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不確実性のなかでオルタナティヴなコミュニティを問う――モノ、制度、身体のからみあい

研究期間:2020.10-2024.3

代表者 森明子

キーワード

生政治、人間-非人間関係、ケア

目的

グローバル化がすすむ世界において、他者とのあいだはどのように媒介されるのか。本研究は、施設や建築物などのモノや制度と人間の身体がどのようにからみあい、そこでどのような調整がおこなわれているのかを、民族誌研究のアプローチから描き出す。たとえば移民や難民、老者や病者の身体を受け入れ/収容する制度や施設が創出されると、つくられた制度や施設は、人間の身体を介した相互行為に変更を迫り、周辺にいる人々や、そこにある別の制度や施設にも影響を与える。制度からはみ出そうとする身体があれば、さらなる制度の組み換えや新たな創出もおこる。こうして、目の前の他者との生身の身体を介したやりとりから、モノと制度と身体がおりなすセッティングの調整と再編がくりかえされることになる。ここでは身体性をともなう関係性を場所という視点からとらえていく。状況に応じて調整される場所のセッティングの先に、21世紀にあらわれつつある社会のあり方を見通そうとする。

2023年度

本年度は、研究の最終段階として、2回の研究会を開催し、研究の総括と、成果刊行についての具体的な議論を行うことを主眼とする。前年度までの議論において、本研究の成果刊行としては、ドリーン・マッシーの「ともに投げ込まれている」と、「からみあい/からまりあい/からまりしろ」という思考のもとに論文集をまとめあげていこうという方向性ががうがびあがってきた。本年度は、これらの思考を、より精緻化して、成果論文集の軸として鍛えあげていくこと。また、この思考に投影しようとしている問題関心を、メンバーそれぞれの論文記述と結んで、論文集のなかにどのように配置するか、議論をとおして着地点を見出すことを課題とする。ドラフトを含めた議論を展開することを予定する。

【館内研究員】 中川理、奈良雅史、松尾瑞穂、三尾稔
【館外研究員】 猪瀬浩平、長坂格、中村沙絵、難波美芸、浜田明範、古川不可知、松島健
研究会
2023年10月21日(土 )13 :00~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
中村沙絵(東京大学)「成果出版にむけて キーワード」
浜田明範(東京大学)「成果出版にむけて キーワード」
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「成果出版にむけて キーワード」
難波美芸(鹿児島大学)「成果出版にむけて キーワード」
討論
2023年10月22日(日)9:30~13:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
猪瀬浩平(明治学院大学)「成果出版にむけて キーワード」
奈良雅史(国立民族学博物館)「成果出版にむけて キーワード」
討論
2023年11月11日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
長坂格(広島大学)「成果出版にむけて キーワード」
松嶋健(広島大学)「成果出版にむけて キーワード」
古川不可知(九州大学)「成果出版にむけて キーワード」
討論
2023年11月12日(日)9:30~13:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
中川理(国立民族学博物館)「成果出版にむけて キーワード」
森明子(国立民族学博物館)「成果出版にむけて キーワード」
討論


2022年度

最終年度に当たる本年度は、成果刊行を射程に入れた議論を行うことを主眼とする。そのため、一定の期間をおいて合計4回の研究会を開催する予定である。議論の中心になるのは、鍵となる概念についてメンバー間で精緻化をはかっていくことで、当面は、これまでおこなってきた議論をふまえて、現代世界の民族誌記述として「空間」をいかにとらえるかに焦点をあてる。この理論的な問いを、具体的な記述と接合し、実際にモノ・制度・身体のからみあいについての記述の中で展開させていくことが課題となる。換言すれば、現代世界の民族誌研究として、オルタナティヴなコミュニティのあり方を、空間への視座から論じていく方途を探ろうとする。その思考と試行の過程を、論集として提示していくことをめざし、具体的な構想にしていくことが、本年度の研究の要諦である。

【館内研究員】 中川理、奈良雅史、松尾瑞穂、三尾稔
【館外研究員】 猪瀬浩平、長坂格、中村沙絵、難波美芸、浜田明範、古川不可知、松島健
研究会
2022年5月15日(日)13:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
浜田明範(東京大学)「人類学における多元概念の展開について」
森明子(国立民族学博物館)「社会的なものを考える空間的な視座について」
討論
2022年7月9日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
中村沙絵(東京大学)「成果出版 仮題と概要」
古川不可知(九州大学)「成果出版 仮題と概要」
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「成果出版 仮題と概要」
猪瀬浩平(明治学院大学)「成果出版 仮題と概要」
難波美芸(鹿児島大学)「成果出版 仮題と概要」
奈良雅史(国立民族学博物館)「成果出版 仮題と概要」
長坂格(広島大学)「成果出版 仮題と概要」
討論
2022年7月10日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
中川理(国立民族学博物館)「成果出版 仮題と概要」
松嶋健(広島大学)「成果出版 仮題と概要」
浜田明範(東京大学)「成果出版 仮題と概要」
森明子(国立民族学博物館)「成果出版 仮題と概要」
討論
2022年10月15日(土)15:00~18:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
森明子(国立民族学博物館)「成果刊行 全体構成について」
全員 討論
2022年10月16日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 大演習室)
平田晃久(京都大学・平田晃久建築設計事務所) “Human / Nature”
全員 質疑応答
2023年2月18日(土)16:30~18:30(ウェブ開催)
全員「成果刊行 からまりあいをめぐって」
研究成果

