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データベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」の国際化と学際研究の展開

研究期間:2020.4-2022.3 / 強化型プロジェクト(2年以内)

池谷和信

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

 以下のような2つの目的がある。第一は、現在、民博で公開されているデータベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」(和文)の英語版を作成し、英語圏を中心にして国際的に発信すること。第二は、佐々木高明氏の調査した東アジア、東南アジア、南アジアの写真資料を現在のデータベース(日本列島の焼畑)に加えることをとおして、佐々木高明氏のみた焼畑の世界をモンスーンアジア地域に拡張して、焼き畑の民族学・文化地理学を中心とした学際研究を展開すること。

プロジェクトの内容

これまで、日本の焼畑については、近世史、日本民俗学、人文地理学を中心にして数多くの研究がみられるが、そのほとんどは日本語の論文であり英語によって公開された論文がほとんどない。この結果、世界的にみると過去から現在にいたる日本文化のなかで日本の焼き畑の状況が論議になることはほとんどなかった。しかしながら、世界的な視点からみると日本の焼き畑は寒冷帯(「北の焼畑」)から亜熱帯(「南の焼畑」)までの多様性のあるユニークなものであり、その起源や伝播普及の方法も明らかになっていない興味深い研究テーマである。
今回は、九州地方を中心として日本の焼畑地の選択方法、焼畑の技術、土地利用、焼畑で作られる栽培植物の種類など、近現代における焼畑文化の実態が英語によりはじめて紹介される。同時に、アジア(とくに東南アジア)の焼き畑を知ることから日本のそれの地域的特性を把握することが可能になるであろう。

期待される成果

 以下の3点が挙げられる。これまで国内で国際発信の弱かった焼畑農耕の民族学的研究(例:約100冊のSESのなかで、焼畑論集が刊行されていない)を①英語圏中心にして世界に発信することができる。同時に、日本列島内の山の暮らしの詳細を知ることから、平地とは異なる②新たな日本文化論を展開することができる。さらに、近年、循環型農耕として自然にやさしい焼畑が、とくに国内において広く注目されている。これらの焼畑に関する知恵(在来知)は、③温帯山地や熱帯低地の森林地帯を中心にして全地球の持続的資源利用のあり方を考える際にヒントを与え、日本の人文学の社会的な価値を高めることになるであろう。

2021年度成果

1. 今年度の研究実施状況

1-1.今年度における学術研究の展開について、①研究会での報告、②論文刊行、②展示会の開催
の3点から紹介する。
① 2021年11月20日に佐々木高明の中心的な調査地である五木村にて講演会(テーマ「狩猟と焼
畑と現代文明」)において研究報告をした。同時に、多様な分野の研究者による報告を聞いて、地域の人々との議論を進めた。また、2022年3月19日に開催予定の民博ゼミナールにて今回の成果を報告する予定である。
②焼畑をめぐる人類文明論について、季刊民族学177号の特集「焼畑と文明-五木村から世界へ」のなかで論議した。その内容は、焼畑の歴史、世界の焼畑、焼き畑と現代社会の3部から構成される。
③2022年3月10日から6月7日にかけて国立民族学博物館にて佐々木高明の調査をした五木村と
の共催で企画展示『焼畑―佐々木高明の見た五木村そして世界へ-』を実施する予定である。展示の開催中、シンポジウムやウィークエンドサロン、講演会等を実施し、研究者や来館の人々とのあいだで意見交換を行う。
 以上のように本研究プロジェクトでは、佐々木高明のみた焼畑の世界を日本列島のみならずモンスーンアジア地域に拡張して、焼畑の民族学・文化地理学を中心とした学術研究が展開された。

