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受験生へのメッセージ(2023年3月以前)

受験生へのメッセージ

私たちの2専攻は、フィールドワークを通して考え、研究することを重視しています。グローバル化が進行する現代社会では、文化の移動や混交が日常的になり、人々の帰属意識や繋がりも多様になっています。ヒト、モノ、情報の迅速で多方向的な移動は、既存の枠組みにとらわれない共生・共存の可能性を開く一方で、これまで存在しなかった衝突や摩擦を引き起こす原因ともなっています。このように大きく変化する世界を、人類学的な視点をフルに活用して現場から捉えることのできる人材を養成します。

両専攻には、文化人類学とその関連の学問領域で、世界各地のフィールドの第一線で活躍するスペシャリストが揃っています。エスニシティ、歴史、生態環境、家族、生殖医療、エイジング、宗教、政治と社会、開発、観光、ジェンダー、音楽と芸能、物語、言語、情報学、博物館学、保存科学、考古学、物質文化、アート、染織、技術、文化遺産など幅広い分野の研究に従事する教員を40名あまり擁する教育体制は、他に類を見ません。基盤機関である国立民族学博物館は、日本における民族学・文化人類学の拠点機関であり、そこに収蔵される膨大な研究資料を活用した研究が可能です。

フィールドワークや学会での発表を支援する各種の学生派遣制度など、学生の研究や生活を支援する制度が充実しているのも私たちの大学院の特色のひとつです。そのほか、学外の財団などの研究助成や奨学金制度への応募を支援する体制も整っており、日本学術振興会の特別研究員(DC)への新規採択者は、平成20年度から令和2年度までの14年間で合計30名を数えます(年平均2名あまりで、在籍者の3分の1が採択されています)。令和2年度までに両専攻の博士学位取得者は108名を数え、大学などの教育研究機関を中心にさまざまな分野で活躍しています。

総研大の地域文化学専攻・比較文化学専攻で、自らの研究テーマと可能性を追求しようという皆さんを歓迎します。

総合研究大学院大学文化科学研究科 地域文化学専攻
比較文化学専攻

在校生

WU WUYUNGA 比較文化学専攻(令和元年度入学)

私は、中国国内においてラクダを最も多く飼育し、「ラクダの故郷」と呼ばれる内モンゴル自治区アラシャー盟を調査地とし、ラクダを放牧しながら生活をしているモンゴル族を対象に、彼らの放牧技術や物質文化などを明らかにする研究を続けています。修士課程では、当該地域における古老たちの口承伝承や口述史などを収集し、その中で、ラクダに関する語りが非常に多いことを明らかにしました。博士課程では、すでに収集した資料や現地調査を通して、ラクダ牧畜民の放牧生活やラクダとの関わりを描写した民族誌を作成することを研究目的にしています。

日本に留学し、総研大(みんぱく)に進学したきっかけは、2015年、内モンゴル大学の修士課程2 年生の時に、みんぱくを見学したことにあります。当時、みんぱくに収蔵されていたモンゴルに関する書籍や総研大の先生方らの研究成果、梅棹忠夫先生の収集した資料、モンゴルに関する展示、標本などが印象深く、非常に魅力的なものでした。

総研大(みんぱく)には、人類学・民族学、考古学など異なる研究分野の研究者が大勢集まっており、それぞれの専門分野の視点からコメントやアドバイスをいただくこともでき、非常にオープンな雰囲気があります。加えて、館内外の研究者から構成された共同研究会や国際研究会、講演に参加することも可能であり、素晴らしい研究環境が揃っています。

また、総研大には学生に対する様々な支援があり、私は、中国における予備調査を実施する際には、専攻が実施する『学生派遣事業』を利用することができました。また投稿論文や学会発表の日本語文章の添削支援もあり、留学生としては非常に安心です。さらに、総研大には学外の助成金に関する情報も豊富であり、私は指導教員の指導や事務サポートのおかげで、海外調査助成金を獲得することができ、長期調査の実施につながっています。院生の研究室には、自由に使える多くの機材やソフトウェアが用意されており、院生にとっては非常に恵まれた環境と言えます。

川上香 地域文化学専攻(令和元年度入学)

私は、南アルプス周辺山村の畑作と作物の変遷について研究しています。焼畑農業に関心があり、焼畑が衰退した昭和30年代から現代までに作物がどのように集約されていったのか、また、多数の近代品種が栽培されているにもかかわらず在来作物が今でも栽培されているのはなぜか、その理由を明らかにしたいと考えています。このため、季節ごとの農作業の参与観察を断続的に長期間行いたいと希望していました。専攻では、学生派遣事業という制度があり、研究計画の中で必要なフィールドワークに対する経済的支援を受けることができます。直近の調査では、PCR検査費用に対しても専攻から支援をいただき、インフォーマントに不安を与えることなく調査を続けることができました。