本年度は、成果刊行に向けた議論をおこなうことを目的として、WEB開催併用を含めて4回の研究会を開催した。まず、メンバー全員が各自の執筆論文について、仮題と概要を発表し、それぞれの扱うデータと論点をだしあった。つづいて、これらの論文を収録する論集について、各論文のテーマを収斂するに足る「ことば」は何かを探りつつ、論集のタイトルと構成について議論した。あわせて、各自の論点を精緻化していった。こうした議論の中から、メンバー全員に関わる参照点として、「ともに投げ込まれる」と「からみあい/からまりあい」がうかびあがってきた。前者は、地理学者であるD.マッシー、後者は建築家でもある平田晃久が提唱する考え方である。本年度の後半の議論では、平田氏を特別講師に迎えて、「からみあい/からまりあい」をめぐる議論を深化させ、さらに論集にこれを具体化していく方途についての議論を展開した。

2021年度

2021年度の研究会は、年度内に、1泊2日の対面研究会を4回開催することを基本の型として措定する。ただし、実際の運営は新型コロナウィルス感染拡大防止対策により、WEB開催を組み込みながら開催する。ウェブ開催による研究会運営については、初年度の経験から、その長所と短所をある程度把握したので、2年目の運営に生かしていく。
初年度(2020年度)、導入の後に開始した議論を、2年目の本年度もひきつづき行なう。それは、場所という視座から、モノ、制度、身体のからみあいを捉えて、オルタナティヴな社会のあり方を問うと、各メンバーがこれまで行ってきた研究は、どう見えてくるのか、というテーマをめぐる議論である。本年度は、さらに、こうして重ねてきた議論から浮かび上がってきた論点を整理し、現代世界の民族誌研究の方法として討議する段階へと展開することをめざす。

【館内研究員】 奈良雅史、松尾瑞穂、三尾稔、中川理
【館外研究員】 猪瀬浩平、長坂格、中村沙絵、難波美芸、浜田明範、古川不可知、松島健
研究会
2021年4月24日(土)13:30~17:00(ウェブ開催)
古川不可知(九州大学)「道という空間、歩くことの共同性――ネパール・ヒマラヤの山岳観光におけるモノ・制度・身体の偶然的な出会いについて」
全員 質疑応答
2021年5月15日(土)13:30~17:00(ウェブ開催)
難波美芸(鹿児島大学)「『実験場』としてのラオス・ルアンパバーン世界遺産登録地区――新たなインフラの導入と制度化」
全員 質疑応答
2021年6月19日(土)13:30~17:00(ウェブ開催)
奈良雅史(国立民族学博物館)「排他がもたらす連帯――中国都市部におけるムスリム・コミュニティの変容」
全員 質疑応答
2021年7月10日(土)10:00~17:00(ウェブ開催)
長坂格(広島大学)「濃密なコミュニティの模索――イタリアとイギリスのフィリピン系移住者が形成する二つのコミュニティ」
全員 質疑応答
三尾稔(国立民族学博物館)「宗教的空間が生みだす多次元的な関わり合い――インド西部の地方都市の事例から」
全員 質疑応答
2021年7月11日(日)10:00~13:00(ウェブ開催)
中川理(国立民族学博物館)「周縁の生産性――フランスのモン難民が市場と出会うとき」
全員 質疑応答
2021年8月5日(木)10:00~13:00(ウェブ開催)
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「インドのバラモン・都市中間層にみるサマージ(社会的なもの)の変化」
全員 質疑応答
2021年8月31日(火)10:00~13:00(ウェブ開催)
浜田明範(関西大学)「つるすこと、住まうこと、刈ること――ガーナ南部におけるマラリアの空間」
全員 質疑応答
2021年9月2日(木)10:00~13:00(ウェブ開催)
森明子(国立民族学博物館)「難民割り当てというできごと――社会的なもののサイトについて」
全員 質疑応答
2021年12月11日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
中村沙絵(東京大学)「隙間だらけの家で暮らす身構え」
古川不可知(九州大学)「「戸外にあること」の共同性をめぐる試論――登山とキャンプの比較を手掛かりに」
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「ポスト植民地の白人「混血」家族――スリランカにおけるバーガーを事例に」
討論
2021年12月12日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
猪瀬浩平(明治学院大学)「The changing city, the changing countryside.うつりゆく街、うつりゆく田園」
難波美芸(鹿児島大学)「街と技術のメンテナンス――アネマリー・モルの「ケアのロジック」をヒントに」
討論
2022年1月29日(土)13:00~17:30(ウェブ開催)
奈良雅史(国立民族学博物館)「コミュニティの再生産といくつかのモビリティ:台湾におけるムスリムの事例から」
長坂格(広島大学)「フィリピン系移住者にとっての家族――性的少数者についての民族誌の読解」
三尾稔(国立民族学博物館)「宗教的空間で「共に在る」ということ――インドのスーフィー聖者廟で考える」
小括
2022年1月30日(日)10:00~13:00(ウェブ開催)
中川理(国立民族学博物館)「自由を可能にするもの:忘却・コミュニズム・重層性」
松嶋健(広島大学)「何がオルタナティヴなコミュニティを構成するのか」
小括
研究成果

