度に予定されていた現地調査を実施することができなかった。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。
当該研究目的を達成するために、2019年度、報告者は中国浙江省義烏市においてフィールドワークを実施した。義烏市はイスラーム諸国からの商人と中国国内のムスリムの出稼ぎ労働者が多く集まる国際商業都市である。そこで報告者は多様な出自を持つムスリムたちからなるコミュニティのあり方を明らかにしようと試みてきた。
改革開放以降、義烏市には日用品の卸売市場が設けられるとともに、中国における主要な輸出基地のひとつとして位置づけられ、義烏市は多くの国や地域との交易を担う国際的な商業都市として発展してきた。そのなかでも特にアラブ諸国との取引が多く、アラブ人商人が義烏市の国際化に大きな役割を果たしてきた。
こうした状況下、回族をはじめとする中国国内のイスラーム系少数民族もアラビア語通訳やハラール産業に商機を見出し、出稼ぎにやってくるようになった。先行研究では、その結果、義烏市にはイスラーム信仰を共有するトランスナショナルなムスリム・コミュニティが形成されてきたと論じられてきた。しかし、本研究で明らかになってきたのはこうした多様な出自を持つムスリムたちが宗教性を必ずしも共有しておらず、凝集性の高いコミュニティを形成しているわけではないということである。
当該年度は、こうした状況を踏まえ、必ずしも宗教性を共有しない多様なムスリムたちがいかなる関係性を築いてきたのかを検討してきた。その成果は、国内外の学会での口頭発表および共著などとして発表した。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

研究計画は、おおむね順調に進展している。理由は以下である。第一に、中国浙江省義烏市におけるフィールドワークを実施し、調査地における人びとに調査の協力をいただくことができた。第二に、2019年度は、4つの国際学会に参加し、研究成果を英語および中国語で発表することができた。その意味で、当該年度は研究成果の国際化を図ることができたといえる。