民具のミカタ 地域のくらし 一端を反映
2025年3月3日刊行
日髙真吾(国立民族学博物館教授)
民具とは、「我々の同胞が日常生活の必要から技術的につくりだした身辺卑近の道具」と定義づけられた学術用語である。また、このように定義づけたのは、今、1万円札紙幣の肖像に選ばれている渋沢栄一の孫で、戦後、幣原喜重郎内閣で大蔵大臣を務めた渋沢敬三である。
さて、学術用語である民具は、学術資料として、渋沢敬三が主宰するアチック・ミューゼアム(現・日本常民文化研究所)で研究が行われ、民具学という学問体系に発展し、日本民具学会の創設につながった。さらに、こうした研究活動において民具は、文化財保護法の中で「国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」とする「民俗文化財」のひとつに位置づけられている。

(上から)ウガンダと日本の鎌=国立民族学博物館所蔵
このように私たちの日常の生活文化を知ることができる民具は、博物館、中でも歴史系、民俗系の博物館において、「昔のくらし」をテーマとした展示で見ることができる。一方、こうした展示を行っている博物館では、展示している民具の何倍もの民具を大量に収蔵している。
さて、博物館で収集される民具は「同様で同等」の文化財群となっていることが特徴といえる。なぜ、「同様で同等」の民具が、大量に収集されるのか。それは、生活文化の推移を理解するためには、「同様で同等」のものが大量にあってこそ、日常のくらしの文化を示す証となるからである。しかし、一見、確かに似ているものがたくさんあるように見える民具だが、それらを並べて丁寧に見てみると、使用された地域、使用者によって、少しずつ形状が違うことに気づく。
例えば、ウガンダと日本の鎌。農地に繫茂する雑草の草刈りは、どの国でも必要な農作業であり、その道具である鎌は、全世界で見ることができる。これらの鎌を見てみると、ウガンダの鎌はS字状、日本の鎌は三日月状の刃先を持つ。この形状の違いは、なぜ生まれるのか。私なりに考えてみると、S字状の鎌は、片手で鎌を振り下ろしながら、大量の草を刈り取るため、コンパクトな構造にしつつ、可能な限り刃先を長くすることに成功した形状、三日月状の刃先は、片手でつかんだ草の束を一気に刈り取るために、手のひらにつかんだ草の束に適した刃先の形状となっていると見立てた。このように、民具を知ることで、いろいろな地域の生活文化の一端を知ることができるのだ。
みんぱくでは創設50周年記念特別展「民具のミカタ博覧会―見つけて、みつめて、知恵の素」を3月20日から開催する。この展示では、国内外の民具をさまざまな見方、観方、視方から、デザインとしての面白さ、機能性の素晴らしさなどを紹介する。そこで、展示のタイトルを「ミカタ」と表記した。ぜひ、日常のくらしの文化から生み出された民具に込められている知恵の素を探っていただきたい。