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シルクロード都市の形成ならびに人と文化の東西交流に関する考古学的研究(2019-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

寺村裕史

目的・内容

ユーラシア大陸における東西交流(東洋と西洋)と南北交流(農耕民と遊牧民)の十字路として、中央アジアは人類史・文明史における重要な発展が為された舞台であった。本研究は、中央アジア・ウズベキスタン共和国を研究対象地域として、東西・南北交流の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。シルクロードの成立による東西交流が活発化した背景にある人やモノの動きに着目し、発掘調査の成果を軸とした物質文化に焦点を当てることで都市遺跡間での交流の相互作用・推移を解明し、それが中央アジア史において果たした大きな役割について比較考古学的側面から考察する。

活動内容

2022年度実施計画

本年度は、9月半ば~10月にかけて、現地(サマルカンド)のウズベキスタン科学アカデミーヤフヨ・グロモフ考古学研究所と協働でカフィル・カラ遺跡の発掘調査を実施する予定である。カフィル・カラ遺跡では、2021年度調査時にシャフリスタン(城壁内居住区)に設けたトレンチ(発掘調査区)おいて大型の部屋遺構が検出され、部屋のおよその構造や規模、そしてその性格について考察するための貴重な成果が得られた。まだ一部床面の遺構が埋もれた状態で残っているため、本年度はそれらの遺構の確認作業を継続する必要がある。そうした調査を実施することにより、カフィル・カラ遺跡がどのようにして形成されたかを探り、都市の構造や成り立ちに関する考古学的な情報を得ることが目的である。また、シャフリスタンを取り巻く城壁の発掘調査も実施し、遺跡の性格を明らかにするための基礎データを取得する予定である。
さらには、2019年度に購入した遺跡周辺の衛星画像をもとに、発掘調査と並行して、衛星画像解析による遺跡周辺の地形情報の分析を実施する。そして、古環境調査および古代道路網の復元に関して、現地の地理学や古環境を専門とする研究者と共同研究を進める。
本年度は最終年度であるため、発掘調査終了後の11月~翌年2月頃にかけては、日本国内において都市遺跡の立地場所と周辺環境をGISを用いて比較・統合するためのデータ分析作業をさらに推し進め、都市遺跡同士の位置関係やシルクロードとの関係性など、シルクロードを通じた人と文化の交流に関わる時空間的な分析を行い、これまでの調査成果を途中経過報告として「発掘調査概要報告書」をまとめるための編集作業に取り掛かる。
なお、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、もしウズベキスタンへの渡航が不可能な場合には、現地の研究協力機関や研究協力者の助力を仰ぎ、オンラインによる逐次の情報共有を行いながら、現地調査が実施可能な方策を検討する。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、中央アジア・ウズベキスタン共和国を研究対象地域として、東西・南北交流の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。その目的を達成するために、ウズベキスタン共和国科学アカデミー ヤフヨ・グロモフ考古学研究所と日本隊(国立民族学博物館・代表者寺村)との間でMOU(研究交流の覚書)を締結し、現地での調査準備を整え研究を遂行してきた。
今年度は、昨年度に引き続きCovid-19の感染拡大のためウズベキスタンへの渡航はできなかったが、現地研究機関および研究協力者の助力により、オンラインによる発掘状況の逐次の情報共有を行いながら、カフィル・カラ遺跡での発掘調査を実施することが可能となった。
具体的な調査成果としては、シャフリスタン(城壁内居住区)に設けた発掘調査区において2019年度に検出されていた大型の部屋遺構の発掘を継続し、部屋のおよその構造や規模が明らかになり、またその部屋の性格について考察するための遺物(壁画断片やガラス製品等)が出土するなどの貴重な成果が得られた。
また、シャフリスタンを取り巻く城壁の発掘調査も実施し、城壁の築造時期や断面構造を確認することができた。その結果、出土遺物や構造などから、この城壁が建設されたのは恐らく4~5世紀頃であると推定でき、6~8世紀には大規模な修復および増築がなされたことが明らかとなった。上記の部屋遺構や城壁の調査を通して、カフィル・カラ遺跡がどのようにして形成されたかを探り、都市の構造や成り立ちに関する考古学的な情報を得ることが可能となった。
こうした今年度の調査成果は、日本西アジア考古学会主催の『第29回 西アジア発掘調査報告会』において、協定先機関所属の研究者との連名で口頭発表をおこなうとともに、報告会報告集に掲載された。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

