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マダガスカル南部の「アイアイ」

童謡でも知られるアイアイをご存じだろうか。動物に詳しい人ならば、マダガスカルに暮らす霊長類であることを知っているかもしれない。マダガスカルはインド洋上の島で、南半球にある。童謡で歌われるとおり、「みなみのしま」の「おさるさん」である。現地では「ハイハイ」や「ハハイ」とも呼ばれるが、名前の由来がはっきりしない。

有名な説は、「よく知らない」という意味の「ハイハイ」から来ているというものだ。ヨーロッパ人がアイアイについてマダガスカル人に尋ねた際、「よく知らない」と答えたものが、動物の名前として記録されたというものだ。面白い説だが、少しおかしい気がする。この説が正しいとすると、マダガスカル人が使っていた本来の名前はどうなったのだろうか。

それ以外にも、アイアイの声に由来するという説や現地人の叫び声という説があるが、いずれも根拠に欠けている。由来が謎なのは、タブーと関連しているという話もある。マダガスカル北部ではアイアイは不幸を呼ぶ動物と考えられており、口にするだけで不幸を呼び込むとして、あまり言葉にしない人びともいるそうだ。

そんなアイアイの名前をマダガスカル南部で耳にした。コジャコウネコという動物について地元の人に尋ねていたときのことだ。この動物は猫に近い大きさで、ニワトリを襲うので地元の人びとから嫌われている。私の説明を聞いた後、その人は納得した顔で「ハハイ!」と言ったのだ。私は最初、この森にアイアイがいるのかと思った。そのような話は聞いたことがなく、見つかれば新発見である。

しかし、繰り返し話を聞いても、それはコジャコウネコのこととしか思えない。他の人に尋ねてみても、皆「ハハイ」と答えるのだ。どうやら、ここではコジャコウネコのことを「ハハイ」と呼ぶようだ。しかし、見かけも生態もアイアイとは違う。共通点は夜行性であることだろうか。日本のタヌキとアナグマのように、夜行性動物にはしばしば混乱がみられる。さらに、複数の動物をはっきりと区別しない場合もある。マダガスカル南部の「アイアイ」が何者なのか、もう少し調べてみたいと思っている。

市野進一郎(国立民族学博物館特任助教)



関連写真

写真1 アイアイ(Daubentonia madagascariensis)(撮影 佐藤宏樹)


写真2 コジャコウネコ(Viverricula indica)(撮影 筆者)