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中央アジア 春を祝う心 多民族の祝祭 ノウルーズ

2026年1月5日刊行
藤本透子(国立民族学博物館准教授)

中央アジア、カザフスタン北部の村で、冬を越したことがある。氷点下40度近くに達する厳しい寒さも、春分になるとようやくゆるみ、まだ雪が残るなか明るい日の光が差し始める。その頃に行われるのが、ノウルーズ(カザフ語でナウルズ)の祝祭だ。春分は自然が再生する時とみなされ、家でも学校でも役場でも、祝いの準備がいそいそと進められる。

ノウルーズは古代イランの太陽暦に由来し、「新しい日」を意味する。もとはゾロアスター教に関わる新年の祝祭だったが、イスラムを受容した後も、西アジアから中央アジアにかけての広い地域で行われ続けた。とはいえ、中央アジアがソ連の一部であった時期には、村落部などでひっそりと行われるに過ぎなかった。1991年にソ連から独立した中央アジア諸国は、ノウルーズを伝統的な新年として祝日に定めた。古い由来をもつ新年を今の人たちがどのような思いで祝っているのかを知りたく、私はたびたび春分に現地を訪れた。

春分に食べるナウルズ・コジェ=カザフスタンで2015年3月、筆者撮影
春分に食べるナウルズ・コジェ
=カザフスタンで2015年3月、筆者撮影

カザフスタンでこの祝祭に欠かせないのが、ナウルズ・コジェという食べ物だ。コジェは穀物入りの汁を指し、ノウルーズには特別に7種の食材で作る。牧畜が盛んな地域にふさわしく、冬のあいだ保存していた肉をまず大鍋でゆでる。キビや麦、米を加えて煮て冷ます。そこに、春に搾乳を開始して作ったヨーグルトなどの乳製品を混ぜる。干しぶどうを加えることもある。たくさん作ってみんなで食べると、その年は豊かに過ごせるという。

屋外には天幕が設営され、子どもたちが色とりどりの民族衣装を着て、歌や踊り、劇などを披露する。年配の人たちは、子どもたちに祝福の言葉を与える。プロの音楽家たちによって、声楽や弦楽器などのコンサートが行われることも多い。

イラン系の文化に由来するノウルーズは、テュルク系民族であるカザフ人のあいだに定着し、今では伝統として祝われるようになっている。さらに、カザフスタンにはカザフ人だけでなく多くの民族が暮らす。ある学校を訪れると、さまざまな民族の踊りや歌や料理が、ノウルーズの祝祭で紹介されていた。

昼と夜が等しい長さになる春分には、すべての人が等しい存在として分け隔てなくノウルーズを祝うことが大切だ。カザフスタンでお世話になった方からそう聞いたことが心に残る。分け隔てなく春を祝うからこそ、この祝祭は広い地域の人びとに受け入れられてきたのだろう。

今年3月に国立民族学博物館で開幕する特別展「シルクロードの商人(あきんど)語り―サマルカンドの遺跡とユーラシア交流―」では、中央アジアにおける人の接触と交流を描きだす。各地のノウルーズに関する展示も準備中なので、ぜひご覧いただければと思う。

関連ウェブサイト

特別展「シルクロードの商⼈(あきんど)語り―サマルカンドの遺跡とユーラシア交流―」