Covid-19の感染拡大のためウズベキスタンへの渡航はできなかったものの、現地研究機関と研究協力者の助力により発掘調査自体は実施することができたため、本研究の遂行に必要な新たな情報・調査成果を得ることが可能となり、おおむね順調に進展していると判断できる。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、中央アジア・ウズベキスタン共和国を研究対象地域として、東西・南北交流の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。その目的を達成するため、令和元年(2019年)に学術協力に関する協定を締結したウズベキスタン共和国科学アカデミー ヤフヨ・グロモフ考古学研究所(以下、考古学研究所)と協働で、カフィル・カラ遺跡での発掘調査を実施する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大のため海外渡航が制限され、今年度は発掘調査を実施することができなかった。
その代わり、考古学研究所所属の研究者や海外の研究協力者、ならびに日本国内の科研費の研究分担者とオンラインで連絡を取り合い、これまでの発掘調査成果の途中経過をまとめるかたちで、共著での論文投稿や口頭発表をおこなった。
具体的には、カフィル・カラ遺跡から発見された遺物を中心に紹介しながら、遺跡の性格や当時の都市遺跡間の文化交流に関して考察した論考が、東方学会のジャーナルに掲載された。また、令和3年(2021年)3月に日本西アジア考古学会主催の『第28回西アジア発掘調査報告会』において、「ウズベキスタン共和国カフィル・カラ遺跡発掘調査2020年度までの成果─出土遺物に見るカフィル・カラの文化交流─」という口頭発表(オンライン開催)を日本隊・ウズベク隊の共同成果として報告し、会の報告集に論文が掲載された。
なお、本年度現地で実施できなかった調査に関わる費用(旅費・謝金等)については、令和3年度に繰り越して、カフィル・カラ遺跡の市街地エリアの発掘調査費用に充当した。その結果として、大型の部屋遺構の構造や規模が明らかとなり、壁画断片やガラス製品等の遺物が発見されるなど、重要な成果が得られた。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナウィルス感染症拡大のため海外渡航が制限され、今年度は現地での発掘調査を実施することができなかった。そのため、カフィル・カラ遺跡に関する新たな知見が得られず、進捗状況としては、やや遅れていると評価している。

2019年度活動報告

本研究は、ユーラシア大陸における東西交流(東洋と西洋)の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。
上記の目的のため、令和元年(2019年)9月に、ウズベキスタン共和国・サマルカンド市に所在するウズベキスタン共和国科学アカデミー ヤフヨ・グロモフ考古学研究所(以下、考古学研究所)と国立民族学博物館(民博側協定担当責任者:寺村)との間で、学術協力に関する協定を締結し、その協定のもと現地ウズベキスタンでの調査を実施した。
具体的には、研究代表者である寺村を中心に研究分担者・研究協力者とともに日本側の調査隊を組織し、サマルカンド近郊に所在する古代のオアシス都市遺跡であるカフィル・カラ遺跡での発掘調査を、考古学研究所との協働調査として実施した。カフィル・カラ遺跡では、城塞部(シタデル)において、2017年調査時に出土したゾロアスター教関連の木彫板絵が見つかった部屋とは異なる部屋を発掘し、炭化物や土器片の取り上げと写真測量による遺構の記録作業を実施するとともに、その場所が穀物倉と考えられる部屋(遺構)であることを明らかにした。さらに、カフィル・カラ遺跡がどのようにして形成されたかを探り、都市の成り立ちに関する考古学的な情報を得ることを目的として、城塞周辺部(シャフリスタン)においてトレンチ調査を実施した。
また、発掘調査と並行してザラフシャン川中流域に点在する都市遺跡の分布踏査による遺跡情報の収集につとめるとともに、発掘調査終了後の11月~翌年2月頃にかけては、日本国内において遺跡周辺の衛星画像を購入し、都市遺跡の立地場所と周辺環境をGISを用いて比較・統合するための基礎データ作成、ならびに衛星画像の解析を進めた。