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戦争・帝国主義と食の変容――食と国家の関係を再考する

研究期間:2020.10-2023.3

代表者 宇田川妙子

キーワード

戦争、食、国家

目的

現在の食の状況はきわめて複雑で激しい変化にさらされているが、そうした現状につながる重要な歴史的モメントの一つとして、戦争・帝国主義をあげることができる。
そもそも食は国力の基盤である。よって戦争・帝国主義は、国内の食に対してだけでなく、国や地域を越えて食を移動させ変容させる重要なモメントになりうる。本共同研究では、主として、帝国主義的な国家の拡大路線が強まった19世紀末から20世紀半ばの食の変化に着目し、戦争や帝国主義がそれぞれの国・地域の食にどんな変容をもたらし、現在の食のあり方にどう影響を与えているのかを、ヨーロッパとアジアの事例を中心に明らかにする。その変化には、国家だけでなく市民(階層・ジェンダー差等も考慮)、兵士、専門家、市場(闇も含む)、メディアなどの多様なレベルや立場・主体が関与している。ゆえに個々の事例をそれらに留意しながら比較検討することによって、より一般的な意味でも、食の変容メカニズムにかんする試論や論点を提示し、現代社会の食のあり方を再考する一助にしたい。

2021年度

各自の問題意識と研究テーマ・対象について意見交換を行った昨年度の全体会合を基盤として、各自の個別事例にもとづく研究発表を引き続き行っていく。今年度はおもに二つの世界大戦に焦点を当て、アジアとヨーロッパそれぞれの地域を対照させながら議論が出来るような形で研究会を計画する。その際、国家側だけでなく、一般国民側の生活や視点を積極的に導入し、その視点の重要性・有効性をどう活かすかについて議論を深めていくことにする。個別研究発表としては6名前後を計画している。また、最終年度に向けた論点整理のため、全体討論を積極的に設け、戦争と食との関わりにかんする議論の広がりを探っていきたい。なかでも、戦争時の食のあり方がその後の現代社会にどう影響しているのかについて考察していく。

【館内研究員】 諸昭喜、野林厚志
【館外研究員】 井坂理穂、石田憲、小田なら、秦泉寺友紀、新田万里江、林史樹、藤原辰史、牧みぎわ、劉征宇、林淑美
研究会
2021年5月15日(土)10:00~12:00(ウェブ開催)
林淑美(京都大学国際高等教育院)「カムチャッカ産の塩マスを好んだ台湾の⼈びと――⽇露戦争が変えた⽇常の⾷事――」
2021年9月13日(月)13:30~16:30(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
井坂理穂(東京大学)「植民地期インドにおける飲酒とナショナリズム」
今回の発表に関するディスカッション
これまでの研究に関する中間ディスカッション
2021年10月2日(土)13:30~16:30(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
牧みぎわ(桃山学院大学)「両大戦間期イタリアにおける小麦の品種改良――「小麦戦争」の遺産と20世紀の育種」
今回の発表に関するディスカッション
これまでの研究に関する中間ディスカッション
2022年1月7日(金)13:30~15:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
諸昭喜(国立民族学博物館)「”給⾷がパンでごめんね”―朝鮮戦争後の⼩⻨補給と⼩⻨粉に対する認識」
2022年1月29日(土)13:30~15:30(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
林史樹(国立民族学博物館)「朝鮮における洋食の浸透とフランス料理の普及~食を通してみる国家の覇権争い」
2022年3月7日(月)13:30~15:30(ウェブ開催)
石田憲(千葉大学)「戦争と食をめぐる断章取義――地中海における本国・植民地、中心・周辺の視座から」


2020年度

初年度(2020年度)は少なくとも2回の研究会を実施する予定である。採択後、早期に初回研究会を開催し、代表者が本研究の趣旨と研究の大筋を提示しながら研究会の具体的な進め方について検討する。そして以降、その議論に沿って、3年度目前半までメンバーによる報告と議論を行っていくことにするが、そのうち初年度は、とくに概論的なテーマにかんして、メンバーによる発表を行う予定である。

【館内研究員】 諸昭喜、野林厚志
【館外研究員】 井坂理穂、石田憲、小田なら、秦泉寺友紀、新田万里江、林史樹、藤原辰史、牧みぎわ、劉征宇、林淑美
研究会
2020年11月14日(土)13:30~17:00(ウェブ会議)
宇田川妙子(国立民族学博物館)「「戦争と食」研究の趣旨説明」
全員・各自の研究構想
2020年11月28日(土)10:00~12:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
藤原辰史(京都大学)「第一次世界大戦期の飢餓体験とナチス/ドイツおよび帝国日本」
全体討議
2021年3月6日(土)10:00~12:00(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ会議併用)
劉征宇(国立民族学博物館)「毛沢東時代の中国における戦争、統制経済と食生活――朝鮮戦争以降の天津都市部を事例に」
研究成果

1回目の研究会で、代表者による趣旨説明を行うとともに各メンバーが研究テーマ・対象を提示することによって、共同研究全体の問題意識の共有と戦争と食というテーマにかんして想定される論点について議論をおこなった。以降はメンバーの研究発表を2回開催し、ドイツと中国の事例にかんする議論を行った。前者は、世界大戦という規模も史的インパクトも大きな戦争について、しかも帝国ナチス・ドイツの側による食の統制や殖民等にかんする総括的な発表であり、食と戦争を一般的に考える上でのモデルの一つを提供するものとなった。後者は、打って変わって世界大戦後の冷戦期の中国に着目し、さらには都市部の生活をミクロな視点から叙述・分析した発表であり、戦争・帝国主義と食にかんする多様な事例の比較検討の必要性が浮き彫りになった。その一方で、食の生産や流通にかかわる具体的で詳細な視点の必要性(たとえば戦時における肥料などの輸出入など)、食の調理・消費にかかわる女性やジェンダーという視点の必要性、農学などの専門家や思想の影響、子どもの食への着目、戦争の記憶の影響など、共通して論じることのできる論点も具体的に出てきている。