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再現模写・仮想空間構築による敦煌莫高窟千仏図が有する規則的描写の複合的評価(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

末森薫

目的・内容

中国甘粛省にある敦煌莫高窟の北朝、隋、唐の時代に造営された窟の多くには、趺坐仏を等間隔に並べ規則的に配色を施す千仏図が描かれている。千仏図は、同じ配色の趺坐仏が斜めに連続する視覚的特徴と、隣り合う趺坐仏の頭光・身光の配色関係による視覚的特徴を有し、参拝者の動作を導いたり、観念的な意味を付すなど、石窟内に宗教的空間を創出する上で大きな役割を担ったことが想定される。しかし、現状では彩色の変退や光環境の変化により、千仏図の規則的描写が参拝者などに与えた元来の視覚的な効果は限定的にしか分からない。本研究では、A)彩色材料・描写技法の検討に基づく千仏図の再現模写の制作・評価、B)デジタル技術による石窟仮想空間の構築・運用、C)心理学実験による視覚認知の解析、の複合的な方法により、千仏図の規則的描写が石窟空間にもたらす特徴を実証的に評価し、仏教信仰の場である石窟空間を改めて解釈する。

活動内容

2022年度活動報告

2021年度の研究課題は、新型コロナ感染症の影響を受けて2年度にかけて実施した。2019年度に制作した色彩を再現した千仏壁画を対象としてハイパースペクトルカメラにより取得した分光画像を用いて、人間の目が薄暗い空間において色順応した際の見え方を再現するプログラム2つ(明度変換プログラム、色順応プログラム)を作成し、再現壁画の視覚的特徴を検証した。国際照明委員会が提示する色順応予測式を含むカラーアピアランスモデル(CIECAM02)を適応した結果、洞窟などの薄暗い環境において蝋燭などの燃焼光を照射した際に、色順応した人間がどのように色を認知するかを再現することできた。
また、新型コロナウイルスの影響により中国における現地調査を実施できなかったため、インド・ラダックにおいて寺院および洞窟に描かれた壁画の調査を実施した。調査では、各種の撮影技術を用いた光学調査を実施するとともに、壁画を含む空間の3次元データを取得し、仮想空間の構築や実践的な模写に資する情報を得た。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中

2020年度活動報告

2020年度事業継続中

2019年度活動報告

本課題は、敦煌莫高窟に描かれた規則的配色によって描かれた千仏図が有する視覚的特徴について、再現模写および仮想空間の構築により評価することを目的とする。初年度となる2019年度は、A)彩色・技法を再現した千仏図の制作、B)壁画の光学情報を取得する方法の検討、C)仮想空間の構築方法および活用方法の検討を中心に研究を進めた。次にそれぞれについて実績を記す。
A)2019年10月に敦煌莫高窟での現地調査を実施し、再現模写を担当する画家らとともに、壁画の調査をおこなった。その結果、彩色の残りが良い第263窟東壁の千仏図を対象として彩色・技法を再現した千仏図を作成することとなった。そして、同壁画の彩色技法、材料について詳細な目視調査を実施した。あわせて、各時代の代表的な窟を選定し、千仏図に用いられた材料・技法の比較をおこなった。調査後、8体一組とする千仏図2点の作成を進めた。模写制作における材料・技法の選定、制作過程など、千仏図の再現に係る成果について文化財保存修復学会第42回大会にて発表を予定する。
B)再現した千仏図への適用を前提として、彩色材料を対象としてハイパースペクトルカメラを用いた光学調査を実施し、その有効性を検証した。また、遼寧省義県にある奉国寺大雄殿の元代壁画を対象として、同手法を実践した。これらの成果について日本文化財科学会第37回にて発表を予定する。
C)石窟など閉鎖空間における三次元データの取得方法について検討を進め、国内の現場で実施した。また、仮想空間を用いた評価方法の検討を進めた。その結果、まずは再現した千仏図を2.5次元の情報として評価することを優先することにした。