服部裕規(HATTORI Yuki)
在学生の研究内容
服部裕規(HATTORI Yuki)
所属
比較文化学専攻
指導教員
主任指導教員:福岡正太/副指導教員:岡田恵美
研究題目
ヨウヒッコの時空と精神―現代フィンランドで再興する古楽器パフォーマンスの民族誌
研究キーワード
ヨウヒッコ、フィンランド、「今ここ」の伝承
研究の概要
本研究は、フィンランドの古楽器ヨウヒッコ(jouhikko)のパフォーマンスが現代的な文脈の中でどのように伝承されているかを明らかにすることを試みる。
ヨウヒッコは、主に中世の北ヨーロッパで演奏された弓奏リラ(bowed lyre)の一種である。手を入れるための穴を上部に持つ縦に長い箱形の胴と、馬の尾を撚った3本の弦、弓によって構成される。不確実な発音や掠れた音色、左手指の背で演奏弦を押さえる独特の所作、ドローン(音高の変化なしに鳴り続ける音)などの特徴を持つ。その演奏は、ダンス伴奏を主な役割として、フィンランド東部のカレリア地方を中心に口承で受け継がれた。1940年代に伝統を知る奏者は一人にまで減ったが、1980年代より再興に向かった。ヨウヒッコ音楽は、上記の特徴をある程度保つ一方で、必ずしも過去の再現に拘らない「今」への適応も見せている(例:型にとらわれない表現の追求、ガイドブックの出版、オンラインセッションの開催、動画配信など)。
本研究では、筆者自身が現地の中心的指導者にヨウヒッコを師事し、(1)パフォーマンスを学ぶことでつながる様々な人やモノのコミュニケーション圏と、(2)それらのコミュニケーションの中で合意されてはまた修正されていく音楽的表現やヨウヒッコへの認識のあり方について、学習者の視点から民族誌的に記述する。ヨウヒッコの伝承を、完成された知識体系の一方向の伝達として捉えるのではなく、「今ここ」で生じる双方向の営みの中で生成・変化するプロセスとして捉えることで、その生き生きとした実態を描き出してみたい。この研究は、「ヨウヒッコを弾くことが現代人に何をもたらすのか」を問うためのステップである。