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現代アジアにおける生殖テクノロジーと養育――ジェンダーとリプロダクションの学際的比較研究

研究期間:2021.10-2024.3

代表者 白井千晶

キーワード

生殖テクノロジー、ジェンダー、リプロダクション

目的

地球規模で生命の誕生にテクノロジーが用いられる時代が到来し、ローカルな文化はテクノロジーによって変容を余儀なくされている。しかしテクノロジーは無限に欲望を増幅させるだけでなく、ローカルな文化はテクノロジーを制限したり選び取ったりもする。ではアジアはいま、生命のテクノロジーとどのように対峙しているのか。本研究は、現代のアジアにおいて、生殖技術や出生前検査といったリプロダクションに関わる新しいテクノロジーがどのように認識され利用されているか、このテクノロジーと子どもの出生はどのような環境にあるのか。テクノロジーが利用されないときにはどのような仕組みで子どもが養育されるのかを明らかにする。
具体的には、アジア14ヶ国を中心に、不妊治療、体外受精、第三者が関わる生殖技術、NIPTなどの胎児の染色体異常検査、人工妊娠中絶の状況や態度について分析を行い、地域間の差異と共通性を明らかにする。
ローカルな人口増への対処、不妊への対処、予定外の妊娠への対処が、テクノロジーやグローバル化と接することによって変化しているか、その要因やメカニズムを多角的に見いだすことができるだろう。

2023年度

今年度は、書籍の刊行に向けて、テーマの拡大と深化を目指す。新たなテーマとして、会陰切開や会陰保護、性器切除などの対象として注目が集まる「会陰」、月経、授乳、胎盤など、リプロダクションの現象に焦点をあてていく。また、アジア以外の地域の当該現象と比較対照することにより、多面的に捉えていきたいと考えている。年度後半では、それらをふまえて成果の刊行に向けて議論を重ね、ジェンダーとリプロダクションの視点からみた現代アジアにおける生殖テクノロジーと養育の現在を浮き彫りにする方法と構成を検討していく計画である。

【館内研究員】 諸昭喜、松尾瑞穂
【館外研究員】 磯部美里、木村美也子、小浜正子、澤田佳世、嶋澤恭子、菅野摂子、曾璟蕙、二階堂祐子、幅崎麻紀子、洪賢秀、松岡悦子、姚毅
研究会
2023年7月15日(土)13:00~16:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
東南アジアにおける女性器切除:女性の身体とセクシュアリティ(井口由布/立命館アジア太平洋大学)
ケニアにおけるFGM/Cの現状について(宮地歌織/静岡大学)
会陰とは何か:日本におけるMidwifeの「会陰保護術」を中心に(白井千晶/静岡大学)
ディスカッション
2023年10月7日(土)10:00~11:30(ウェブ開催)
研究成果公開に関する報告
各研究員
2023年12月3日(日)13:30~16:30(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
はじめに
「一夫一婦容妾制の形成をめぐる法的諸相」(仮)西田真之(明治学院大学)
「妾と愛人という存在――近代日本の一夫一婦とフェミニズム」石島亜由美鍼灸師(船橋ウィメンズ鍼灸院)
おわりに
2024年1月21日(日)12:30~17:00(国立民族学博物館 第1演習室 ウェブ開催併用)
はじめに
「グローバル化する月経対処の支援とムーブメント」杉田映理さん 大阪大学 人間科学研究科 共生学系 国際協力学
「可視化されていた月経――パプアニューギニアにおける月経対処をめぐるモノと女性の身体――」新本万里子さん 国立民族学博物館外来研究員
「ネパールの月経の今」幅崎麻紀子さん アール医療専門職大学
全体討論、終わりに


2022年度

2021年度は、研究の5本の柱、(1)妊娠・出産、(2)家族計画と中絶、(3)出生前検査と障がい、(4)産後・哺乳、(5)不妊と生殖技術と養子のうち、(1)妊娠・出産、(2)家族計画と中絶について研究会を開催し、研究の知見の共有と議論をすることができた。2022年度は、(3)出生前検査と障がい、(4)産後・哺乳、(5)不妊と生殖技術と養子、の3柱について進め、5本の柱を一巡する計画である。アジアのリプロダクションのありようについて、ミクロレベルの人びとの経験が、グローバル化するマクロな政治経済と文化宗教のかかわりの中でどのように変容しているか、様々なフィールドの専門家からのプレゼンテーションを元に、学際的な参加者と議論を深めていく。具体的に年度当初の養子をテーマにする回では、アジアだけでなくアフリカやミクロネシアの事例も含めながら、共同養育や子どもの移動、排除された子どものコミュニティにおける対処について検討する。次の不妊と生殖技術の回では、中東の事例も含めながら研究する計画である。

