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島嶼社会における芸能伝承の課題―対話と発見の場としての映像を活用したアプローチ(2018-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C)

福岡正太

目的・内容

近年、多くの無形文化遺産が伝承の危機にあるという共通の認識のもと、ユネスコの無形文化遺産保護条約等による国際的な文化遺産レジームが確立しつつある。日本では、文化財行政を文化遺産レジームに適応させる一方で、地方社会の経済的活性化のために芸能等の文化財も総動員しようとする政策が進められている。本研究は、そうした状況のもと、鹿児島県の硫黄島と徳之島という規模を異にする2つの島において民俗芸能の伝承が直面する課題とその解決への試行錯誤について調査し、島嶼社会における芸能伝承の重要性を明らかにすることを目的としている。調査は、島において実際に民俗芸能の伝承にかかわる人々の努力に焦点を合わせ、文化財行政の変化が人々の実践に及ぼす影響に光をあてる。それらの課題に対する理解を深め、進むべき方向性を見いだすための対話と発見の場として、芸能の映像記録を活用した研究をおこなう。

活動内容

2023年度実施計画

2022年度事業継続中

2022年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、無形文化遺産概念の普及や文化財行政の変化等を背景に、島嶼社会で民俗芸能の伝承に取り組む人々の実践における課題を明らかにしようとしている。特に、様々な知見の交換をうながし、対象への理解を深めるためのメディアとして芸能の映像記録をとらえ、その可能性を研究と伝承の両方に活かすことを目指してきた。本年度は、新型コロナ感染症の第7派と第8派の流行を注視しながら島での研究活動を再開した。ただし、比較的小規模な調査や集会の開催にとどめたため、さらに1年間研究期間を延長して、本来の研究計画の完遂を目指すこととした。
本年度は、本研究の成果を踏まえ、昨年度国立民族学博物館が制作したマルチメディア番組『徳之島の歌と踊りと祭り』を改訂して徳之島3町(天城町、伊仙町、徳之島町)の資料館等での公開をおこない、さらに映像による展示『島の芸能』のプロトタイプを制作した。前者では島の各集落の芸能の記録映像をインタラクティブに視聴できるのに対し、後者は解説付きの映像により、他の島の芸能と比較しながら徳之島の芸能への理解を深めるコンテンツとなっている。これらにより、利用者の関心や目的に応じて異なる映像の提示法をとることの有効性を今後確認していく。また、観光客等の受け入れを再開した三島村硫黄島では、八朔太鼓踊りの追加調査・撮影をおこない、映像の編集を進めた。今後、上映会等を通じて民族誌的な映像記録を研究や伝承に活用する可能性について探っていく予定である。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

2020年度以降、島の医療体制などを考慮し、島への訪問を控えてきたが、本年度後半から島での調査研究活動活動を再開した。この研究では、映像を媒介として、島の人々との知見の交換をおこなうことで、民俗芸能伝承の課題を探ることを目指しているため、計画していた活動の重要な部分の実施がようやく可能となってきた。ただし、当初の研究期間を延長しての実施となったため、上記の評価とした。

2021年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、無形文化遺産概念の普及や文化財行政の変化等を背景に、島嶼社会で民俗芸能の伝承に取り組む人々の実践における課題を明らかにしようとしている。特に、様々な知見の交換をうながし、対象への理解を深めるためのメディアとして芸能の映像記録をとらえ、その可能性を研究と伝承の両方に活かすことを目指してきた。コロナ禍により島への訪問を自粛したため、当初の計画を1年延長して研究に臨んだが、本年度も離島が来島者を広く迎えられる状況にはならず、訪問を自粛したため、さらに1年間研究期間を延長することとした。
その中で、2022年3月6日には、オンラインと対面のハイブリッド形式で国立民族学博物館国際シンポジウム「学際研究とフォーラム型情報ミュージアム」が開催され、第4セッション「地域文化の記憶と継承」を本プロジェクトで担当した。徳之島の1集落の芸能の継承者、地域独自の奄美遺産制度の本格運用に向けて努力を重ねる町の教育委員会職員、そして芸能の映像記録の活用を試みる研究者、それぞれの立場から発表をおこなった。芸能の伝承、行政による振興、研究という異なる立場の接点において、国立民族学博物館による充実した映像記録作成およびフォーラム型情報ミュージアムの構築が可能となったこと、それぞれの協力により映像記録を活用する可能性が生まれてくることが明らかとなった。今後、こうした成果に基づき、徳之島および三島村硫黄島において、さらに多くの地元の関係者を交えて、芸能の映像記録をどのように活用することが可能かを実践的に明らかにしていきたい。

2021年度活動報告(現在までの進捗状況)

島における医療体制は限られており、新型コロナ感染症の広がりを考慮し、島を訪問しての調査等の活動を引き続き自粛した。この研究では、映像を媒介として、島の人々との知見の交換をおこなうことで、民俗芸能伝承の課題を探ることを目指しているため、計画していた活動の重要な部分を実施することができなかった。以上の理由により、上記の自己評価とした。

2020年度活動報告(研究実績の概要)

