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仮面という装置を追って 人間が抱く異界へのあこがれ

2023年4月2日刊行
吉田憲司(国立民族学博物館長)

国立民族学博物館(みんぱく)のアフリカ展示場の一画に、私が40年間フィールドワークを進めてきたザンビア・チェワ社会の仮面が並んでいる。死者の葬儀、とくに喪明けの儀礼に登場する、ニャウ・ヨレンバと呼ばれるかぶり物型の仮面である。

私は、1985年の5月に加入儀礼を受けて、チェワの人びとがつくる仮面結社ニャウのメンバーとなった。みんぱくで展示しているカモシカ、ハイエナ、カメのかぶり物型の仮面は、教えを受けた技法を用いて、私自身が日本に帰国してから製作したものである。結社のメンバーが製作したものであるから、「複製」ではない。展示場では、それらのかぶり物が乱舞する様子を、映像で紹介している。2000年に亡くなった、私のフィールドワークのアシスタント、モゼス・ピリのために、私が喪主となって催した葬儀の際に撮影したものである。死者の霊は、仮面の舞踊を通じて祖先の世界へ送り届けられ、将来子孫の中に生まれ変わってくるといわれている。

儀礼に登場したニャウ・ヨレンバ
儀礼に登場したニャウ・ヨレンバ
=ザンビアのカリザ村で2019年8月、著者撮影

このチェワの社会を皮切りに、仮面の祭りや儀礼を追いかけて、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、そして南北アメリカと、世界の各地をたずねてきた。改めて見渡すと、仮面の造形の多様性に目を引かれる一方で、共通する特徴に気づかされる。

アフリカやメラネシアの葬送儀礼や成人儀礼の際に森の奥からやってくる、死者の霊や精霊の仮面から、ヨーロッパの季節の節目の祭りに登場する異形の仮面に至るまで、日本でいえば、能・狂言や民俗行事で用いられる神がみの仮面から、テレビに登場する月光仮面やウルトラマンに至るまで、仮面(あるいは変身するヒーロー)は、常に、世界の危機や時間の変わり目において、どこか遠くからやってきて、ひととき人間と交わり、人びとに恵みをもたらしては去っていく存在となっている。

目に見えない遠い世界=「異界」から一時的にやってくる存在を可視化するという点で、森から村へやってくる精霊たちも、山から町へやってくる神霊も、月からやってくる月光仮面も、そしてM78星雲からやってくるウルトラマンも、なんら変わるところがない。人間の知識の及ばない世界、つまり異界を、森に設定するか、山に設定するか、月に設定するか、それとも宇宙のかなたに設定するかの違いだけである。知識の増大とともに、異界は、山から月へ、そして宇宙へと、どんどん遠くへと遠ざかっていく。しかし、その異界の力への人間のあこがれ、異界からの来訪者への期待が変わることはなかったのである。

人間は、自分たちの手の届かぬ世界の力に働きかけるために、仮面という装置を生みだしてきたようだ。