民具に内在する人の知恵
民具とは、日常生活における諸要求にもとづいてつくられ、長いあいだ使用されてきた造形物である。また、民具は、特定の設計者が考案するのではなく、人びとのくらしの場において理にかなった造形として生み出されてきたものであり、理にかなった造形としての美しさが宿っている。そして、その造形は、日常の社会生活の変化に応じながら、しなやかに変化し、使われてきた。
博物館に所蔵される民具は、研究者が旅をし、さまざまな地域の生活文化と出会いながら収集されたものである。そして、個々の地域で収集された民具が博物館で出会うことで、多様な地域で育まれた生活文化を表象するコレクションへと発展する。このようにコレクション化された民具は、現代社会では、過去の生活を知る資料として位置づけられる。しかし、それだけではない。ひとつひとつの民具の造形を見つめ直すと、人びとがこれまで日常のくらしのなかで育んできた自然観や世界観を同じ目線で再考することができる。
みんぱく創設50周年記念特別展「民具のミカタ博覧会―見つけて、みつめて、知恵の素」は、研究者が日本や海外を旅してコレクション化した民具として、民俗学者である宮本常一が収集した資料をはじめとする武蔵野美術大学所蔵の民俗資料(ムサビコレクション)と70年万博のためにEEM調査団 が収集した資料を中心とする国立民族学博物館が所蔵する民族資料(Expo’70コレクション)に焦点を当てた。そして、これらのコレクションが民博で出会うことで、国内外の民具が持つ豊かな造形の発想に新たな価値を見いだし、生活文化が持つ意味について考えることを展示の目的とした。
本展示では、これまでの民具学、民俗学、民族学によって得られた知見を生かしつつ、新たに「くらしの造形資料」としての民具の意義を来館者の皆さんと考えてみたい。ご自身の気に入った民具を「見つけて」、じっくり「見つめて」、民具に内在している「知恵の素」を探し出していただきたい。
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みんぱく創設50周年記念特別展「民具のミカタ博覧会―見つけて、みつめて、知恵の素」