2020年は感染症の拡大で大学院に足を運ぶことが難しい中、リモートでのゼミ参加と講義を経験しました。通常、専攻のゼミは自身の主指導、副指導の2名の先生と、分野の違う4名の先生方、院生が一堂に会して行われます。今回はパソコンの画面を介して質疑や意見を交わす形となりました。また、履修した講義は、論文11本(!)についてリモート講義を受け、レポートを提出して添削、解説していただくという贅沢なスタイルで進められました。私は長野県の山村に暮らしていますが、ゼミも講義も自宅に居ながら参加することができ、充実した学びの時間だったと感じています。

最後に、私は社会人を30年近く経験してから進学しました。経済的に続けられるのか、そして博士論文が本当に書けるのか、入学当初は迷いと不安だらけでした。しかし、今では「何とかなる!」と考えられるようになりました。ご指導いただいている先生方やサポートしてくださる事務の皆さん、図書室の皆さん、院生の皆さんにはとても感謝しています。

孫文 比較文化学専攻(平成30年度入学)

2008年5 月12日、四川省アバ・チベット族チャン族自治州でM 8 . 0 の大地震(「5 ・12四川大地震」)が発生しました。同年、私は中国の中央民族大学に入学し、震災復旧について研究をはじめました。修士課程では、四川大地震の被災地を訪問し、日常生業の変化と資源問題について調べました。調査結果を整理するために参考にしたのは、日本の資源人類学研究と生業研究でした。これがきっかけとなり日本の人類学に関心をもちました。特に、日常の些細なことに対する研究姿勢が興味深いと思います。

災害、生業、開発が博士課程を選ぶためのキーワードでした。総研大(みんぱく)には、異なる研究分野の人類学者が大勢集まっています。多様な研究視座と国際的な視野に憧れて、私は総研大に進学すると決心しました。現在の研究テーマは、2008年の地震で被災した四川省の黒水チベット族の開発状況とアイデンティティの選択策略で、さまざまな立場の人々の日常的実践に着目しています。
自分の研究を遂行するために、総研大本部やみんぱくの支援制度が役立ちます。私は予備調査のために「学生派遣事業」を利用しました。また学外の助成金に関する情報も豊富です。そのおかげで2020年度日本学術振興会の特別研究員(DC 2 )に選ばれました。申請の際、指導教員と研究協力係が丁寧に支援してくださったことは、今後一生の財産だと思います。

人類学の研究者として、国立民族学博物館の収蔵資料も魅力です。自分の研究だけでなく、世界の文化を比較するために重要なヒントが得られます。総研大(みんぱく)で学びながら、研究室の仲間と先生方から、通文化的研究と学際的研究のドアを開いていただきました。

松永千紗 地域文化学専攻(平成30年度入学)

私は、アメリカ合衆国に現存する日本町のひとつである「サンノゼ日本町」を、コミュニティの視点から研究しています。修士課程では、この日本町にあるサンノゼ日系アメリカ人博物館を対象に、解説員による語りの継承について研究していました。博士課程では、この博物館が日本町で果たす役割への興味から始まり、コミュニティへと研究対象が発展していきました。

地域文化学専攻は、国立民族学博物館(みんぱく)を基盤機関としています。博物館の形として最先端である「フォーラム型情報ミュージアム」プロジェクトの試みを間近で見られるなど、博物館研究に最適の場所です。さらに、みんぱくは、博物館研究だけでなく、人類学や民族学、考古学などの分野を専攻する学生にとって、非常に理想的な環境だといえます。館内には、世界最大級の所蔵品や人類学・民族学に関する膨大かつ多様な資料があり、これらを用いた研究が可能です。また、みんぱくには学生数を遥かに超える様々な専門分野の先生方が所属されており、希望すれば、それぞれの専門分野の視点から、的確なコメントを頂くことができます。加えて、館内で開かれる様々な共同研究や講演、プロジェクトに参加する機会にも多く恵まれます。また、専攻では、当該分野に必須であるフィールドワークに対する経済的な支援も充実しています。

私は、このような恵まれた研究環境をできる限り活用しながら、日々研究に邁進しています。多様な分野の先生方との対話、共同研究への参加、充実した資料の活用、さらにフィールドワークの支援など、地域文化学専攻には、良い研究成果を残すことができるすべての環境が整っているといえるでしょう。


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