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カナダ北西海岸先住民の版画

カナダの太平洋沿岸には、ハイダやクワクワカワクゥらの15以上の先住民族が居住している。彼らの伝統的文化や言語は19世紀後半から20世紀半ばにかけてのカナダ政府による同化政策によって衰退したが、1950年代になるとおもに先住民族自身による復興や創造的継承のための活動が盛んになった。その中で、1960年代末にクワクワカワクゥ民族のエレン・ニールやダグ・クランマーらが自らの新しいアートを創り出そうとシルクスクリーン版画の制作を始めた。その後、20世紀末にはあらたにジークレー版画が出現した。

シルクスクリーン版画とは、絹製スクリーンの上に孔をあけ、その孔を通して着色する版画である。スクリーンにテトロン製のシートが使われるようになったので、現在ではシルクは省略して単にスクリーン版画と呼ぶことが多い。初期の版画は、神話や精霊、動植物、家族集団の紋章などを題材とし、黒色のフォームライン(型枠組線)の中にたまご型、U字型、ひとみ型の図形を組み合わせて、図像や文様を描き出した。1990年代後半になると、PCを用いて色彩豊かな図案を描き、インクジェットプリンターで印刷するジークレー(フランス語で「吹き付ける」という意味)版画の制作が始まる。

コモックス民族のアンディ・エバーソンによると、ジークレー版画ではPCを利用して多彩な色を用いて自由に描写できる点がよいという。スクリーン版画の場合は原画を刷る業者に持ち込むと、一色増えるごとに経費が高くなるが、ジークレー版画では自らが原画を描き、それを印刷すれば制作コストを低く抑えることができるそうだ。一方、ハイダ民族のエイプリル・ホワイトのように筆で描いた原画をPCでスキャンし、高性能プリンターを持つ印刷業者に刷ってもらっているアーティストもいる。

ジークレー版画の出現により、より多色で伝統的な形式にとらわれない表現ができるようになった。民博では2023年9月7日から12月12日まで企画展「カナダ北西海岸先住民のアート―スクリーン版画の世界」を開催し、約50点の版画を展示している。是非、作品を楽しんでほしい。

岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

関連ウェブサイト

企画展「カナダ北西海岸先住民のアート――スクリーン版画の世界」



関連写真


写真1 エイプリル・ホワイト作 ジークレー版画「トゥルー・ジャート、カヌー女」2013年制作