2年目は9回(12日)の研究会を開催し(うち2日はWEB併用、それ以外はWEB開催)、19の研究発表をめぐって議論を重ねた。議論を収斂させることよりも、広く展開することや、より深化をはかることに重きをおいた。議論は多岐にわたったが、そのなかで繰り返しあらわれた論点として、以下の4点をあげておく。第一に、不確実な異種混淆性から生み出される共同性に注目しようとするとき、異種混淆性をどのようにとらえるか。第二に、場所がモノ・身体・制度のからまりあいを媒介する局面に注目しようとするとき、その場所をとらえる視点とはどのようなものであるか。第三に、周縁的なものからオルタナティヴなコミュニティをとらえていこうとするとき、周縁的な集合性とより大きなものの接合を、どこからとらえていくか。第四に、人間と人間以上のものとの関わりから空間をとらえていく方途はどのようなもので、そこからどのような可能性が開かれるか。現地調査ができない状況のなかで、調査データを読み直し、課題を問い直す議論をつづけた。

2020年度

2020年度の研究会は、新型コロナウィルス感染拡大防止に関わる対応のためウェブ開催を前提とし(集合開催の可能性も含む)、4回の研究会を開催する予定である。ウェブ上での研究会運営のあり方を模索しながらすすめる。初年度の議論は、場所の生態学的アプローチの可能性を検討することからはじめる。「場所」「制度」「インフラ」「生態学的」などの鍵概念をどうとらえるか、その実践にむけてどのような概念整理が必要かなどをめぐって議論する。さらにこれらの鍵概念は、メンバー各自がこれまで行ってきた民族誌研究の文脈で、どのように配置されるか、近年の人類学および関連分野での研究成果も考慮しながら、意見交換していく。こうした議論を通して、共同研究のテーマ、パースペクティヴについて、メンバーが共有するイメージを構築することを、初年度の目標とする。

【館内研究員】 奈良雅史、松尾瑞穂、三尾稔
【館外研究員】 猪瀬浩平、長坂格、中村沙絵、難波美芸、浜田明範、古川不可知、松島健
研究会
2020年11月14日(土)13:30~17:00(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ会議併用)
森明子(国立民族学博物館)「共同研究の趣旨について」
全員「共同研究のテーマをめぐって」
2020年12月6日(日)13:30~17:00(ウェブ会議)
中村沙絵(京都大学)「コプルストン・ハウスから始まる物語――スリランカの老人施設にみる〈場所〉と異質なものたちがつくる世界」
全員 質疑応答
2021年1月30日(土)13:30~17:00(ウェブ会議)
猪瀬浩平(明治学院大学)「緊急事態宣言下でもやって来る人達――日本のグループ農園におけるモノ、制度、身体のからみあい」
全員 質疑応答
2021年2月20日(土)13:30~17:00(ウェブ会議)
松島健(広島大学)「ケアの場所、場所のケア――イタリアにおける精神医療と精神保健」
全員 質疑応答
研究成果

初年度は、4回の研究会を開催した(初回はWEB併用、それ以後はWEB開催)。
第1回研究会では、本共同研究の目的および射程について、代表者(森明子)が基調報告を行い、場所という視座を共有して議論をスタートすることを提案した。次いで、共同研究会メンバー各々が、問題関心や研究主題について簡潔な報告を行い、相互批評のうえで総合討論を行った。第2回研究会では中村沙絵が、スリランカの老人施設について、場所、空間性、建築環境という視座から報告した。第3回研究会では、猪瀬浩平が、新型コロナウィルスがもたらすパンデミックの状況下の生のからまりについて、グループ農園という場所からとらえる報告を行った。第4回研究会では、松嶋健がイタリアの精神医療の脱施設化を、場所の履歴という視点から報告した。毎回の報告ののちに、生の諸側面のからまりやあらわれをどうとらえて記述するかについて、参加者全員が討論を行った。新型コロナウィルス対応のため、ほぼ毎月1回、1報告について全員で議論することを定型化して、初年度の研究会を運営した。