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モンゴルに関する画像記録を用いた地域像の再構築(2017-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A)

小長谷有紀

目的・内容

中央アジアおよびチベット・モンゴルを含む内陸アジアに向けて、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパやロシアからキリスト教宣教師や学術調査隊など多様なエクスペディションが実施された。これらのエクスペディションは、一般向け旅行記とは別に、学術的価値をもつ膨大な資料を残しており、現在もなお各国で資料整理が進められている。
本研究は、こうした整理にあたっている各国の研究者たちとともに国際共同研究のためのプラットフォームを構築し、これまでエクスペディション資料に関して、言語別、目的別、分野別に整理されてきた分断的状況を統合したうえで、モンゴルに関する画像記録に焦点を絞り、資料横断的に主題別に分析する。これにより、まずプレ社会主義期を可視化し、これまでの地域像の源泉である社会主義期およびポスト社会主義期に加えて、プレ社会主義期からポスト移行期を迎えた現在までの統合的な地域像を再構築する。

活動内容

2022年度活動報告(研究実績の概要)

新型コロナウィルスの蔓延により、海外調査ができなくなったため、それに代えてデジタル作業を強化した。デジタル作業は以下の5つに大別される。
第一に、デジタルフィールドワーク。具体的には、オンラインで提供されている古写真の網羅的探索を行い、発信元とコンタクトし、今後の利用拡大について打診した。第二に、テキストのデジタル化。フィンランド語、ロシア語、ドイツ語の旅行記のテキストをデジタル化することで、AI翻訳機能を用いて必要な部分を英語や日本語で随時理解することが可能となり、情報共有の基盤を形成した。第三に、それらの情報を用いてズームでの研究会をこれまで以上に実施した。第四に、地図のデジタル化。旅行記に掲載されている地図類はその図法(投影法)や縮尺が異なっているという課題を克服し、同じデジタル地図への変換を試みた。
これにより、諸探検隊ルートの各特徴が明確に図示されることとなった。第五に、以上の成果をホームページに掲載した。査読をクリアーして刊行された研究成果論文を英訳して掲示するとともに、さらに、ロシア語やモンゴル語で書かれた関連論文を英訳し、執筆者の許可を得て掲示し、より広い国際的利用に供した。
なお、古写真から植生の変化を読み取る作業については、科研メンバーに加えて、人文地理学、森林生態学、植物学、建築学などからの参加を求めて、鳥取大学乾燥地研究センターの共同研究に応募し、派生的な研究を本格化させた。この成果についても英訳公開済みである。

2022年度活動報告(現在までの進捗状況)

新型コロナ感染症の影響により、海外調査が不可能となり、再開の目処が立たないため、オンライン上で利用しうる画像資料の調査に全精力を集中した。その結果、公的機関で保管されている写真について、研究者を介さずに利用する方法についてもリサーチ能力を高めることができ、また公的以外にも対象を広げて諸外国における私的な公開資料などについてもリサーチすることができた。
以上のように、公共財としての画像資料をいかに学術的に利用するかという具体的な方法論を提示することができた。

2021年度活動報告

2021年度事業継続中

2020年度活動報告

2020年度事業継続中

2019年度活動報告

19世紀から20世紀初頭におけるモンゴルへのエクスペディション資料とりわけ画像コレクションについて、各国で整理にあたっている研究者たちと、国際共同研究を推進するための体制をさらに整備し、写真コンテンツの分析を進めた。
具体的には、まず、5月および11月、日本モンゴル学会の日程に合わせて打ち合わせを行い、音楽や人型モデル資料の保有で知られるデンマーク国立博物館で国際ワークショップを開催する内容を決め、12月、同ワークショップを開催した。
同ワークショップには、本科研メンバーのほか、モンゴル、ハンガリー、ポーランド、イギリスから研究協力者が参加した。ホスト側の都合でアーカイブズを見学することはできなかったが、作業にあたった研究者のレクチャーによって、デンマークにおける写真資料について熟知することができた。また、7月に実施したフランス国立図書館、イギリス地理学協会、ロンドンSOASに寄贈された宣教師等に関する実態調査など、各自が進捗状況を報告し、情報を共有したうえで、今後の整理および分析について議論することができた。
こうした議論を生かして、本科研のHPに対して、デンマークをはじめとするスカンジナビア諸国に関する情報の大幅な強化を行った。また、モンゴル写真史に関するモンゴル語論文および、モンゴルにおけるコレクションに関するロシア語論文をそれぞれ英訳してHP上に掲示した。
このほか、4月にブダペスト、11月にソウルで実施された国際モンゴル学会でそれぞれ発表したが、ワークショップ後に予定していたオスロ、カザン等への現地調査は各自見送った。

