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田主誠さんとカナダ先住民の版画

版画家の田主誠さんが逝去されてから、まもなく半年になる。田主さんは、故郷・舞鶴の海上自衛隊で事務官として勤務しながら版画を制作、国内外の美術展で数々の入選・受賞し、みんぱくが開館した1977年に「美術感覚のある」展示課陳列係長として採用された。ちょうど30年前の1993年、50歳のとき、画業に専念するため、みんぱくを退職したが、その後もさまざまな出版物の挿画や装丁、ワークショップ講師として当館との関係が続いていた。

開館後、軌道に乗るまでの数年は、土日もなく出勤したと聞いた。激務のなか、『民博通信』1〜96号(1977−2002)の挿画に始まり、『月刊みんぱく』では「民話の世界」(1982−1994)、「民族博物誌」(1994−2004)と連載で挿画を担当され、ご存じの方も多いと思う。

筆者も『月刊みんぱく』の田主さんの版画を楽しみにする読者の一人だった。直接お会いできたのは2007年秋のこと。(長い題目で恐縮ながら) 「カナダにおける先住民芸術の歴史的展開と知的所有権問題 ─国立民族学博物館所蔵の北西海岸インディアンとイヌイットの版画の整理と分析を通して」という共同研究を計画、岸上伸啓教授や大阪大学にいらした大村敬一さん(現・放送大学教授)に相談するなかで、研究メンバーとして版画の専門家に加わっていただいては、と紹介されたのが最初だった。田主さんは研究会に積極的に参加くださり、2008年と2010年には自費でバンクーバーなど北西海岸地域に赴き、版画工房やアーティストを訪ねて調査をされた。版画技術や芸術家の視点からの分析など研究上のご教示をいただいたばかりでなく、当時、筆者が勤務していた北海道立北方民族博物館(網走市)でペーパークラフトや版画のワークショップの講師もしていただいた。民博に赴任してからも親しくさせていただき、公私ともにお世話になった。

9月7日(木)に開幕する企画展「カナダ北西海岸先住民のアート ―スクリーン版画の世界」(〜12月12日)に合わせ、エントランスホールで「田主誠 ミュージアム・オブ・ドリームス ―みんぱくと歩んだ版画家の創作世界」(〜11月28日。主催:千里文化財団)が始まる。「1万点あまり」という田主作品のごく一部ではあるが、4週間ごと3期に分けて展示予定なので、企画展とともに、ぜひご覧いただきたい。

齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)

関連ウェブサイト

版画展「田主誠 Museum of Dreams ─ みんぱくと歩んだ版画家の創作世界」
企画展「カナダ北西海岸先住民のアート――スクリーン版画の世界」



関連写真


写真1 共同研究会でスクリーン版画の方法を解説する田主さん (2007年)



写真2 田主さんが考案した北西海岸先住民の仮面のペーパークラフト(2008年)



写真3 ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館の野外展示(2010年)