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スマートフォンは「便利」な道具?~ソロモン諸島~

スマートフォンは、社会生活上のさまざまな行為を一つの端末に集約した便利な道具である。グローバル化の波に乗り、それはいまや世界各地で必需品のような地位を獲得しつつある。しかし、私たち人類は、等しくその「便利さ」から恩恵を受けているのだろうか。世界の人びとはスマートフォンをどのように活用しているのだろうか。

非常勤先の大学でグローバル化をわかりやすく伝えるための資料として、私の調査地であるソロモン諸島の人びとがスマートフォンを持っている写真を見せることにしている(写真1)。たいていの学生は「途上国だと思っていたのに、スマホがあるなんて!」といった反応を示す。ただ、つい最近、ある学生から次のような質問が来た。「彼らはスマホで何をしているのですか?」

思いがけない質問だった。2009年から十余年、私はソロモン諸島で携帯電話が普及していく様子を肌で感じてきた。通信事業者が増えて端末価格が下がり、若者でも手が出せるようになったときも、小さなモノクロ液晶とボタンしかなかったものが全画面のタッチスクリーンに取って代わられ始めたときも、私はその場に居合わせていた。そういえば、現地の人びとはスマートフォンで何をしているのだろう。

第一の用途はもちろん通話である。SNS、とりわけFacebook の利用も多い(写真2)。そのほか、首都でも村でも音楽プレーヤーや手軽なカメラとして利用している姿が目につく。さらに、首都の若者は一人で通信対戦のゲームに耽っていたり、首都の市場へ農作物を売りに来た村人たちは車座になってオフライン対戦の双六(すごろく)ゲーム『ルドー』に興じていたりする(写真3)。しかし、ソロモン諸島で電子決済はできないし、交通情報や飲食店等の割引クーポンなどが手に入るわけでもない。通話料・通信料が思いのほか高いため、いつでも気軽にインターネットが楽しめるような環境ではない。

さまざまな「便利さ」が詰まったスマートフォン。世界各地で普及していることは紛れもない事実だが、その利用法は意外と限られているようである。

藤井真一(国立民族学博物館助教)



関連写真


写真1 2010年代後半になると、スマートフォンを複数台持っている者も増えてきている。(首都ホニアラ、2017年9月15日、筆者撮影)



写真2 スマートフォンでSNSをチェックする村人と、それを取り囲む若者たち。(ガダルカナル島北岸部、2019年3月4日、筆者撮影)



写真3 首都の市場へ農作物を売りに来た村人たち。売り子は妻や娘に任せて双六ゲーム『ルドー』に明け暮れている(首都ホニアラ、2019年8月24日、筆者撮影)