【館内研究員】 諸昭喜、松尾瑞穂
【館外研究員】 磯部美里、木村美也子、小浜正子、澤田佳世、嶋澤恭子、菅野摂子、曾璟蕙、二階堂祐子、幅崎麻紀子、洪賢秀、松岡悦子、姚毅
研究会
2022年5月14日(土)10:30~17:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
開会、自己紹介等
磯部美里(国際ファッション専門職大学)「中国タイ族の養取について」
白井千晶(静岡大学)「昭和初期の助産婦の養子仲介にみる危機への対処のありようについて」
有井晴香(北海道教育大学)「エチオピアにおける子どもの生をめぐる選択」
梅津綾子(南山大学人類学研究所)「イスラームと養取―ムスリム・ハウサ社会の「里親養育」から考える」
中谷純江(鹿児島大学)「婚姻と養子からみる親族・交換システムの変容:インド、オセアニア、日本」
全体ディスカッション
今年度および次回の予定
2022年7月3日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
開会、自己紹介等
洪賢秀(明治学院大学研究員)「韓国社会における出生前検査について(仮)」
細谷幸子(国際医療福祉大学)「遺伝性疾患を持つ患者の結婚・妊娠・出産について:イランの事例から(仮)」
村上薫(アジア経済研究所)「「親になって一人前」の社会で起きていること:トルコの事例から(仮)」
全体ディスカッション
次回の予定
2022年9月24日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室 ウェブ開催併用)
姚毅(東京大学)「中国における生殖補助医療規制」
白井千晶(静岡大学)「東・東南・南アジアにおける出生前検査と障害観調査の一次報告概要」
菅野摂子(明治学院大学)「人工妊娠中絶、特に中期中絶の背景と問題性」
木村美也子(聖マリアンナ医科大学)「障がいと共に生きる子どもへの思いと出生前検査:日本の特徴を考える」
今年度後半の研究会計画について
2022年11月27日(日)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室 ウェブ開催併用)
「東アジアの<水子供養>から考える」開会、趣旨説明
鈴木由利子(宮城学院女子大学)「日本における胎児の死にみる生命観――民俗学の視点から」
陳宣聿(大谷大学)「悪霊から我が子へ:台湾の産育習俗と水子供養」
渕上恭子(慶應義塾大学)「『疑似育児』としての『水子供養』――大韓仏教曹渓宗胎児霊駕薦度寺院の取り組み――」
全体ディスカッション、今後の計画、閉会
2023年1月28日(土)13:30~17:00(館外 三重県鳥羽市答志島)
開会 参加者自己紹介
特別講師1 女性からみた寝屋子制度
特別講師2 女性からみた寝屋子制度
特別講師3 寝屋子にならなかった男性から見た寝屋子制度
2023年1月29日(日)9:00~15:00(館外 三重県鳥羽市答志島)
特別講師4 女性からみた寝屋子制度
特別講師5 女性からみた寝屋子制度
特別講師6 女性からみた寝屋子制度
特別講師7 女性からみた寝屋子制度
ディスカッション 閉会
研究成果

本年度は、共同研究の中間年として、共同研究員および特別講師を招聘した研究会を積極的に実施した。具体的には、養取慣行、生殖補助、出生前検査および遺伝、人工妊娠中絶、水子供養、擬制親子・擬制きょうだいおよび若者宿、などをテーマに共同研究会を開催した。
アジアを中心に、中東やアフリカ、オセアニアをフィールドにした研究報告もあった。様々な社会文化的コンテクストにおいて、ミクロ、マクロレベルでのリプロダクションをめぐる慣行とテクノロジーのありようを検討、議論することができた。

2021年度

研究メンバーは代表を含む15名である。うち9名は、2019年度に終了した科研研究「現代アジアのリプロダクションに関する国際比較研究:ジェンダーの視点から」の分担者・連携研究者であり、すでにそれぞれの担当国・地域で調査を完了し、データセットができたところである(白井、小浜、澤田、嶋澤、幅崎、松尾、松岡、洪、姚)。さらに分担者・連携研究者がこれまでアジアのそれぞれのフィールドで収集してきたデータも使用しながら、当該データの分析を進め、議論し、練り上げていくのが本研究会の柱になる。韓国、中国、台湾の産後ケアや医学ヘゲモニーの見地から、諸にも加わってもらった。さらに、本共同研究では、主に2つの分野に研究参加を依頼した。1つは、現在進行中の科研研究、出生前検査と障がいに関する分野である(木村、菅野、二階堂)。もう1つは、養取や共同養育に関する分野である(磯部)。
研究会では、前半の1年半で5回の研究会を開催し、実施した調査、データを分析し、付き合わせていく。後半の1年では3回研究会を開催し、刊行に向けた原稿の検討会をおこなう。
研究会は、(1)妊娠・出産、(2)家族計画と中絶、(3)出生前検査と障がい、(4)産後・哺乳、(5)不妊と生殖技術と養子、という5つの柱を設定している。便宜的に柱を設定したが、養子は中絶と関連し、出生前検査は中絶と関連する。そのように他のセクションと重なりながら議論を深めていくことになるだろう。また、養取と里親、共同養育については、アジア以外の地域の慣行も参考にするため、アフリカ地域とオセアニア地域の養取・里親研究をしている研究者に特別講師を依頼したいと考えている。
本研究では生殖技術、出生前検査、中絶に焦点を当てることによって、排除と包摂、生命や身体への可侵性と不可侵性、排他的親子と複数的親子、の二局が明確になるだろう。これは、ジェンダーやセクシュアリティ、家父長制、国家目標や人口政策、法制度や政治体制、宗教、経済状況や経済戦略など、多様な要素によって変化するもので、アジアのリプロダクションのダイナミズムの多様性が浮かび上がることが予想される。
2021年度はこれらのうち、秋、冬に2回研究会を実施して、「妊娠・出産」「家族計画と中絶」「産後・哺乳」の研究会を開催する計画である。次年度は、(5つの柱を展開して)「不妊と生殖技術」「養子」「出生前検査と障がい」の研究会開催を予定している。

