Select Language

山本恭正(YAMAMOTO Yasumasa)

在学生の研究内容

山本恭正(YAMAMOTO Yasumasa)

所属

比較文化学専攻

指導教員

主指導教員:日髙真吾/副指導教員:鈴木紀

研究題目

地域社会における文化遺産概念とその意味作用について―文化的景観「信仰の山」を事例として

研究キーワード

地域社会、文化遺産、熊野古道、草の根文化実践

研究の概要

本研究の目的は、2004年に世界遺産リストに記載された熊野古道(正式名称は熊野参詣道)をめぐって地元の人々がおこなう様々な解釈・実践のプロセスを描き、そのことを通じて道の文化遺産的価値を考察することである。近年、熊野地方において新たに見いだされた道は文化遺産としての道の価値を補完し、より自分たちの生活領域と関連した文脈における価値として再発見されてきた側面があり、UNESCO世界遺産の一覧表に記載されていない地域の文化や自然を草の根レベルで地元の人びとが創出・継承していこうとする営みである。

道を強調しながらも信仰に関わる事柄を遺産化しようとする和歌山県が、三重県と奈良県の南部エリアの景観をも独自のプランで登録対象地区に含んだ結果、中世の熊野詣のイメージを核として、熊野地方全体が観光客に対して神秘的な印象を与えるようになった。熊野信仰に関連する景観や社寺の遺産化によって、それ以外の生活レベルで育まれてきた景観や祭り、近世以降の建造物や民具などが顧みられる状況が減り、その継承が滞ってしまう傾向がある。身近でなじみ深い記憶や技術、伝統的なモノなどは、文化遺産として継承されないまま忘却されてしまうのではないだろうか。

本研究では、世界遺産の価値や評価基準からこぼれ落ちた熊野地方の草の根の道や世界遺産を活用したイベントを取り上げることで、文化の表象としての道の文化遺産が熊野地方全体にもたらした影響を明らかにする。また、地元の人びとの新しい道を創出するという実践が、文化行政や研究者、ジャーナリストらなどによる外部者の熊野イメージを修正していく過程について詳述する。世界遺産というグローバルな文化的枠組みに望む望まざるに関わらず、取り込まれ巻き込まれていく地域社会において、草の根の道の文化実践を明らかにすることは、現代の世界遺産を頂点とする文化統治システムの構造上の課題を照射することにつながると考える。

フィールドワーク写真

世界文化遺産で、西国三十三か所霊場1番札所・青岸渡寺。

研究成果レポート