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冬の季節の曲がり角 夜が最も長い日の祝祭

2023年12月3日刊行
河西瑛里子(国立民族学博物館助教)

「ハッピー・ソルスティス!」

「ハッピー・ソルスティス!」

いつもは降らない雪がまた降りだしそうな曇天の下、陽気な声が響く。イギリス南西部グラストンベリーのチャリス・ウェル庭園。地面に積もった雪が靴底から凍(し)みこんできたかのように、足先はすでに冷たく、感覚がなくなりかけている。クリスマスの4日前、冬至の日の事だ。

キリスト教が長らく優位にあったヨーロッパだが、今ではそれ以外の信仰もある。たとえばペイガニズム。キリスト教が来る前からあった、多神教で自然を崇(あが)めていたとされる、古い信仰のことも、それをもとに創り出された現代の信仰のことも指す。冬至はその祝祭の一つだ。

冬至の祝祭の様子。このときは急な寒波のため、やや簡素化された=イギリスのグラストンベリーのチャリス・ウェル庭園で2010年12月21日、筆者撮影
冬至の祝祭の様子。このときは急な寒波のため、やや簡素化された
=イギリスのグラストンベリーのチャリス・ウェル庭園で2010年12月21日、筆者撮影

ハロウィンの起源とされるソーウィンに始まり、冬至、インボルク、春分、ベルテーン、夏至、ルナサ、秋分と季節の変わり目と盛りを祝う。昔のケルトの人たちも用いていたらしい。この雪の日の祝祭では、東に風、南に火、西に水、北に地というように、4方角に対応する4要素を呼び出したり、トネリコの薪(まき)(ユールログ)に触れたり、瞑想(めいそう)をしてこの季節のあれこれや自分のことを考えたり。

この何年か前、ロンドン郊外の森で参加した冬至の祝祭では、「冬を司(つかさど)る柊(ひいらぎ)王と夏を統べる楢(なら)王が大地の女神をめぐって闘い、楢王が勝利。女神との間に子供が生まれる」というストーリーが演じられていた。冬の最中(さなか)に夏の象徴が勝つというのも変な気がしたが、その夜もたき火から離れられないほど寒かったから(私の防寒対策が不十分だったせいもあるが)、「夏というよりせめて暖かい季節が待ち遠しいんだろうな」と思った。

キリスト教のクリスマスは冬至に由来するとも聞く。冬至を祝う人たちは「クリスマスはキリスト教だから、私たちはお祝いしない、代わりに冬至を祝う」と言う。しかしクリスマス・イヴの夜、そんな1人に教会で会ってしまった。彼女はちょっときまりが悪そうに、でもきっぱりと「クリスマスは私たちの伝統文化だからね、この時期は特に懐かしくなる」と教えてくれた。牧師さんも「またいつでも来てください。歓迎しますよ」とほほ笑んでいる。分厚い壁に囲まれた教会での礼拝は、風にさらされることのない分、屋外の冬至の祝祭よりは心地よく過ごせた。

けれど、思うのだ。何時間も立ったまま、寒さにさらされる経験をすると、身体が春の兆しに敏感になり始める。庭のサザンカの小さなつぼみに気付いたり、冷たい風の中に一筋の暖かな空気を感じたり、山の向こうにほのかに明るく柔らかい光を見つけたり。ペイガンたちの暦に身を委ねていると、季節の移り変わりをより鮮明に感じられるようになる気がする。

日が暮れるのが早くなってきた。今年、一番長い夜が、もうすぐやってくる。