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紛争後社会のレジリエンス:オセアニア少数民族の社会関係資本と移民ネットワーク分析(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B)

丹羽典生

目的・内容

本研究は、オセアニア地域を対象として紛争後の社会におけるレジリエンス(紛争・災害などから復興する力)について、少数民族との関係から解き明かすことを目的としている。世界的にみて紛争は、1980年代後半以降グローバル化の影響のもと一部で悪化したが、近年は関係修復の局面に入っている。
本研究では、紛争によって分断化された社会の中でオセアニア少数民族が繰り広げる社会関係の修復に関する戦略を分析する。具体的には、ローカル社会のもつ社会関係資本の差異と特質の活用からグローバル化されたネットワークを利用する戦略までを分析することを通じて、紛争後の分断をいかに乗り越えるのかという、レジリエンスのメカニズムについて考察する。

活動内容

2022年度活動報告

今年度も新型コロナ感染症の拡大にともなう影響を受けて、国内移動はもとより海外調査の執行に対して活動に大幅な制限があった。したがって今年度の予算枠では海外調査は敢行せず、それにともない予算を一部返上した。一方で新型コロナ感染症に対しては昨年度までのプロジェクト運営の経験の蓄積があり、それを生かして可能な範囲でできる調査を進めた。たとえば、人類学や地域研究及び紛争と歴史に関わる専門書などの関連書籍の購入と、これまでにメンバーが収集した既存の調査資料のデジタル化と整理を通じて、研究成果へとつながるべき研究を進めた。とくに本プロジェクトの主たる対象地域のひとつであるフィジーに関する過去のメディア情報の整理については、アルバイト雇用を通じて大幅に進めることが出来た。
また、上記作業を通じてプロジェクトメンバーと個別に連絡を取りながら、研究成果となる原稿を各人で書き進めた。その結果、今年度内に論文を2本(小林誠「つながりを維持し、葛藤を引き受けるーーフィジー・キオア島における変化にたえることの歴史と現在」、風間計博「国境を越えた集団移住と「環境難民」ーー歴史経験が生み出すバナバ人の怒りと喪失感」)、エッセイと書評を各1本ずつ刊行した。また本プロジェクトと関わるフィジーの政治史に関する論文を1本寄稿済みで、現在校正中である。さらに、本プロジェクトの成果としての章を3本含む編著の編集をすすめ、現在、査読中である。後者については審査の結果にも左右されるが、2023年度内の刊行を目指している。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中

2020年度活動報告(研究実績の概要)

2020年12月12日にオンライン開催の形式で、科研のメンバーによる研究会を行った。これまでのフィール及び文献調査を通じて、フィジーの少数民族のうちメラネシア系、ツバル系の移民の歴史資料の整理と現時点の民族誌的情報についての発表会を開き、先行研究についての情報共有と現状の把握を行った。前者「<複数のアイデンティティを潜在的に抱えた集合体>の民族誌 ――フィジー・レヴカの少数民族の事例から考える」においては、メラネシア系のなかでもフィジーの旧都レヴカに居住している人々を扱った。それまで先行研究の乏しい同民族の離島における移転経路とその経緯及び現況について、予備的な報告を行っている。ヨーロッパ系、メラネシア系、先住系などの多民族との混血のすすむなかで、アイデンティティとしてはメラネシア系という枠を残しながらも、潜在的には複数のアイデンティティを重ね持ち、多層的な現実を生きている様が分析された。後者「「約束の地」での不安――フィジー・キオア島の土地をめぐる歴史と現在」は、フィジーの離島キオアに居住するツバル系が、フィジーの中でキオア人としての自己形成している様を、彼らの定着に至る複雑な歴史的経緯とフィールド調査によって明らかにした予備的報告である。来島記念の儀式のありようなど興味深い民族誌的事実を拾い出している。またオンライン開催という限定された形であれ日本オセアニア学会に参加して地域研究の最新成果の習得と研究者相互の情報交換を行った。
刊行された業績としては、梅崎昌裕・風間計博(編)『オセアニアで学ぶ人類学』昭和堂がある。同書には、本プロジェクトのメンバー全員が寄稿しており(「序章」「植民地」「環境問題」「芸術」の章)、人類学と地域研究の交差する領域を扱うという意味で関わりのある論考を掲載している。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

今年度においては、新型コロナ感染症の世界的拡大の影響を受けて、研究会の開催から海外調査まであらゆることが手探りで進められた。研究会の開催については、オンラインで行い情報共有を行うことが可能となった。
一方で調査研究については、やや遅れていると判断した。最大の理由は本プロジェクトにおいて計画していた海外調査が新型コロナ感染症の拡大の影響のため遂行できなかったことにある。そのため本プロジェクトで予定していた現在の民族誌的状況に関する詳細なデータの収集は達成できていない。
そのかわりプロジェクトのメンバーは、これまでの研究において収集してきた画像資料や研究文献やアーカイブズ資料の整理・精査と共有を精力的に進めている。これらの情報を生かしたかたちで可能な範囲で、研究と成果公開を進めることで対応している。

2019年度活動報告

研究初年度ということで代表者を含めた4人のメンバーの間で意見交換しつつ、研究調査と成果の公開をすすめた。海外調査としては、主たる調査対象であるオセアニアのフィジーで行った。フィジーの中でもそれぞれが担当する少数民族集落でのフィールド調査と関係者への聞き取り調査を適宜行った。代表者はフィジーの離島における少数民族のフィールド調査とあわせて南太平洋大学や同図書館にて関係資料の収集と閲覧を行った。国内では、アルバイトを雇用しつつ、これまでに収集してきた関係資料の整理・統合とデータベース化を進めた。主たる対象は、過去の研究論文、政府関連資料のほか、新聞記事で、それらを電子化して、整理することで研究メンバーの間で情報の共有化を進めることができた。
口頭発表等としては、研究分担者が主宰する国立民族学博物館の共同研究「オセアニア・東南アジア島嶼部における他者接触の歴史記憶と感情に関する人類学的研究」にて、1件の発表を行った。あわせて文化人類学会において、研究関係者と情報交換を行い今後の研究の進め方について意見を交わすのみならず、数多くの研究発表を拝聴することで研究課題と関連する研究課題についての知見を深めた。また論文などでは、代表者は論集とエッセイ集をあわせて2冊編集したが、それぞれには本研究課題とも間接的ながら関わる内容が含まれている。それ以外には分担者が短い論考3本、エッセイ4本程度刊行した。