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オーストラリア・アボリジニのスマホ事情

コロナ禍で加速するデジタル化。なかでもスマホはコミュニケーションの必需品だ。私はオーストラリアの中央砂漠で先住民アボリジニの暮らしを調査している。オーストラリアに訪れるのが難しくなってから、現地の人びとによく電話をかけるようになった。スマホ越しにみんなの賑やかな声をきくと、ワンプッシュで異国と繋がれることのありがたみをひしひしと感じる。ここでは、アボリジニのスマホ事情を紹介したい。

アボリジニ社会は荒涼とした内陸の砂漠地帯であっても、スマホがかなり普及している。音楽をきいたり、家族に電話したり、写真を撮ったり、各々が楽しいスマホ時間を過ごしている。日本の私たちと同じく、スマホはアボリジニの生活の一部といえるだろう。

だが、決定的に異なる点もある。それはスマホを家族間でシェアすることだ。スマホは家族の間を行ったり来たりする。電話をかけても目当ての人が出てくれるとはかぎらない。スマホのシェアは料金の支払い方法にも影響を与える。不特定多数がスマホを利用すると多額の請求がくる可能性がある。そのため、特定個人からの引き落としは避けられ、利用者がその都度、必要な分の金額をチャージするかたちがとられる。チャージ切れのため回線不通となっていることも珍しくない。

誰がでるのか、ちゃんとつながるのか、かけてみないとわからない不思議なスマホ。「至急の用事がある時はどうするのか」という疑問もわいてくるだろう。実のところ情報伝達にはほとんど支障がない。移動と口伝えが活発なアボリジニ社会では、スマホ通話の内容は瞬く間に拡散されるからだ。

スマホ通話で得られた情報は、口伝えによって補われ、リアリティを帯びていく。このリアリティに触れるには、結局のところ対面の交流をはかるしかない。残念なことに日本にいる私は、その輪に入ることが難しい。通信を終えた後、静寂の中に断片化された情報だけが残る。それに気づくと、スマホ通話だけではもどかしく、フィールドに出かけたい気持ちでいっぱいになるのだ。

平野智佳子(国立民族学博物館助教)



関連写真

旅の道中、スマホで家族に電話をかける女性
オーストラリア・エルダンダ、2018年3月17日、平野撮影