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文化遺産の「社会的ふるまい」に関する応用人類学的研究:東部アフリカを事例に(2019-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

飯田卓

目的・内容

本研究では、国内的に支持されてきた「世界文化遺産」がその価値をめぐってどのような課題を抱えており、それをめぐって国内外のさまざまなアクターがどのような働きかけをおこなっているかを、民族誌的(=ボトムアップ的)に明らかにしていく。複数のアクターの働きかけを受けて文化遺産の価値が振幅するようすを、本研究では「文化遺産の「社会的ふるまい」」とみなし、記述を進めるとともに、あらたな実務モデルを構築するための実証的資料も集めていく。
本研究の核心的な問いは、人びとはどのような場合に互いの文化遺産を認めあえるのか、文化遺産はどのような場合に人びとを繋ぐことができるのか、ということに尽きる。この問いに関して知見を深めることが、本研究の大きな目的である。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

2022年4月9日と2023年3月27日に研究会を開催し、討議をおこなった。新型コロナウィルス感染症の流行にともなって、計画していた「野外実験」を延期せざるを得なかったものの、それに用いる動画映像コンテンツを民族誌映画というしっかりした形で完成でき、今後に活用しやすいかたちに整えた。マダガスカルで撮影した映像をもとにしたこの映画「Sorombe(スルンベ)」は、東京ドキュメンタリー映画祭や日本文化人類学会、クラトヴォ国際民族学映画祭(マケドニア)で上映することができ、好評を得た。アフリカにおける文化遺産を地域外の人びとに伝えるための「教材」にもなりうることが明らかになった。
この映画は、2023年度にケニアでおこなう「野外実験」において活用する予定である。また、ウガンダ共和国で予定していた「野外実験」は、同国から日本へ文化関係者を招聘するかたちで実現した。招聘者をまじえたワークショップにおいては、研究代表者が所属する国立民族学博物館のウガンダ関係資料に関する解説動画を撮影し、同じく「教材」というかたちで成果共有することが可能となった。また、タンザニアにおいておこなった現地調査では、文化遺産に関する問題全般に通じたカウンターパートを見いだすことに成功し、今後の協業にむけて議論を続けていくことになった。
以上に加えて、日本在住のアフリカ出身者の実態調査と、博物館資料を用いた彼らのストーリーテリング支援を開始した。この試みは、日本においてアフリカ文化遺産がどのような意味を持ちうるかというあらたな問いの発見につながった。この問いにいかなる回答がありうるかは、ひき続き考究していく予定である。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

ケニアにおける国民総選挙の煽りを受け、2022年度に完了すべき計画の一部を2023年にもち越さざるをえなくなった。それ以外の計画は順調に進んだ。

2021年度活動報告

2020年度事業継続中

2020年度活動報告

2021年度事業継続中

2019年度活動報告

年度の最初と最後に研究会をおこない、研究の趣旨や方法論を共有するとともに、1年間の活動を通して得られた成果も共有した。「文化遺産の社会的ふるまい」に関わるさまざまなアクターを洗いだしたことと、「コミュニティ」の主体性が発揮される場をそれぞれの事例において特定したことが、今年度に得られたもっとも大きな成果である。年度末の研究会は、感染症の蔓延に対応するため急遽ビデオ会議の方式でおこなったため、研究協力者のゲスト参加を得ることができなかったが、ビデオ会議でかなりの議論共有がはたせることがわかったことは収穫だった。
各研究分担者は、計画どおりの分担にもとづいて、ケニアとタンザニア、ウガンダ、コモロでの現地調査をおこなった。また、これらの現地調査をふまえて、2020年度の「野外実験」で用いる写真や動画の整理をおこなった。
学術的な知見はこれからおいおい整理していくことになるが、研究計画に関わる知見として、文化行政に関わる各国の態勢の差異が明らかになりつつある。ケニアでは記念碑保存を司る部局と博物館運営を司る部局が2008年に合併し、その部局が無形文化遺産を守備範囲に収めつつある。いっぽうで、国立公園行政は別の部局のままである。こうした文化行政部局の統合により、ユネスコが提唱する文化遺産への統合的アプローチが取りやすくなっていることは、ケニアの大きな特徴である。今後、他の国も含めて文化行政の実情に関する情報を整理し、複数の事例を比較するさいの基準としたい。