1-2. プロジェクトの内容
 これまで、日本列島における焼畑については、近世史や農業史、日本民俗学、人文地理学や歴史地理学、民族学、農学などを中心にして戦前から数多くの研究がみられるが、その大部分は日本語の論文であり英語によって公開された論文がほとんどみられない。同時に、日本の焼畑の実態を時代や地域を明確にして分野を超えて展望するような研究が生まれていない。このため、現在でも焼畑が行われている湿潤熱帯を中心とした世界の焼畑研究に対して日本列島の事例からの貢献がほとんどないのが現状である。
 しかしながら、世界的な視点からみると日本の焼畑は寒冷帯(「北の焼畑」)と熱帯・亜熱帯(「南の焼畑」)の焼畑で栽培されてきた多様な作物が含まれているなど、その多様性の起源や伝播普及の過程は十分に明らかになっていない。そして、現在の日本において「焼畑サミット」が開催されたり焼畑の再生がみられるなど、地球環境のなかでの持続可能な資源利用が求められるなかで、焼畑は「自然にやさしい循環的な農耕である」ことが注目されている。
 本プロジェクトでは、日本の九州地方を中心として焼畑地の選択方法、焼畑の技術、土地利用、焼畑で作られる栽培植物の種類などを中心としながらも近現代における焼畑文化複合の変遷を総合的に把握することがねらいである。このためには、データベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」の写真類の利用を中心にして地元の人々への研究成果の還元を考慮しながら新たな焼畑像を構築することがねらいである。同時に、東南アジアや南アジアの焼畑を知ることから日本のそれの地域的特性を把握することも目的とする。

1-3. 期待される成果
 以下の3点が挙げられる。まず、日本列島内の山の暮らしの詳細を知ることから、平地とは異なる新たな日本文化論を展開することができる。つぎに、近年、循環型農耕として自然にやさしい焼畑が、とくに日本国内において広く注目されている。これらの焼畑に関する知恵(在来知)は、温帯山地や熱帯低地の森林地帯を中心にして全地球の持続的資源利用のあり方を考える際にヒントを与え、現代社会のなかでの日本の人文学の価値を高めることになるであろう。
最後に、これまでの焼畑研究の成果によって、で国内で国際発信の弱かった焼畑農耕の民族学・地理学的研究(例:現在まで刊行されたSenri Ethnological Studiesのなかで、焼畑論集が刊行されていない)を英語圏中心にして世界に発信するための基盤をつくることができた。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 以下の3点にまとめられる。
1)研究:熊本県五木村の事例を中心にして焼畑農耕の人類史をまとめたことによって、日本における焼畑の歴史についての新たな枠組みを提示できた。同時に、日本の焼畑文化は、世界のなかでも栽培技術がユニークなものであることを明らかにした。例えば、日本の焼畑の形成・展開・衰退についてのモデルを構築することが世界の研究に貢献することになるであろう。
2)展示とネットワーク構築:かつて焼畑が基本の生業であった村との協同による展示の準備の過程で新たな焼畑資料を集めることができた。また、学校教育における日本の歴史の時代区分が村の歴史にあわないという実態、焼畑で栽培された在来品種の小規模な商品化など焼畑を見直す動きが地元の中学校で教えられた。2021年3月下旬に消滅していた村の焼畑が復活する動きとして結実している。
3)データベース:現在、公開されているデータベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」の写真キャプションほかに展示を観覧していた住民から間違いが指摘された。また、焼畑に関する物質文化の一部を地元の博物館が収集することをサポートした。それにともない、ものづくりの技術や知識を基礎資料として整備することができた。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

・“Ethnoarchaeology of Introducing Agriculture and Social Continuity among Sedentarised Hunter–Gatherers: The Transition from the Jomon to the Yayoi Period”Quaternary 2021;4:3-28
・Pei-Lin Yu, Kazunobu Ikeya and Meng Zhang. “Introduction: New Discoveries and Theoretical Implications for the Last Foraging and First Farming in East Asia” Quaternary 2021;4:4-37
・「国立民族学博物館・五木村共催展示 佐々木高明の見た焼畑ー五木村から世界へー 報告書」 国立民族学博物館 2021:(9)
・ 博物館の展示場で生き物文化を考える―ミツバチと人の関係から「 野生性と人類の論理―ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考」 東京大学出版会 2021;65-82
・「佐々木高明の見た焼畑ー五木村から人類史を構想する」 季刊民族学 45(3):4-13
・「焼畑民の心と現代文明」 季刊民族学 45(3):86-87
・「全体総括」 国立民族学博物館・五木村共催展示 佐々木高明の見た焼畑ー五木村から世界へー 報告書 :121-122
・「佐々木高明の見た日本」 月刊みんぱく 46(2):2-3