【館内研究員】 諸昭喜、松尾瑞穂
【館外研究員】 磯部美里、木村美也子、小浜正子、澤田佳世、嶋澤恭子、菅野摂子、二階堂祐子、幅崎麻紀子、洪賢秀、松岡悦子、姚毅
研究会
2021年11月6日(土)9:00~12:00(ウェブ開催)
嶋澤恭子(神戸市看護大学)「妊娠・出産(ラオス)」
諸昭喜(国立民族学博物館)「妊娠・出産(韓国)」
姚毅(東京大学)「妊娠・出産(中国語圏)」
松岡悦子(奈良女子大学)「妊娠・出産(インドネシア)」
小浜正子(日本大学)「妊娠・出産(中国)」
曾 璟蕙(奈良女子大学)「妊娠・出産(中国語圏)」
安 姍姍(中国・江南大学)「妊娠・出産(中国語圏)」
磯部美里(国際ファッション専門職大学)「妊娠・出産(中国タイ族)」
ディスカッション、次回の予定
2022年1月22日(土)10:30~19:00(国立民族学博物館 第4セミナー室 ウェブ開催併用)
嶋澤恭子(神戸市看護大学)「妊娠・出産(ラオス)」
小浜正子(日本大学)「避妊・家族計画と中絶(中国)」
澤田佳世(奈良女子大学)「避妊・家族計画と中絶(日本)」
幅崎麻紀子(埼玉大学)「避妊・家族計画と中絶(ネパール・ブータン)」
嶋澤恭子(神戸市看護大学)「産後・哺乳(ラオス)」
菅野摂子(明治学院大学)「避妊・家族計画と中絶(日本)」
木村美也子(聖マリアンナ医科大学)「障害児の養育とサポート(日本)」
ディスカッション
2022年1月23日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室 ウェブ開催併用)
諸昭喜(国立民族学博物館)「産後・哺乳(韓国)」
幅崎麻紀子(埼玉大学)「産後・哺乳(ネパール・ブータン)」
曾璟蕙(奈良女子大学)「産後・哺乳(中国語圏)」
安姍姍(中国・江南大学)「産後・哺乳(中国語圏)」
松岡悦子(奈良女子大学)「哺乳(日米)」
ディスカッション
次回3月13日(日)と次年度の予定
2022年3月13日(日)10:30~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室 ウェブ開催併用)
開会、自己紹介等
久保裕子(東京大学大学院博士課程)「フィリピンにおける妊娠期の喪失と家族計画」
昼休憩
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「インドの第三者が関与する生殖とドナーの選別」
二階堂祐子(国立民族学博物館)「障害のある女性の語る産むことと人工妊娠中絶」
戸田美佳子(上智大学)「中部アフリカのカメルーンの障害者とコンゴの森の女たち」
曾璟蕙(奈良女子大学):コメント・全体のディスカッション
次年度の計画
研究成果

新型コロナウィルスの感染拡大で共同研究会の計画が非常に困難であったが、10月から開始した初年度に3回(うち1回は2日間にわたって)の研究会を開催することができた。
第1回研究会では、韓国、中国、中国少数民族、台湾、インドネシア、バングラディシュなどの現在の出産の動向、例えば出生場所や介助者とそれをめぐる政策、麻酔分娩や帝王切開など出産の医療化、出産費用、出生前検査、優生思想に関する報告と議論をおこなった。
第2回研究会では、避妊・家族計画と中絶、産後の過ごし方、養生、哺乳にテーマを設定して開催した。ネパールとブータンの避妊・家族計画、中絶の最前線、出生前検査と障害観、日本における人口研究とリプロダクション、日本の出生前検査や中絶における夫婦の決定や同意、日本の障害児の養育とサポート、韓国やネパール、中国、ラオスの産後の養生、台湾の母乳政策、日米の授乳など、アジアのリプロダクションの様々な局面について議論した。
第3回研究会では、2名の招聘講師を招き、フィリピンの妊娠期の喪失、アフリカ・熱帯雨林における共同養育と障害者ケア、インドの生殖技術、日本の障害がある女性の産む/産まない、という多岐にわたるテーマを深めることができた。