特別展「吟遊詩人の世界」開会式ご挨拶
皆さん、こんにちは。館長の吉田でございます。
本日は、残暑が続く中、ようこそ、民博創設50周年記念特別展「吟遊詩人の世界」の開会式にお運びいただきました。誠にありがとうございます。
国立民族学博物館(みんぱく)は、国立学校設置法の一部を改正する法律(昭和49年法律第81号)の施行により、博物館機能をもつ文化人類学・民族学の分野の大学共同利用機関として1974年に創設され、1977年に大阪千里の70年万博の跡地に開館しました。2004年には、国立大学法人法の施行により、みんぱくは大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の構成機関となりましたが、本年2024年で、創設五十周年を迎えました。
みんぱくには現在、専任教員が54名おりますが、それぞれが世界各地でフィールドワークに従事し、人類文化の多様性と共通性、そしてそれらの文化のつながりについて調査研究を続けています。
みんぱくが過去50年をかけての収集してきた標本資料、つまりモノの資料の総数は、現在、約34万6千点を超えました。このコレクションは、20世紀後半以降に築かれた民族誌資料のコレクションとしては、世界最大規模のものです。また、みんぱくは、その施設の規模の点で、現在、世界最大の民族学博物館になっています。
この度、ここにみんぱくの創設五十周年記念事業として特別展「吟遊詩人の世界」を開催いたします。
世界各地で、今も、人びとの暮らす家から家へと、あるいは村から村へと巡り歩き、詩歌を歌い語る吟遊詩人の姿が確認できます。彼ら彼女らの歌と語りが辺りに響くとき、世界はそれまでとはまったく異なる相貌をもって人びとの前に立ち現れてきます。そのような吟遊詩人の歌と語りを、この特別展では、世界を「異化」する存在としてとらえています。アフリカのエチオピア、マリ、ギニア、アジアのインド、バングラデシュ、ネパール、モンゴル、そして日本の、それぞれの地の歴史と環境に育まれた個性豊かな吟遊詩人のありようが、豊富な映像と写真、資料、そしてときには実際のパフォーマンスを通じて紹介されます。
この展示では、また、人類学者の手による、そうした映像記録の製作のあり方にも、省察的、反省的なまなざしが向けられています。その結果、この特別展は、みんぱくが過去50年を費やして世界各地で継続してきたフィールドワークを、「吟遊詩人」という共通項の下で、いわば切開して比べてみせる試みにもなっています。世界各地を巡り歩き、その地の文化を語り伝える人類学者は、あるいは、もうひとりの吟遊詩人なのかもしれません。
今回の展示では、みんぱくの教員だけでなく、東京学芸大学の小西公大さん、京都大学の矢野原佑史さん、国士舘大学の鈴木裕之さんに展示の構成自体に参画していただき、また、ごぜミュージアム高田と、豊岡市立日本・モンゴル民族博物館からは、貴重な資料をご提供いただいております。この場をお借りして、ご協力いただきました皆さまに厚く御礼を申しあげます。
今回の特別展が、吟遊詩人の世界の多様で豊かなあり方に接していただく機会となり、吟遊詩人の発する歌と語りのもつ力について理解を深めていただく契機となることを願っております。
では、この後、吟遊詩人の世界をご堪能ください。
本日はお越しいただき、まことにありがとうございました。