本研究は、無形文化遺産概念の普及や文化財行政の変化等を背景に、島嶼社会における民俗芸能の伝承の課題を明らかにしようとしている。特に、様々な知見の交換をうながし、対象への理解を深めるためのメディアとして芸能の映像記録をとらえ、その活用可能性に焦点をあてた研究をおこなってた。本年度は最終年度であり、現地での映像上映と意見交換およびシンポジウムの開催により成果をまとめる計画だった。しかし、コロナ禍に対する島の脆弱な医療体制を考慮した訪問の自粛により、計画の多くを実施できなかった。そのため研究期間を一年延長して、それらの実施を目指すこととした。
1.硫黄島における調査 鹿児島県三島村硫黄島の八朔太鼓踊りの映像の編集作業を進めた。今後、状況の推移を見極めながら、島での映像上映と意見交換を通して、民俗芸能維持における課題とそれに対する島の人々の工夫を明らかにしたい。
2.徳之島における調査 鹿児島県徳之島の民俗芸能伝承における映像記録の活用可能性を探るため、徳之島の28集落の民俗芸能を選択的に視聴できるマルチメディア番組「徳之島の歌と踊りと祭り」を制作した(国立民族学博物館製作)。また、昨年度に引き続き、国立民族学博物館が制作したフォーラム型情報ミュージアム「徳之島の唄と踊り」を小学校の地域の文化を学ぶ授業等で活用してもらう試みを進めていたが、そのフォローアップをおこなうことができなかった。
なお、2019年度末に国立民族学博物館学術資源研究開発センターと共催で企画し、延期となった国際シンポジウムについて、再度延期し、次年度にオンライン
でおこなうこととした。

2020年度活動報告(現在までの進捗状況)

島における医療体制は限られており、新型コロナ感染症の広がりを考慮し、島を訪問しての調査等の活動を自粛した。この研究では、映像を媒介として、島の人々との知見の交換をおこなうことで、民俗芸能伝承の課題を探ることを目指しているため、計画していた活動の大半を実現することができなかった。以上の理由により、上記の自己評価とした。

2019年度活動報告

本研究は、無形文化遺産概念の普及や文化財行政の変化等を背景に、島嶼社会で民俗芸能の伝承に取り組む人々の実践における課題を明らかにしようとしている。特に、様々な知見の交換をうながし、対象への理解を深めるためのメディアとして芸能の映像記録をとらえ、その可能性を活用した研究をおこなう。
1.硫黄島における調査 昨年度に引き続き、鹿児島県三島村硫黄島の八朔太鼓踊りの撮影・調査を進めた。2018年、ユネスコにより「来訪神:仮面・仮装の神々」が無形文化遺産代表一覧表に記載されたことを受け、島では祭りにおける観光客等の受入態勢の整備が進められている。人口約120名の島において、高齢化が進む中、島の社会を維持するためには、島外出身の若い世代を様々な形で呼び寄せることが必要であり、民俗芸能の維持にも島の人々の様々な努力が反映されている。今後は、映像上映を通して、民俗芸能維持における課題とそれに対する島の人々の工夫を明らかにしたい。
2.徳之島における調査 昨年度に引き続き、鹿児島県徳之島の民俗芸能伝承における映像記録の活用可能性についての調査を進めた。集落ごとに多様な文化をもつ徳之島では、集落社会の維持が芸能の伝承の大きな課題となっている。小学校が集落の人間関係や活動の結節点の1つとなっている例に着目し、国立民族学博物館が制作したフォーラム型情報ミュージアム「徳之島の唄と踊り」(各集落の芸能の映像記録からなる双方向的なコンテンツ)を授業等で活用してもらう試みを進めた。
なお、これまでの成果に基づき議論を深めるため国立民族学博物館学術資源研究開発センターと共催で国際シンポジウムを企画していたが、映像の上映会などもあわせて、新型コロナウィルスの感染広がりにより中止せざるを得なくなった。今後、状況を見ながら、再度、開催を企画したい。

2018年度活動報告

本研究は、島嶼社会において民俗芸能の伝承にかかわる人々の努力に焦点を合わせ、無形文化遺産概念の普及や文化財行政の変化等が、人々の実践に及ぼす影響を明らかにしようとしている。それらの課題に対する理解を深め、進むべき方向性を見いだすための対話と発見の場として、芸能の映像記録を活用した研究をおこなう。本年度は硫黄島と徳之島にて調査を進めた。
1.硫黄島における調査 鹿児島県三島村硫黄島の八朔太鼓踊りの撮影・調査を進めた。八朔太鼓踊りに登場するメンドンは、2017年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2018年には甑島のトシドン、男鹿のナマハゲらの芸能とともに「来訪神:仮面・仮装の神々」を構成する10件の芸能の1つとしてユネスコの無形文化遺産代表一覧表に記載された。人口約120名の島において、島を挙げて芸能が維持されている様子を調査し映像で記録した。今後、映像の試写等を通して島における芸能の伝承について議論を深めていく。
2.徳之島における調査 鹿児島県徳之島では、国立民族学博物館が制作したフォーラム型情報ミュージアム「徳之島の唄と踊り」(徳之島の各集落の芸能の映像からなる双方向的なコンテンツ)を、集落に伝わる芸能の学習において活用するため、天城町の小学校と協議を進めた。人口減少が続く徳之島では小学校児童数が減る一方、鹿児島等から赴任する教師の子どもを始めとする集落外・島外出身の児童の割合が増えている。集落と校区が重なっている地域では、小学校が子どもたちに集落の芸能を伝える重要な場となっていることがわかってきた。集落の年長者らから子どもたちへの直接の伝承活動を阻害することなく、効果的に映像を活用するためのコンテンツの改修の方向性などを検討した。