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京都で発見! タロイモショウジョウバエ どう熱帯から? 見かけたら一報を

2023年6月4日刊行
ピーター・マシウス(国立民族学博物館教授)

最初、私と妻が野菜を栽培している京都の小さな貸農園で、サトイモについた小さな黒いハエを見たとき、我が家のコンポスト(生ごみや野菜の残渣(ざんさ)から堆肥(たいひ)を作る入れ物)にいるハエだと思いました。

私はニュージーランド出身の民族植物学者で、長年、国立民族学博物館に勤めています。多くの国々でサトイモを研究の対象としてきました。しかし、食べ物として、どうやったらうまくサトイモを育てられるのか、いまだにコツがつかめていません。夏の終わりごろ、地中に数年植えたままのサトイモから花が咲くことがあります。これは何度もありました。でも、2021年の夏は違いました。ハエが出現したのです。さっそく、専門家(長野県環境保全研究所の高野宏平氏)に写真と標本を送りました。すぐに返事が来ました。「たいへん! サトイモの受粉をするハエ、タロイモショウジョウバエ属のハエだ! どうして京都に!」

筒状のサトイモの花。中にはハエがいる=京都府内で2021年10月、筆者撮影
筒状のサトイモの花。中にはハエがいる=京都府内で2021年10月、筆者撮影

どうやってうちの貸農園に入ったのでしょう。実は普通に生息しているのに、誰も気づかなかっただけなのでしょうか。このハエは熱帯の東南アジアで、サトイモやクワズイモなどと共生しています。このハエの最も近い生息地は琉球列島で、クワズイモと一緒に暮らしていることが知られています。

今、三つの仮説を考えています。(1)21年には、稲作に重大な被害を及ぼすトビイロウンカが、ベトナム北部や中国南部から南西の風に乗って大量に飛来しました。トビイロウンカと一緒に、この風に乗って日本に「ヒッチハイク」してきた。(2)西日本各地の貸農園にあるサトイモの花を見つけて、気候温暖化に伴い、じわじわと北上してきた。(3)数千年前に京都でサトイモの栽培が始まって以来、古くから京都に生息している小さな集団に属しているハエで、縄文時代からここにいる。そうだとすれば、農家がサトイモを厳密な栽培スケジュールを組んで出荷するようになる以前は、西日本各地の村の畑や菜園でサトイモの花が、ごく普通に咲いていたのでしょう。

シチズンサイエンス(市民科学、アマチュア科学)の力で、この謎を解くことができるのではないでしょうか。ご自身の畑や菜園でサトイモが花を咲かせているのを見たことがありますか。そして、花が黄色くなり、開き始めた頃、小さな黒いハエが外側にいたり、上部の中空の筒で集団を作ったりしていませんか。

今年でも来年でも、日本のどこででも、サトイモやクワズイモの筒状の花を見つけたり、そこに黒い小さいハエを見かけたりしたら、メモと写真を送ってください。メールの件名を「satoimo」として、ピーター・マシウス(satoimo-no-hana★minpaku.ac.jp)まで。(※★印を@に変更して送信ください。)