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中国甘粛仏教石窟壁画の制作技法に関する多面的研究(2016-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(A)

末森薫

目的・内容

中国甘粛省の石窟寺院に残される壁画は、当時の仏教の教義や儀礼、伝播の歴史などを伝える貴重な資料である。これまでに豊富な学術的知見が蓄積され、近年では自然科学や先端科学技術を用いた調査・研究により、制作技法や材料に関する新しい知見も続々と提示されている。
本研究は、中国甘粛省にある麦積山石窟および敦煌莫高窟の壁画を主な対象として、既知の知見を基礎とし多面的な研究手法を用いて、下記三つを柱として進める。
1.光学調査および機器分析による壁画制作技法・材料の解明
2.科学的年代測定と美術史編年の比較による年代観の再考証
3.配色パターンの解析による描写法の解析
本研究により、彩色技法の復元や保存修復を行う上での壁画制作技法に関する客観的なデータが蓄積されると共に、新規的な方法論が提示され、地域間の影響関係や画工の特徴などより多角的な視点から仏教美術の諸相が明らかになることが期待される。

活動内容

◆ 2018年4月より転入

◆ 2017年4月より転出

2018年度実施計画

本研究課題の最終年となる平成30年度は、下記三点を実施する。
1.敦煌莫高窟に描かれた規則性を備える千仏図の研究:昨年度まで、敦煌莫高窟の北朝から隋に描かれた規則性を備える千仏図について研究を進めてきた。本年度は、莫高窟での現地調査において、隋に続く初唐に描かれた同図の描写法や窟内での役割等を明らかにする。また、これまでの研究成果をまとめ、学術誌や研究会等で発表する。
2.麦積山石窟における壁画の光学調査:昨年度まで、麦積山石窟の北魏、西魏に描かれた壁画を中心として、彩色材料の分析や光学的手法を用いた調査を進めてきた。本年度は、これまでに調査を実施していない窟の壁画を主な対象として光学調査を実施し、麦積山石窟壁画の技法・材料の特徴や変遷を体系的にまとめる。
3.麦積山石窟壁画片の年代測定結果の解析:昨年度、麦積山石窟壁画片から採取した微量試料について放射性炭素年代測定を実施し、有意なデータを得た。本年度は、美術史編年に基づくベイズ推定により年代測定データの解析をおこない、その結果を学会等で発表する。また、研究協力者と共同で麦積山石窟の年代観について再解釈を進める。

2016年度活動報告

平成28年度は、1.狭帯域光源偏光撮影法の確立および基礎実験、2.麦積山石窟壁画片の調査、3.麦積山石窟壁画の現地調査、4.敦煌莫高窟千仏図描写法の目視調査の四つの項目を軸として、国内のおける調査・実験、中国甘粛省への二回の現地調査をおこなった。
国内では、彩色材料を塗布して作成した彩色プレパラートおよび麦積山石窟の壁画片11点を対象として、狭域帯の近紫外域、可視域、近赤外域の狭帯域光源や偏光光源、モノクロカメラを用いた光学撮影、分光システムを用いた彩色材料や蛍光反応の測色を実施した。また、撮影条件の検討等、後述する現地調査の事前準備をおこなった。得られた成果の一部について、日本文化財科学会第33回大会にて発表した。
現地調査は8月と10月に二回実施した。8月には、河西回廊沿いの仏教石窟(炳霊寺石窟、天悌山石窟、金塔寺石窟、文殊山石窟、昌馬石窟、西千仏洞、莫高窟)にて、壁画の制作技法や描写方法に着目した目視観察調査を実施した。また、金昌および敦煌で開催された国際学術討論会に参加し、国内外の専門家と意見交換や学術交流をおこなった。本調査で得られた知見を含め、莫高窟北朝期の千仏図を対象として実施してきた研究の成果について、学術誌3本(査読付き)および専門誌1本にまとめた。
10月には天水市近郊の麦積山石窟を訪問し、北朝期(五-六世紀)に造営された第76窟や第127窟の壁画などを対象とした光学撮影調査、可搬型分光システムを用いた彩色材料や蛍光反応の測色調査、可搬型蛍光X線分析装置を用いた彩色材料の元素分析を実施した。
本調査で得た成果について、平成29年8月に上海で開催される国際学会(東アジア文化遺産保存学会)にて発表をおこなう準備を進めた。