マダガスカルのタマリンド 森と人々の関係を読み解く
2025年5月5日刊行
市野進一郎(国立民族学博物館特任助教)
2024年10月にアフリカのマダガスカル西部でタマリンドを探す旅をした。タマリンドとは熱帯地域にみられる果樹で、タイやインドでは甘酸っぱい果実をカレーなどの調味料に使う。味もおいしいのだが、知れば知るほど興味深い植物なのだ。
調査では、バオバブの並木で有名な観光地ムルンダバの近くにあるキリンディ森林と周辺の村々を訪れ、タマリンドを探した。直径1.5mを超える大木は森ではなく、村にあった。村には多くのタマリンドが生えており、たいてい樹皮がはがされていた。細かくすりつぶして、女性が顔につける日焼け止めにするのだという。ムルンダバの市場には、バオバブと並んでタマリンドの果実が売られていた。どちらも煮込んでジュースにする。

市場で売られているタマリンドの実
=マダガスカルのムルンダバで2024年10月、筆者撮影
森での調査は地味で単調だった。細かく区切られた観察路をひたすら歩いてタマリンドの有無を確認するのだ。南半球の夏を目前に日中の気温が40度に達する中、市場で買ったタマリンドを煮込んで冷凍庫で凍らせたジュースは、適度な甘さと強い酸味が絶妙で、予想をはるかに超えるおいしさであった。
タマリンドジュースに助けられ、8日間歩き続けた結果、森の中のタマリンドは川沿いの一部にだけ集中的に生えているとわかった。そうしたところにはなぜか竹が生えていた。文献を調べると、キリンディの竹は川沿いでも定期的に氾濫する箇所に生えるらしい。これにより、タマリンドの理解も深まった。
そもそも私がタマリンドと関わりを持ったのは、27年前から研究を続けるマダガスカル南部のワオキツネザルがきっかけである。調査を行っているベレンティ保護区はタマリンドが優占する河畔林で、そこに生育する大木の多くはタマリンドである。タマリンドは他の果実が乏しい乾期に大量に結実することから、ワオキツネザルの主要な食物となっている。逆に、タマリンドの種子を破壊せずに散布してくれる動物はマダガスカル南部でワオキツネザルだけらしい。つまり、この二者はお互いに利益のある関係を築いている。
興味深いのは、こうした関係が地域の人々によって守られてきたことである。地酒や薬の材料、日陰樹になるタマリンドは、伐採が禁止されてきた。干ばつの年にも大量の果実をつけるため、この地域で命をつないでくれる救荒食にもなっている。それに対して、キツネザルは人々にとってファディ(禁忌)の対象であり、殺したり、食べたりされない。このことが結果としてタマリンドの更新を促す。
マダガスカルに限らず、森林減少が著しい場所では、地域の人々が森の破壊者とみなされやすい。しかし、実際にはそれぞれの森と人々の間には様々な関係が築かれている。こうした関係を読み解くことが森を守ることにもつながるはずである。