2018年度活動報告

19世紀から20世紀初頭におけるモンゴルへのエクスペディション資料とりわけ画像コレクションについて、各国で整理にあたっている研究者たちと、国際共同研究を推進するための体制をさらに整備し、具体的な写真コンテンツの分析を開始した。
まず、日本モンゴル学会の日程に合わせて打ち合わせを行い、最大の資料保有機関が集中するサンクトペテルブルグで国際ワークショップを開催することに決め、同ワークショップを12月にコズロフ博物館で開催した。同ワークショップでは、写真1点ずつに対してタグ付け作業を行なった事例をもとに、タグ付け方針をチーム全体で共有することができた。また、コズロフが地理学者として自然環境に関する写真が大量に保管されていることを受けて、植生の長期的な変化を写真から読み解く試みを提示し、今後、別途、プロジェクトを形成することとなった。さらに、写真の撮影技術史という観点から写真内容を検討した結果、それぞれの写真コレクションは、撮影者の意図に加えて、当時のカメラの技術的特徴が反映されていることを具体的に了解することができた。
同ワークショップに先立ち、スウェーデンにおいて現地調査を行い、スウェン・ヘディン学術調査隊ならびにスウェーデン国教会の宣教師エリクソンの記録写真について、整理にあたっているアーキビストたちとの共同研究体制を構築した。とくにミッショナリーは長期滞在型であるため、その記録は民族誌に他ならない。これについては別途動いている限定的テーマのプロジェクトとの協業の成果でもある。また、蒋介石とともにモンゴル貴族が亡命した台湾には資料が運ばれたため、アジアにおけるモンゴル研究中心の一つであり、写真資料について調査したところ、蒙蔵委員会の廃止とともにかなり失われていることが判明した。
2年目として、初年度に作成したHPについて、検討結果を受けて大幅に刷新し、情報を大いに充実した。

2017年度活動報告(研究実績の概要)

19世紀末から20世紀初頭におけるモンゴルへのエクスペディション資料とりわけ画像コレクションについて、各国で整理にあたっている研究者たちと、国際共同研究を推進するための体制整備に着手することができた。
学術探検や宣教師に限らず、かなり多様な移民活動とそれに伴う写真が残されていることが確認された。とりわけ資料整備が進んでいるのはフィンランドとハンガリーである。ヨーロッパにおける諸言語のうち、ウラル語族に属するフィンランド語およびハンガリー(マジャール)語は異質であると自他ともに認識されていたため、言語学的関心から、東方に対する学術的研究の先進国であり、ナショナリズムを反映して整備が進んでいるのである。しかし、英語による検索システムがないため国際的に利用されているとは言い難い。本研究により、こうした問題を解消できるようになるだろう。
エクスペディションの画像記録は、古典的な人類学的ポートレイト写真と風俗習慣を捉えたスナップ写真とに大別することができる。後者の中にはミドルショットとロングショット、フルショットとクローズアップショットが組み合わされているものもあり、黎明期の写真家(撮影技師)が民族誌的記述としての撮影という意図を有していたことが了解される。マリノフスキーらによる民族誌の確立に先行する、民族誌写真の萌芽を認めてもよいだろう。
初年度はまず、すでに一般公開されている記録資料を用いてHPを作成し、画像記録を集積させ、総覧できるようにした。プレ社会主義期の画像記録からは、漢人の商店や大工、欧米人の狩猟など社会主義時代に欠落していた要素が、それ以前と以後で連続していることが明らかとなり、グローバルな関係性の束による地域像をあらわす具体的な切り口として抽出することができた。

2017年度活動報告(現在までの進捗状況)

予定通り、まず、モンゴル学会春季年次大会に合わせて国内研究者による打ち合わせを行い、作業分担を確定した。次に、北京で開催された国際モンゴル大会に合わせて、モンゴル、ロシア、ハンガリー、ポーランドからエクスペディション資料の整理にあたっている研究者を集めて国立民族学博物館でワークショップを開催し、各国が保有する学術資料の共有化を目指すネットワークを構築した。
具体的には、各国別のエクスペディション等の歴史、記録資料とりわけ画像記録の状況(保有数、デジタル化状況、権利関係、メタデータなど)について情報を交換するとともに、横断検索を可能にするための方策について協議し、ロードマップを作成して共有した。
また、得られた情報を参考にしながら、多様なエクスペディションとそれらの資料について総合的に把握するためのHPとして、すでにオンラインで公開されている資料を有効に活用するポータルサイトを作成した。https://historicimages.mn
さらに、年度末に研究会を2度実施し、画像記録の分析方法およびポータルサイトの改良について議論した。