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東地中海域における小規模漁業の漁場利用生態と漁場管理制度の統合的解明(2019-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費

崎田誠志郎

目的・内容

本研究では、ギリシャおよび周辺諸国における小規模漁業の展開に着目し、各国の小規模漁業を取り巻くマクロな漁業管理制度や多層的な主体間関係と、沿岸域におけるローカルな漁場利用の生態的側面を明らかにする。それらの結果を比較統合することで,東地中海域における小規模漁業の多様性と共通性を解明することが本研究の目的である。
研究方法はフィールドワークを中心とする。現地では関係主体への聞取り調査を行い、小規模漁業管理にかかわる制度および主体間関係について明らかにしていく。漁場利用の生態的側面に対しては、(1)小型GPSおよび乗船調査による漁業者の行動の時空間的把握、(2)漁獲物の集計による資源利用の把握、(3)海図等を用いた漁業者の環境認識・知識の把握という3点から解明を進めていく。

活動内容

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、ギリシャを中心とした東地中海の小規模漁業にみられる漁場利用の実態と漁業管理のあり方を解明し、あわせて日本国内の小規模漁業と比較することで両者の共通性や課題を明らかにすることを目的としている。
COVID-19の蔓延が収束せず、本年度も東地中海地域での現地調査は実施できなかったため、既存の調査結果のとりまとめに注力した。その成果として、単著論文“Centralization under decentralization: The process and impact of the reform of fishers’ club in Lesvos, Greece”が国際学術誌Marine Policyに掲載された。また、本研究の派生的な成果として、主要な対象国であるギリシャの文化と資源利用について紹介した「珍品図鑑 コボロイ ギリシャの嗜好品“悩みのビーズ”」を『ビオストーリー』に寄稿した。そのほか、マクロな社会経済の変動が沿岸地域の小規模漁業管理にどのような影響を与えるかという本研究の視座に基づき、論文「北海道南西部におけるナマコブームへの多様な適応・活用戦略」を『地域漁業研究』に投稿し、2021年度末時点で掲載が決定している。
学会発表としては、2021年8月にオンライン開催された34th International Geographical Congressに参加して口頭発表およびポスター発表をおこなった。また、2021年10月には国際コモンズ学会にオンライン参加して、本研究の主要課題である共有資源管理について情報交換や議論をおこなうことができた。2021年11月には地域漁業学会のシンポジウム「多面的視点から漁業地域活性化を考える」に登壇し、地理学的視点から考える漁業地域の振興について報告した。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

研究は、ギリシャを中心とした東地中海の小規模漁業にみられる漁場利用実態と漁業管理の相関性を解明し、日本国内の事例と比較して共通性や課題を明らかにすることを目的としている。研究の性質上、課題の達成には現地フィールドワークが必須となるが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う行動制限のため、令和2年度はフィールドワークをまったく実施することができなかった。したがって、令和2年度に実施予定であった計画の大半および必要な予算は令和3年度に繰り越し、令和2年度は論文の作成や情報の整理収集に努めた。あわせて、感染状況が小康状態にあった時期を見計らい、和歌山県串本町における漁場管理の実態について現地調査をおこなった。
著作物関連では、『人文地理』72巻に「学界展望 水産業」のレビューが掲載された。本レビューでは、2019年の地理学界における漁業・水産業関連の研究動向について展望した。発表関連では、カタール大学が主催したQatar University Annual Research Forum and Exhibition(オンライン開催)にて、東地中海における調査経験や研究の意義を中心とした招待講演をおこなった。また、2021年3月9日から11日にかけてオンライン開催されたXVIII International Association for the Study of the Commons Conferenceの分科会(Fisheries and Aquaculture Commons)に参加し、他の参加者と議論や情報交換をおこなった。そのほか、日本地理学会、人文地理学会、地域漁業学会等のオンライン学会にも参加し、議論や情報交換をおこなった。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた現地調査や学会発表のほぼすべてが実施できなかった。移動制限によって通常の研究活動や資料収集も大きく阻害され、進捗状況は「遅れている」と判断せざるを得ない。その中でも、既存の調査結果をまとめて国際誌に投稿したほか、比較事例としての国内調査については最低限ながら実施することができた。複数のオンライン学会にも参加して、困難な中でも学術交流の機会を持つことができた。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、ギリシャを中心とした東地中海の小規模漁業にみられる漁場利用の実態と漁業管理のあり方を解明することを目的としている。令和2年1月から2月にかけて、ギリシャ・レスヴォスで現地調査を実施した。調査では、レスヴォス漁業者組合(Fishery Club of Lesvos)の代表をはじめとする漁業者への聞き取り調査や、レスヴォス漁業局職員との会議などをおこなった。当時はイガイ漁の最盛期であり、調査ではGPS等を用いた漁場利用の把握もおこなった。また、レスヴォスにあるエーゲ大学(University of Aegean)の地理学部を訪問し、キゾス・アサナシオス教授と研究に関する協議の場を持った。エーゲ大学地理学部とは今後の研究においても協調関係をとることとし、国際的な研究発展につなげていくことで合意した。令和2年3月には、拙著「ギリシャ・アテネにおける水産物市場の特徴と現状」(E-journal GEO 13-2)が2019年度日本地理学会賞(論文発信部門)を受賞した。
令和元年7月にペルー・リマで開催されたXVII Biennial IASC Conferenceにて口頭発表をおこなったほか、東地中海域における研究の成果や今後の計画について、参加者から多くの意見や情報を得た。また、対象国の一つであるキプロスについて、フランス・ブルターニュ=オキシダンタル大学のカティア・フラングデス教授および共同研究者の副島久美講師(水産大学校)と協議するとともに、調査実施のための情報提供を受けた。同じく対象国であるイタリアおよびクロアチアについては、東地中海の漁業に造詣の深いギリシャ・パトラ大学生物学部のコンスタンティノス・クチコプロス教授およびザナトス・ヴァンゲリス博士とビデオ会議をおこない、調査計画の策定に取り組んだ。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

初年度終了時点では、現地調査や国際学会での発表をおこない、翌年度以降の現地調査の計画についても他の研究者らと協議することができた。一方で、研究環境の変化や調査準備の難航により、現地調査は年度終盤に集中して実施することにした。令和2年1月から2月にかけてはギリシャで現地調査を実施し、調査地の一つであるレスヴォスの事例に関するデータが一定以上収集できた。これにより、初年度のうちにレスヴォスを事例とする投稿論文の作成に取りかかることができた。2月後半から3月にはギリシャおよびキプロスでの現地調査に赴く予定であったが、これについては COVID-19の感染拡大によって延期を余儀なくされた。
現地調査の実施が年度の終盤となり、かつ2月後半以降の現地調査が延期となったことを踏まえて、初年度終了時点での研究の進捗状況は「やや遅れている」に該当すると判断した。なお、次年度以降も情勢改善の見通しはたっておらず、特に海外における現地調査の実施は極めて困難な状況が継続しているため、現在までに研究計画の大幅な乱れが生じている。