2020年度成果

1. 今年度の研究実施状況

・ データベースの国際化
今年度は、現在、民博で公開されているデータベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」(和文)の日本語部分の英訳をして英語版を作成した。今後、個々の内容を精査して一般公開を進めていく予定である。
・ 学術研究の展開
以下、①研究報告、②論文刊行、③展示会の開催の3点から紹介する。
① カリフォルニア大学・バークレー校・東アジアセンター主催の国際シンポジウムにて熊本県
五木村の焼畑の変遷に関する研究報告を行った。また、佐々木高明の中心的な調査地である五木村にて5回にわたる研究会(テーマ「焼畑と現代文明」、対象をモンスーンアジア地域に拡張)を開催して、各回において多様な分野の研究者による報告と同時に地域の人々との議論を進めてきた。
② 食と農をめぐる文明論について、池谷編集の本『食の文明論ーホモ・サピエンス史から探る』(農文協)』のなかで論議した。
③ 2020年10月から12月にかけて佐々木高明の調査をした五木村にて特別展示『佐々木高明の見
た焼畑-五木村から世界へー』を実施した。展示の開催中、展示場でのギャラリートークを行って、研究者や地域の人々とのあいだで意見交換を行った。
以上のように本研究プロジェクトでは、佐々木高明のみた焼畑の世界を日本列島のみならずモンスーンアジア地域に拡張して、焼畑の民族学・文化地理学を中心とした学術研究が展開された。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 以下の3点にまとめられる。
1)研究:国際シンポジウムのなかで焼畑の研究報告をしたことによって、世界的にみても焼畑が衰退・消滅している傾向にあることがわかった。同時に、日本の焼畑文化は、世界のなかでも栽培技術ほかかなりユニークなものである可能性が高いという印象を受けた。例えば、日本の焼畑の形成・展開・衰退についてのモデルを構築することが世界の研究に貢献することになるであろう。
2)展示とネットワーク構築:かつて焼畑が基本の生業であった村にて展示の開催中に国内ワークショップを開催したことで、新たなネットワークが形成された。研究者、行政、学校、地域住民である。例えば、学校教育における日本の歴史の時代区分が村の歴史にあわないという実態、焼畑で栽培された在来品種の小規模な商品化など焼畑を見直す動きがみられた。現に、2021年3月下旬に消滅していた村の焼畑が復活する動きとして結実している。
3)データベース:現在、公開されているデータベース「焼畑の世界―佐々木高明のまなざし」の写真キャプションほかに展示を観覧していた住民から間違いが指摘された。また、焼畑に関する物質文化の一部を地元の博物館が収集することをサポートした。それにともない、ものづくりの技術や知識を基礎資料として整備することができた。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

・H. Yatsuka, K. Ikeya, Farming practices among African hunter-gatherers: diversifying without loss of the past, Rethinking African Agriculture: How Non-Agrarian Factors Shape Peasant Livelihoods. Routledge、pp. 49-63、2020年7月21日、ISBN: 9781138610606
・池谷和信, 2021, 「五木村での『佐々木高明の見た焼畑』展」『民博通信Online』167巻、2021年3月31日
・池谷和信, 2020, 「食と農の未来―佐々木高明の見た最後の焼畑」『月刊みんぱく』44巻7号, pp. 6-7、2020年7月1日
・Kazunobu Ikeya, 2020, Slash-and-Burn Cultivation Viewed by SASAKI Komei: From Itsuki Mura to the World, Minpaku Anthropology Newsletter 51: 14、ISSN: 13417959、2020年10月
・Kazunobu Ikeya “Slash-and-burn Agriculture and Millet Cultivation in Postwar Japan” CJS-JSPS Symposium-Agroecology, Sustainable Food Production and Satoyama: Contributions of Japanese Case Studies to the Discussion of Traditional Ecological Knowledge and Environmental Conservation, 主催・場所:Institute of East Asian Studies, University of California, Berkeley(オンライン)、2021年3月19日
・池谷和信編, 2021, 『食の文明論―ホモ・サピエンス史から探る』農山漁村文化協会、2021年3月30日、ISBN: 9784540201080
・池谷和信, 2021, 「地球・食・文明」pp. 9-31、「現代文明と食」pp. 413-422、池谷和信編『食の文明論―ホモ・サピエンス史から探る』農山漁村文化協会、2021年3月30日、ISBN: 9784540201080